序章 -4-
亜霊の発生場所が町の外であったこともあり、施設の復旧はすぐに執り行われた。
亜霊の潜伏していた洞窟や被害のあった地域の環境は跡形もなく灰化していたものの、徐々にもといた環境生物が戻ってきたことから、これ以上の騒動は無いだろうと国外生物研究所は結論付けた。
元々行う予定だった分も含めて大規模な被害者の捜索が夜通し行われたが、これといった成果が得られることはなかった。亜霊の力で霊力が吸われて消息不明となった者は、持ち物も全て霊力が失われ灰になってしまい、なにも見つからないという結論だった。
そして恩霊祭の日が訪れた。
普段の恩霊祭と同じように行えるわけもなく、各町にて戦死者の追悼が行われることになった。
この日の朝には失踪した人間の生死を決定することに決まっていた。
ヴォルカスもまた夜通しで捜索していた。
死んではいないかもしれない、どこかで動けずにいるかもしれない、まだ形を保っているかもしれない、そんな気持ちを消し去ることができぬまま。
しかし無情にも日は昇り、ヴォルカスはそれを見上げた。
「…現実を受け止めろと言うことですか…」
問いかけられた太陽はなにも言わずに光を強める。
分かっていたことだった。
この島の隅々まで大規模捜索されているのだ。
戦死者は国全体でわずか10数名、リオレンでは一人、ヒータだけだった。
夜中の不意の脅威、兵団員が丸々死んでいてもおかしくはなかったことだと誰もが口を揃えて言っていた。
ヴォルカスはふと足元を見た。
灰も砂も見分けがつかない。死とはそういうものだと悟った。
「前に進もうと後にさがろうと、灰にはただ歩いてるようにしか見えないのだろうな…。」
ヴォルカスは町へ戻った。
恩霊祭と言えど町に活気はなく、早朝から町中央に建てられた石碑に祈りを捧げる人が絶えなかった。
ヴォルカスが町に帰ると数人の子供が待ちわびていたようで、すぐに駆け寄った。
「ヴォルカスさま、みんなに元気がないのです。
元気にしてください!」
「おかーさんも、おとーさんも!」
まだ人の死に直接触れたことのない、10歳にも満たない子供たちだ。
「…君たち、この前の亜霊のことは聞いているかな?」
ヴォルカスは優しく語り始めた。
「うん、すごいこわいのがいたって。」
「そう。町の真ん中にある石碑…石にはね、その亜霊から町のみんなを守ってくれた人が眠ってるんだ。」
「ねてるの…?」
「うん、そして、もう目は覚まさない。
君たちはまだ会ったことがなかっただろう。私も数えるほどしか会っていないが、彼は町の、いや国のみんなにとても大事な人だったんだよ。」
「ヴォルカスさまもかなしいの?」
「…うん。とってもね。」
「泣いちゃう?」
「一杯泣いたよ。ずっと、ずっと泣いてた。」
「そっか…。」
「みんなで石碑に行こう。お祈りするんだ。」
ヴォルカスは子供達の背中を押して石碑の元へ向かった。
「ヴォルカス様、お戻りになりましたか。時間がありませんぞ。」
待ちわびたように神官が迎えた。
「あぁ、少し、もう少しだけ時間をくれ。
さぁ行くよみんな、他の子供達もおいで。」
無垢な子供達はヴォルカスと共にいることが誇らしく、嬉しかった。しかしそれ以上に町の悲しい雰囲気に寂しさを覚えていた。
石碑の側まで行くと、たくさんの花が供えられていた。
「きれい…」
一人の子供が思わず呟いた。周りにいた大人は少し顔をしかめたようにみえた。
ヴォルカスはというと、とても優しい顔をしていた。
「そうだね。とても綺麗だ。
僕たちはどうしても笑顔になれないから、まだそれはできないから、代わりにきれいなお花をお供えするんだよ。さぁ、祈ろう。ヒータ ライオが安らかに眠れるように。
目を瞑って、このきれいな花々がたくさん咲いてるところを想像するんだ。」
子供の創造力は豊かだった。その子供達からヒータに届けられた祈りはさぞかし色合い豊かな物だったであろう。
ヴォルカスはこのときに一滴の涙を流した。
その涙を最後の悲しみとすることを心に誓った。
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