第5話 ゲーム 05
部屋の中央で腰を下ろそうとしていた小寺は、腰を抜かしたみたいにストンと尻餅をついて、そのまま床に倒れた。
生野が振り向いてモニターの前を離れると、画面には『Error』と表示されていた。
そして、誤った答えが入力されたことにより、タイマーの表示が『01:24』になった。
ゲーム開始から約1時間……残り4人。
「うそ……なんで? 絶対正解だと思ったのにー!」
乾が声を上げた。
「間違って……いたのか……?」
角田は床に倒れ込んだ小寺を見ながら呟いた。
逢坂は何もを言わずじっと小寺を見ているだけだった。
「とりあえず、おじいさんを運んだらどうかしら?」
生野が冷静な口調で角田に告げる。
「んあ? ああ、そうだな……」
角田が小寺を抱えて最初の2人を寝かせた場所へと運んだ。そして、4人は再び画面中央あたりに集まり座った。
「あの……さっきの話なんですけど……」
腰を下ろした生野に逢坂が声を掛けた。
「さっきの話って?」
「おじいさんが、なぞなぞの話をしたときに、“しかく”に惑わされるなって言ってましたよね?」
「ええ。確かにリドルはそう言っていたはずよ」
「ちょっと気になったんですけど、しかくに惑わされるなっていうのはヒントってことでいいんでしょうか?」
「助言と言っていたから、そうなんじゃないかしら」
「しかく……ねぇ。しかくって言ったら四角形のことかなー? あっ! でも試験に合格するともらえるやつもあるのかー」
乾が頬に人差し指を当てながらあれやこれやと考えを巡らせている。
「おいおい、本気で言ってるのか!? 単純に考えたら五感の視覚のことだろ」
「ああ……五感ね、うんうん、そうだよね。ごかん……ごかん……?」
「あなた、ほんとにわかってるの? 一応聞くけど五感のうち視覚以外の4つは何か聞いてもいいかしら?」
生野に尋ねられると、乾の挙動が見るからに怪しくなった。
「えっ!? えーっと……」
「えっと、聴覚、嗅覚、味覚、触覚ですよね」
「そうそう、それそれ」
答えられない乾を見かねてか、逢坂が助け舟を出すとすかさず同意した。
そんな乾を見て角田と生野が同時にやれやれと深い溜め息をついた。
「でも、どうして五感の視覚だと思うんですか?」
「ん? 特に理由はないが直感的にそう思っただけだ。――リドルは『しかく』に惑わされるなと言ったんだろ? この問題の中で形の四角や資格試験の資格が人を惑わすってのは無理があると思わないか?」
「たしかに……言われてみるとそうですよね……」
逢坂2度ほど首を縦に振って、
「となると……視覚にとらわれるなというのは、見た目に騙されるなってことでしょうか?」
「見た目に騙されるな……ね、そう言われて思いつくのは、数字マジックかしら」
生野が顎に手を当てて呟いた。
「マジック……? 手品?」
乾がその呟きに耳聡く反応し、前のめりになった。
「ここで言う数字マジックは錯覚のことよ。でもまあ、目の錯覚を利用した手品だってあるからまったく違うわけではないわね」
そう言うと、乾が照れながら後頭を掻いた。それを見た逢坂が「別に褒めてないと思いますけど」と小さくツッコミを入れた。
「で、その数字マジックというのは何だ?」
角田が先を促す。
「人間の目――というより脳かしら? まあとにかく、人の認識能力というのは結構単純にできていて、簡潔で理解しやすいものから順番に認識していくとうい特徴があるのよ。例えば数字の表記には、国や地域によって様々な種類があるわよね? それで、1枚の紙に多種多様なたくさんの数字が書かれたものを見せられたとするでしょ? そうすると人間は、自分が普段使っている言語、サイズが大きい、目立つ色、これらの要素を含む数字を1番最初に認識するようにできているのよ」
「まぁ、当然だな」
角田の言葉に、乾と大和が首を縦に振った。
「そう、当たり前……だけど、わかっていても騙されてしまう。だから錯覚なのよ。例を挙げましょうか?」
「聞こうか」
角田が挑戦的な態度で腕を組んだ。
「スーパーなどで扱っている商品の中に、まったく同じ商品で本体と詰替え用と2種類の商品展開をしている物があるでしょう?」
「あ! 洗剤とかシャンプーでよく見るやつだね」
「そう。じゃあ、あなたたちは買うとしたらどちらを買うかしら?」
「うーん。あたしは買い物しないけど、ママはよく詰め替え用買ってるかも」
