Part4:急激レベルアップの秘密はあの人物の献身があった!?

 はいお待たせしました、続きをご覧下さい。


 勇者パーティーが4人でこの村に滞在していた際は宿屋に部屋を取っていたんですが、何と会計を任されていた女僧侶がパーティーのお金を全て持ったまま転移魔法ランランルーで移動しちゃったので、勇者ちゃんの手持ち資金はゼロだったんですよねー。

 こればっかりは私の仕込みではないです。そこまで鬼畜仕様にするつもりはなかったんです本当です信じて下さい。


 ので、今現在勇者ちゃんはこの老婦人のご厚意に甘えている状態です。ですが村の外で狩った魔物の死体を全て老婦人に渡しているので、実際は宿屋で泊まる以上の代金を支払っているようなものなのですが。

 で、この老婦人ですよ。毎日のように勇者ちゃんが魔物の死体を持って帰って来るからね、骨や皮などの素材になる部位は全て売っているんですが、肉は料理に使っちゃうんですね。実はこれが、勇者ちゃんの急激レベルアップの秘密だったのです。


 普通はね、魔物の肉なんてそうそう食べられないんですよ。食べない、じゃなくて食べられない。特にこの周辺の強力な魔物はね。魔物に負けないくらいのステータスを持っている村人達ですが、だからといって勝てるという意味ではないんですよ。

そもそもそんなにバッサバッサ倒せる相手じゃないし、単純に食べる物は別で用意した方が早いしね。勇者ちゃんは一人ぼっちになって、後に引けなくなってしまった、言わば手負い状態だからこそバッサバッサ倒せた訳で。


 ただでさえ魔物。身体に魔素を蓄えている訳ですから、そりゃあバクバク食べればその分強くもなりますよ。

勇者ちゃんと毎日一緒に食べている老婦人なんてね、この1ヶ月で見た目がめちゃくちゃ若返ってんの。顔の皺なんて一つもなくなってトゥルットゥルだし、曲がってた腰も伸びてね、もう見た目だけで言えば老婦人じゃなくて奥様ですよ。あ、旦那さん亡くしてるから未亡人か。

 夜な夜な勇者ちゃんの部屋の扉の前に立って、ノブに手を掛けようかどうか迷った挙句に自分の部屋に戻るというのを繰り返してますよ。若返った身体を持て余してる訳ですよ。勇者ちゃん貞操の危機!


「今日もおいしいです」


 そう言って、老婦人(未亡人)(めちゃくちゃ若返った)に笑顔を見せる勇者ちゃん。でもその笑顔はどこか寂し気で。


「そうかい、そりゃ良かったよ」


 老婦人の母性本能をくすぐる訳ですね。

 勇者ちゃんは17歳。老婦人は66歳。49歳差のこの男女に、幸せは訪れるのでしょうか!?


「ねぇ、ゼノ君。もういいんじゃないかい? あんた1人を置いて、他の3人はどこかへ行ってしまったんだろう?

 詳しい事情を言う必要はないけどね、あんたの様子を見ていると私は辛くて辛くて堪らないんだ。

 そのっ……若い頃の爺さんを思い出すようでね。

 そんなに思い詰めるのはもう止めてさ、この村でゆっくりと生きて行くのは、どうだい?」


 私と2人で、ねっ? という言葉が続きそうな雰囲気ですが、老婦人はここで口を閉ざしてしまいました。いくつになっても女性は女性という事でしょうね。魔物の肉のおかげですっかり若返ったピチピチの肌をほんのりピンク色に染めて、老婦人は勇者ちゃんの返事を待っています。

 さぁ、勇者ちゃんの返事はいかに!?


「いえ、俺は魔王を倒す為にここにいるので。その目的がなくなったら、何の為に旅を続けて来たのか、分からなくなってしまうんです。

 旅を止めてしまったら、俺は……」


 声が上擦って、勇者ちゃんは顔を伏せてしまいました。その両目にはキラリと光る何かが写ります。

 そうですね、勇者ちゃんの言う通りです。今止めてしまったら、辛い辛い旅の末に幼馴染を寝取られて置いて行かれた超絶不幸な男になってしまいますもんねwww

 しかも49歳年上のお姉さん()に食べられる可能性まであるという。いくら見た目も身体も若返ったとはいえ、49歳年上という事実は覆らないですからねw


「っ、ゼノ君!!」


 老婦人が勇者ちゃんへ手を伸ばしますが、勇者ちゃんはさっと立ち上がって躱してしまいました。老婦人の気持ちを知ってか知らずか、罪な男ですね。


「今日はいつも以上に疲れていまして。少し早いですが休ませてもらいます。

 ご馳走様でした、いつもありがとうございます」


 丁寧に頭を下げて感謝の気持ちを述べ、与えられている部屋へと歩いて行きます。勇者ちゃん、老婦人の顔をちゃんと見れない様子ですね。何か思うところがあるんでしょうか。

 バタンっ、勇者ちゃんが部屋へと入ってしまいました。老婦人の想いを遮断するかのように立ち塞がる扉。届かなかったその手を握り締め、老婦人は立ち上がります!


 この想い、受け入れてもらえなくても、せめて届けたい! 例えどんなに歳が離れていようと、想いを告げる事は出来るはず!! さぁ行こう、愛してしまった男の胸へ飛び込めババァ!!!

 ガチャっ、おおっと部屋には誰もいない! すでにもぬけの殻だ!! 何故だ、何故なんだ勇者ちゃん!!?


「ゼノン、くんっ……!!」


 今度は老婦人が膝から崩れ落ちる番なのかーーー! 自分がされた事をそのまま人にしてしまう勇者ちゃん!! これは炎上不可避であります!!!


 一体勇者ちゃんはどこへ行ってしまったというのか!?

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