10 ヒッポリアスの家づくり

 ヒッポリアスの家を建てる前に調べなければいけないことがある。


「ヒッポリアス、木を置いてこっちにこい」

『なに~?』

「少し調べさせてくれ」

『きゅる。わかったー』


 俺は改めてヒッポリアスを、直接触ってしっかり調べる。

 手触りはぺたぺたしていた。


「木をたくさん集めて、汗をかいたんだな」


 皮膚の下には分厚い脂肪があるようだ。

 脂肪が体温保持を司っているのだろう。


「暖かい季節はともかく、冬になったら寒そうだな」

「きゅ?」


 ヒッポリアスは俺に触られることが嬉しいのか、機嫌よく尻尾を振っている。

 ついには頭をこすりつけて来たので、ついでに顔も調べる。


「口開けて」

「きゅおーん」

「口大きいな。ここら辺はカバと同じか……」


 だが、牙が短い。

 俺の知っているカバの牙はとても長かったはずだ。


「海カバの牙は小さいのか?」

「これは子供だからだろうな」


 いつのまにかやって来たケリーが言う。

 俺と一緒にヒッポリアスの口の中に手を入れた。


『ふしゅー』

「ケリー、ヒッポリアスが嫌がってるから口の中に手を入れないでくれ」

「おお、これはすまない」


 たいして気にした様子もなく、ケリーはヒッポリアスの口から手を抜いた。

 そして頭をペタペタ撫でる。


「これはカバではなく、地竜の幼体と成体の見分け方なんだが……」


 そういってケリーは地竜の豆知識を教えてくれた。

 角の形状や尻尾の形が違うらしい。


「なるほど。ヒッポリアスはまだ子供だったか」

「きゅう?」

「体が大きくなってもいいように、大きめに家を作ったほうがいいな」


 竜の成長は遅い。

 だから成長を気にして家を大きくしなくてもいいのかもしれない。

 だが、念のためだ。


「大きな家にして、断熱性能を高めた方がいいかな」


 毛がないヒッポリアスが隙間風で風邪をひいたら困る。


「冷たい海の中でも暮らしているはずだし、大丈夫だろうよ」


 そんなことをケリーが言っているが、念のためにあったかい家にした方がいいだろう。


 俺はヒッポリアスの家を精確にイメージする。

 体長十メトルあるヒッポリアスの家だ。一辺三十メトルはほしい。

 天井も高い方がいいだろう。

 扉もヒッポリアスが楽に通れるぐらい大きくなければなるまい。


 床も重いヒッポリアスに対応しなければならない。


 かなり木材を消費する。

 だがヒッポリアスが沢山木を集めてきてくれたので何とかなる。


「ヒッポリアス。石集めを手伝ってくれ」

『わかった!』


 俺は石を集める。

 宿舎を作る際に使うために、周辺の石はほとんど集めてしまっている。


 だから少し離れた場所から石を集めておく。

 石集めは、ケリーたち学者たちとヴィクトルなども手伝ってくれた。


「ありがとう。これだけあれば充分だ」

「きゅ」「役に立てたならよかったですよ」


 ヒッポリアスとヴィクトルは笑顔を浮かべる。

 そして、地質学者は石にも興味を持っているらしい。

 真剣な目で観察していた。


「火山岩が多いですね。近くに火山があるのやも」

「あの山か?」


 遠くに見える頂上が冠雪した高い山を、魔獣学者のケリーが指さしていた。


「可能性はあります」

「山に住む魔獣も調べたい。今度行こう」

「ああ、気候も調べたいですね。俺も行かせてもらおう」


 気候学者もそんなことを言う。学者たちが楽しそうに山を調べる計画を立て始めた。


「調査は拠点が完成し、生活が安定してからですよ。しばらくお待ちください」


 ヴィクトルが笑顔でたしなめる。

 学者だけで調査に向かわせるわけには行かない。

 どんな魔物がいるかわからないのだ。

 冒険者たちでパーティーを組んで派遣する必要がある。

 だが、冒険者たちは拠点づくり、生活安定化のための貴重な労働力でもあるのだ。

 そう簡単に遠方調査は実行できない。


「わかっているさ。しばらくはヒッポリアスと近隣の生物を調べるだけで我慢するよ」

「ご理解感謝します」


 ヴィクトルと学者たちの話が終わるころには石は集まった。

 石も建材としては使いやすいのでいくらあっても困らない。



 材料が集まると、俺はいつもの通りすべての材料に鑑定スキルをかける。

 脳内に流れ込む大量の情報を、全力で集中して把握する。

 非常に疲れるが、気合の入れどころである。


 材料の鑑定が終わると、次は製作スキルのためのイメージ構築だ。

 宿舎よりも、ヒッポリアスの家はずっと大きいのでイメージするのも大変である。

 しかも気密性を高くする必要があるので、さらにイメージを精密にしなければならない。


 イメージが固まると、次はいよいよ製作スキルの発動だ。

 魔力を大量に使って、一気に下から作っていく。

 土間では雨の時にドロドロになりそうなので、板の間にする。

 そこまでは宿舎と同じ。


 だが、今回はヒッポリアスの重い体に耐えきらないといけない。

 構造自体を変える必要がある。


 冒険者の宿舎は、柱をいくつか建てて、床は地面から浮かしてある。

 その方が雨に強いし、湿気などにも強いからだ。

 床が浮いている構造は、快適なのだが、ヒッポリアスの体重を支えるのは難しい。


 まず地面の土をある程度固めて、その上に石を敷き詰める。

 製作スキルを使って、石を平らに加工するのも忘れない。


 石を敷き詰めた後、原木を加工した板を並べて床にする。

 そこからは基本的に、宿舎と同じ手順である。

 壁を作り、天井を作り、屋根を作る。


 大きなヒッポリアスが快適に過ごせるよう、宿舎より広いだけでなく間仕切りがない。

 それゆえ、天井と屋根を支えるために梁を頑丈に、多めに配置する。

 本当は木よりも軽い金属の梁を使いたいのだが、今はないので仕方がない。

 念のために上に行くほど、軽くて頑丈な木を選んで使っていく。


「よし、これでよしっと」


 ついにヒッポリアスの家が完成したのだった。

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