第2話 可愛いあの子が嫁にきた2
なんとなく学校に行って、毎日家事をして。
俺の人生はこれからもこんなものだろう。
下降することもなければ、上昇するようなこともない。
ただただ平坦な人生。
今が最底辺って?
それは言わないでくれ。
悲しくなるから。
休みの日はいつも妹と過ごしている。
厳密に言えば休みの日だけではなく、基本的に365日ビッシリだ。
だが今日だけ、俺は用事で出かける予定となっていた。
「俺今日出かけるから」
「誰と?」
「察しろ。一人だよ。俺がここ6年間、誰かと遊んだことあったか?」
「ない」
妹は即答した。
思案するまでもなく、脊髄反射で。
みたらし団子を食べながらこちらを見向きもせず。
もう少し考えるふりしてくれた方が、お兄ちゃんは嬉しいんだけどな。
「ま、友達なんていなくても人生どうにかなるわよ。TVでそんなこと言ってたし」
「情報が曖昧過ぎるんだよ! あんたの経験談で励ましてくれ」
「あー……私は仲間が多かったからなぁ」
「ああ、暴走族の」
中学の頃の話らしいが、母親は元々暴走族として大暴れしていた時期があったらしい。
父親も一緒の暴走族で仲良く迷惑行為をしていたらしい。
毎回逃げるのに成功していたから逮捕歴はないらしい。
らしいづくしは全部母親から聞いた話だからだ。
当然、俺はそんな頃に生まれてもいないから確認のしようもないけど。
生前の父親の友達や現在進行形の母親の友達は、見た目はあれな人が多いので間違いない話なんだろう。
というか、この人も見た目があれだが。
「そだよー。でも、本当の仲間は少なかったかな」
「なんだよ、嫌な思い出でもあるの?」
「まあね。裏切られたこともあったし、騙されたこともあった。それで周りに残った本物の仲間は数人。片手で足るぐらいだったよ」
「ふーん」
母親は懐かしそうに、寂しそうに手元にあるコーヒーをかき混ぜている。
「だからさ。友達なんて無駄に多くても意味はない。数人の本当の友達がいればそれでいいんだよ」
「なるほど」
俺は頷きながらコーヒーを口に含む。
「でも数人どころか、俺には一人も友達が見当たらないんだけど、どうすればいい?」
「…………」
母親は気まずそうに視線を逸らした。
「レ、レンタルフレンドとか?」
「やめーい! 寂しさが募るからそんな悲しい提案するんじゃない!」
「スマホのゲームでフレンド登録したら?」
「そんなの友達にカウントされない。あれはフレンドという言葉を使っているだけだし、気に入らないキャラを設定していたら問答無用で縁を切られ、地味にダメージを与えてくる怖い存在なんだぞ」
嘆息する俺を妹がじーっと見つめてくる。
こいつはなんだかんだと言いながら優しいところがあるからな。
俺を励ます言葉を探しているんだ。
ありがとうな、桜。
「諦めたら? お兄ちゃんには無理だろうし」
「…………」
辛辣だった。
励ますどころか、バッサリ切り捨てられたぞ。
お兄ちゃんはそんなに打たれ強いわけじゃないからな。
そんなハッキリ言われたら傷つくんだからな。
「もういい。出かけてくるよ」
「私も行く。お母さんと二人はヤダ」
「桜ちゃわーん! そんなこと言わないでよぉ~」
娘に真っ向から拒否され泣きじゃくる母親。
「いいけど、包丁見に行くだけだぞ」
食事を終え立ち上がろうとしていた妹は、もう一度深々と腰を下ろした。
「やっぱりやめとく。お兄ちゃん包丁見るの長いし。家で本読んでる」
「ええ~お母さんと遊ぼうよぉ」
「ヤダ」
ギャーギャー騒ぐ母親を尻目に俺は家を出る。
「行ってきます」
「いってらっしゃーい。お土産お願いねー」
「私はみたらし団子で」
「帰ったらまた作ってやるよ。じゃあな」
◇◇◇◇◇◇◇
俺は包丁が多く用意されている商店に来ていた。
楽しい料理は包丁から。
包丁が良かったら気分もよくなりいい物が作れる。
いい物が作ればみんな喜ぶ。
みんな喜べば俺も嬉しい。
結局このいい循環を生み出すのは包丁なんだよなぁ。
だからこそ俺は包丁にこだわるのだ。
あまりにも長い時間包丁を見るものだから、妹も一度ついて来たこともあるが嫌になったらしい。
母親がいない時は妹を一人にしないためにもここに来るなんて選択肢はないが、母親がいる時は完全に妹のことを任せて気が向いたらやって来る。
女子が服を見るのと同じようなものだろう。
俺は買うつもりが無かったとしても、こうやって包丁を見に来ることがある。
好きなんだよな。単純に。包丁が。
◇◇◇◇◇◇◇
包丁を見終わったら家に真っ直ぐ帰るだけ。
特にやることもないし、一緒に遊ぶ友達もいないし。
淋しさに鼻の奥がつーんと痛くなる。
楽しそうに遊んでいる人々を見ないように、俺は逃げるように家路を急ぐ。
なんで俺には友達がいないんだろう。
そんなことを思案しながら歩いていると、男が3人、女子に絡んでいる光景が目に入る。
「は、離して下さい……」
「そんなこと言わないでさぁ。一緒に遊ぼうよ」
「この子マジレベル高いよな」
「おう、今までこんなに可愛い子見たことねえよ」
ナンパだ。
困ってるんだからやめておいてやれよと思う反面、なんでそんな簡単に声をかけれるの? ってある意味尊敬の念も抱いたりして。
俺には無理だな、ナンパなんて。
キョドって即試合終了だ。
あきらめたらそこで試合終了なんて言うが、試合さえも始まらない。
とまぁほんのちょっぴりは尊敬できる部分はあるかも知れないが、人間的には尊敬できない。
困ってるんだからほどほどで手を引けよ。
嫌がる女の子を強引に連れて行こうなんて、男の風上にもおけない。
仕方がない。
助けてやろう。
「あのー。すいません」
「ああ?」
「嫌がってるみたいなんで、離してあげてくれませんか?」
俺は男たちの後ろに立ち、声をかけた。
できるだけ穏便に済ますように、男たちの神経を逆撫でしないように。
「嫌がってる? そんなことねえよなぁ?」
「え、あの……」
「ほら、嫌がってねえよ。陰キャは消えとけって」
どう見ても嫌がってんだろ。
怖くて何も言えなくなってるだけだ。
後、陰キャ言うな。
傷つくから。
「いやー、でもですねぇ……」
俺は彼女の表情を窺うことにした。
怖がっているのを落ち着かせてあげるように、笑顔で顔を覗き込む。
「大丈夫だから――」
彼女の顔を見て、俺の心臓の鼓動がピタリと止まる。
落ち着かせてあげるつもりだったのに、逆に心拍を止められた。
なんと彼女は……
冬白川琴菜の顔にそっくりだった。
いや、そっくりというか生き写しだった。
「秋……山……くん?」
いや、生き写しというか冬白川本人だった。
美しい黒髪に大きな瞳。
休みの日なのになぜか制服姿で今日はカチューシャをして、男に掴まれている左腕には青いミサンガをつけていて……
その目元には涙を溜めていた。
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