11 ヒッポリアスの狩りと家

 ヒッポリアスの家の完成まで製作スキルの発動開始から四十分ほどかかった。

 準備段階の鑑定スキルや石集めなども入れると、一時間以上かかっただろうか。


「ヒッポリアスできたぞ」


 そう言いながら、俺は周囲を見回してみたが、ヒッポリアスはいなかった。

 製作スキル中は、スキルに集中しているので、周囲の変化に気づきにくいのだ。


「あれ、ヒッポリアスはどこ行った?」

「テオさんが製作スキル使い始めたころに、どこかに走っていきましたよ」


 ヴィクトルが教えてくれた。


「そうか。トイレにでも行ったのかな」


 トイレにしては長すぎる。

 だが、ヒッポリアスにも色々事情があるのだろう。

 それにヒッポリアスはとても強いので、心配は不要だ。


「テオさん、中を拝見させていただいても?」

「ああ、もちろんだ」


 ヴィクトルや冒険者たちがヒッポリアスの家の中へと入っていく。

 冒険者たちも必要な量の木を切りおわって疲れて休んでいたのだ。

 ケリーたち三人の学者も中に入っていった。


「立派な扉ですね」

「ああ。ヒッポリアスが出入りするための扉だからな」


 ヒッポリアスの家の扉は両開きの大きなものだ。

 そして、扉はヒッポリアスが口で開けられるようにしてある。


「中は綺麗で広いですね」

「集会場みたいだな!」


 冒険者たちがヒッポリアスの家の中を楽しそうに見て回っている。

 板張りの床。太い梁。窓には大きな板ガラスだ。


 大きな天井と屋根を支えるために、四隅以外にも柱を建ててある。

 とはいえ部屋の中に柱を建ててはヒッポリアスが窮屈になってしまう。

 だから壁に埋め込む形で柱を並べてあるのだ。


 壁も冒険者用の宿舎に比べたら分厚くなっている。

 すべては大きな天井と屋根を支えるためだ。


 みんなにヒッポリアスの家の構造について説明していると、

「きゅうきゅうきゅう!」

 外からヒッポリアスの声が聞こえて来た。


『ておどーるどこー。どこー』

 加えて寂しそうに呼びかけて来たので、俺は急いで外に出る。


「ヒッポリアス、どうした? トイレか?」

「きゅきゅう」


 ヒッポリアスは鳴きながら俺の体に腰辺りを押し付ける。

 ヒッポリアスは口に大きな猪が咥えている。

 その猪は体長は三メトルぐらいある巨大なものだ。


「ヒッポリアス。ご飯を採りに行って来たのか」

『そう。ひっぽりあすのいえつくったら、ておどーるがおなかすくとおもって』

「ありがとう、すごく嬉しいよ、お腹空いてたところなんだ」

「きゅっきゅ!」


 ヒッポリアスは嬉しそうに鳴く。

 そんなヒッポリアスに咥えられた猪はまだ生きている。


「ぶぼおおおぶぼおおお」

 猪は大きな声で鳴きながらもがいている。活きのいい立派な猪だ。

 もがいても、ヒッポリアスがしっかり咥えているので逃げられないようだ。

 やはりヒッポリアスの顎の力は相当なものだ。


 猪の声を聞いて、ヴィクトルや冒険者たちがみんな出てくる。

 だが、真っ先に出て来たのはケリーだ。


「おお、猪! これが新大陸の猪!」


 興奮しているケリーは放置して、

「とりあえず、夜ご飯にするための処理をしようか」

 俺が作業に入ろうとすると、冒険者たちが言う。


「そのぐらいは俺らに任せてくれよ!」

「そうそう、テオさんは建築で大活躍だったからな!」

「みんなも木を集めるので疲れただろう?」


 そう言ってみたのだが、

「いやいや、テオさんの建築ほどじゃないって」

「ああ、優秀な製作スキル持ち百人分の仕事と言っても過言じゃねーよ」

「テオさんがすげーとは聞いてたけど、ここまでとは思わなかったぜ」

「勇者パーティーの何でも屋ってのは伊達じゃねーんだな」

 みんながそう言ってくれる。


 さすがにそこまで褒められると照れてしまう。


「じゃあ、猪の処理はみんなにお願いするよ」

「そうしてくれ」


 冒険者たちがとどめを刺したのを確認して、ヒッポリアスは地面に猪を置く。

 その猪を冒険者たちは処理していく。

 さすが、みな一流の冒険者なだけのことはある。手際が見事だ。

 血抜きのための作業と、毛皮をはぐ作業を連携して実行していく。


 そして俺は、ヒッポリアスに家を案内することにした。

「ヒッポリアス。家の中を見せてあげよう」

「きゅっきゅ」

「扉は口で開けられるようになっているんだ。開けてみてくれ」

『きゅう。あいた!』


 扉を開けると、ヒッポリアスはこっちを見て嬉しそうに尻尾を振る。

 俺はヒッポリアスの頭を撫でる。


「それはよかった」

「きゅ」


 ヒッポリアスは中に入る。


「きゅうぅう」

「どうだろう? 狭いか?」

『せまくない!』


 ヒッポリアスは家の中をぐるぐる回って匂いを嗅ぐ。

 それが済むと、床に横たわって、ごろごろ転がる。


「ヒッポリアス。家具を作るのはこれからなんだ。寝床とか希望があったら言ってくれ」

『ゆかきもちいい』

「それならよかった。気持ちよく眠れそうか?」

『テオドールもここでねる』

「ん? 俺にもここで眠ってほしいのか?」

『ほしい』


 家具がない以上、どこで寝ても大差ない。

 なんなら、ここに俺のベッドを置いてもいいだろう。


「それじゃあ、俺もここで寝ることにするかな」

「きゅうるきゅる」


 すると、ヒッポリアスは嬉しそうに鳴いて、俺に身体を押し付けて来たのだった。

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