「ボクのお母さんも詰め替え用が主流ですね」
「俺も最初は本体を買うが、その次からは詰替え用だな」
生野の質問に対して、3人が順に答えた。
「理由は?」
「それは安いからに決まってるだろ?」
角田が答えた。
ほかの2人は、自分で買い物をしないという理由でその質問に答えなかった。
「予想どおりの答えね」
生野が軽く笑みを浮かべる。
「どういうことだ?」
角田が片眉を上げた。
「たしかに、大半の商品は詰替え用のほうが安く設定されているいわ……けど、詰替え用が安いのは当たり前……なぜなら内容量が少ないんですもの」
「え!? そうなんですか!?」
大和が驚きの声を上げる。
「もちろん同量に設定されているものもあるわよ。ただしほとんどの商品は詰替え用のほうが内容量が少ない。さっき、安いから詰替え用を買うって言ったけど、実際には1ミリリットルあたりの値段を計算した上でその2つを比較しないと本当に安いのはどちらになるかわからないということよ」
「それって、お店の人がだましてるってことー?」
「いいえ、そうじゃないわ。ほとんどのスーパーではプライスカードに商品の値段と内容量が記載されている。ただし、値段の数字だけが大きく目立つ色で表示されているのよ」
「なるほど、つまり俺は最初に飛び込んできた数字。つまり値段だけで判断してしまっていたということか」
「そうよ。でもそれはあなただけじゃなく、大半の人がそうしているって話。――でも、詰替え用の商品にはエコという目的があるからそれはそれでいいのよ。ただ、安さを追求するならって話よ」
「ふむ……さしずめ、環境には優しいが、懐には優しくないと言ったところか」
「ああ! うまいこと言った!」
乾が囃し立てるように指差すと、角田の表情がほんの少し赤くなった。
「でもまあ、それを確認するためにもここから出なきゃですよね」
「そうね」
逢坂の言葉に同意した生野はタイマーが設置されている部屋の上方に目を向けた。
タイマーの表示は『01:03』。
「あれぇ?」乾が腕を組んで首をひねる。「そういえば、あたしたちなんの話してたっけ?」
「錯覚ですよ。見た目に騙されるなってやつです」
「どうやら余計な話をしてしまったみたいね」
「じゃ、話を本題に戻そうか」
角田が腕を組んで考え込む。
「ほかの感覚を使って問題を解けってことでしょうか?」
「違うんじゃないかしら?」
「どうしてそう思う?」
「さっきも確認したけど、五感から視覚を除いたら、残りは聴覚、嗅覚、味覚、触覚よね。これが問題を解く鍵になっていると思う?」
角田と逢坂は反論できずにいると。
「あるよ――」
異を唱えたのは乾だった。
意外な人物の反論に、3人は驚きつつ乾を見るも、
「超能力だよー」
その言葉を聞いて、3人は同様にがっくりと肩を落とした。
「どっから出てきたんだ、そのとんでもな発想は……」
角田が呆れたように尋ねた。
「え!? 知らないの!?」
乾が手を口元に当てて、わざとらしく驚きを表現する。
「――第六感だよ!」
「五感をちゃんと答えられなかったのに、六感の存在は知ってるんですね……」
逢坂が呟く。
「で? 超感覚的知覚を使ってリドルの心を読んで答えを当てろ、とでも言うのかしら?」
「ちょう、かん……? なに、それ?」
乾が首を傾げると、
「あなたが言った、第六感のことよ」
生野がため息混じりに説明した。
「バカバカしい。そもそも超能力などあるはずがないだろう?」
逢坂がうんうんと角田に同意し、乾は「えー」と不満を顕にした。
「そうね。この問題を超能力を使って解けということはありえないでしょうね――」
角田が「だろ?」と相好を崩すも、
「――けど、超能力があるかないかは別問題よ」
そう反論を受けると、直ぐに眉を顰める。
「なに!? まさか超能力者が存在すると思ってるのか!?」
「いるかいないかは別にして、少なくとも絶対に存在しないことを証明できない限り、いないとは言い切れないでしょ?」
「まぁ、それは……そうかもしれんが……」
角田は納得いかなさそうだった。
「あ、あの! ……そろそろ本題に戻りませんか?」
逢坂が申し訳なさそうに声を上げると、生野と角田は顔を見合わせ、
「そうだな、また脱線するとこだった」
4人は議論を再開した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます