出発

 あれから5年が経過した。5年間で僕たちの孤児院にはいろんな人が訪ねて来た。


 例えば勇者を信仰する宗教団体の人。例えば、魔王を殺して自分が魔王になりたい魔族の女。それはそれは色んな人が来たが。みんな返り討ちにあった。


 院長の手によって。

 それを知ったのはつい昨日のことだ。


 何が、戦ったことが無いだよ。嘘つき、ありがとう。


 そんな事も知らずに10年の時を孤児院で過ごした僕たちは身長も伸び少しは成長した。


「おーい。リュクス、早く起きて」

「んー、後10分」

「おい、何言ってるんだよ。出発まであと少しだぞ」

「うぇ〜、分かった〜」

「はぁ、カリーナ。やっぱり僕じゃ起きないから頼んだ」

「はいはい。ほら、起きなさい」


 カリーナはリュクスの事を揺らして起こそうとするが、逆にその揺れが気持ち良くて夢の世界に行きそうになる。


「しょうがないな。ほら、起きて。起きないと燃やすわよ」

「だぁー!!!! 起きた!! 起きたから燃やさないで!!!」

「「おはよう」」

「……おはよう。ねぇ、その起こし方辞めてよ」


 実はこのカリーナの起こし方。2年前に初めてこの起こし方をされたのだが、その時は燃やすわけないと思って無視して寝たのだが、本当に燃やされた。

 髪の毛を燃やされた。今はその傷は無くなっているがあの恐怖は凄まじい。

 その頃からリュクスが起きないと、この起こし方をするのだ。カリーナって勇者なのに容赦ない。


「ほら、朝ごはん食べたら馬車で旅に出るんだから、起きて準備しなさい」

「はーい」


 朝ごはんを食べた僕たちは、出発の準備を始めた。


「リュクスとカリーナは目を隠しなよ」

「それは問題ないよ」

「そうそう。問題ないよ」

「いやいや、問題あるでしょ。2人が魔王と勇者って分かったら面倒だから隠してよ」

「ほら、これならいいでしょ?」


 二人は、紋章が描かれている眼の上に手をかざした。その手を退けると、紋章が消えて今まで通りの眼に戻っていた。


「俺とカリーナは魔王と勇者だよ。『隠蔽』のスキルは持ってるよ。誰にも気付かれないよ」


 5年間で、院長が返り討ちにして来た人数は数知れず、2人の顔を見ようと来た刺客も院長は孤児院に入られる前に撃退しているので、まだ2人が魔王と勇者ということはバレていない。


「おぉ、2人とももうスキル使えるんだね。流石、魔王と勇者」

「まぁね。フォレスはまだ使えないの?」

「うん。魔力の使い方は2人を見てて分かったけど、魔法もスキルも使い方が分からないんだよね」

「だったら、私たちが旅の最中にみっちりと教えてあげるよ」

「え!?」

「そうだね。これで、暇な旅じゃなくなるね」

「あの、程々に頼むよ。それに、旅の目的を忘れないでよ」


 今回の旅の目的はちゃんとある。


「分かってるよ。魔王と勇者。この関係について調べるんだよね」

「本とか遺跡とかを調べれば分かるかな?」

「さぁね。それを調べにいくんだよ」

「おーい。お前ら!! そろそろ行かないと日が落ちる前に次の街に着けないぞ」

「「「はーい!!」」」


 準備した物は全て勇者のスキルにある『収納』に入れて運んでもらっている。


「それじゃお前たち。あまりハメを外すんじゃないぞ」

「うん。分かってるよ」

「リュクスとカリーナはちゃんとフォレスの言う事を聞くんだぞ」

「「はーい」」

「フォレス。2人を頼んだぞ。この2人を止められるのはお前だけだ」

「うん。絶対に2人の喧嘩で村とか街とが壊されないようにするよ」

「約束だぞ」

「うん。約束」


 僕と院長が約束をしていると、2人は少し不服そうにしていた。が、今まで色々とやらかして来た2人それを不服ながらも黙ってみていた。


「それじゃ、院長。行ってきます!!」

「おう。行ってらっしゃい! 頑張れよ!!」

「「行ってきます」」


 そして、僕たちは馬車に乗って森の中を走り出した。御者は僕がやっている。後ろではリュクスとカリーナが魔力をボールのようにして遊んでいた。

 良いな、僕も遊びたい。

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