第9話

居間に行くとクラウディが充電をするでもなく目を閉じてソファに座っていた。

「なにやってるの」

私の声に反応しゆっくりと目を開けると彼女は私を見て言った。

「ネットに接続して情報収集をしてました。私がスリープしてる間やそれ以前の情報を中心に集めています。もちろん最近のニュースなどもです。特に最近は感情について多くの情報を集めてます」

「感情?やっぱり興味あるの?」

「いえ、サニーには感情があるので生活の世話をするにあたって必要だと思ったので」

「ふーん」

生返事をしてクラウディの隣に座りテレビをつける。『破局したオシドリアンドロイド復縁!』そんな見出しのニュースが大々的に放送されている。一体誰に需要のあるニュースなのだろうか。

「家事してないときっていつもそれやってるの?」

「いつもではないですが、頻繁にしてます」

本当に至れり尽くせりで、高性能だ。

「でも正直言うと感情について調べてもしょうがないと思うよ。私たちの感情はプログラムだから」

つけたばかりのテレビを消して話を続ける。

「転んで怪我をしたとき、いくら循環液パイプから赤い循環液が出て、痛いと叫ぼうが、辛い表情をしようが、それは故障を検知したセンサーが信号を中央処理野に送ってそれから故障を周囲に知らせるためにやっていることに過ぎない。周りの人間は大して気にしない。それでみんな口を揃えて言うんだ。『だってアンドロイドには心が無い』って。私たちはプログラムされた感情を持っている。でも心は無いんだ」

別に私の経験談ではない。昔からよく言われる例だ。クラウディは何か考え込んでいる。

「どうしたの」

「その話は人も同じじゃないですか。人も怪我をすると血を流して、痛いと叫び、辛い表情をします。そして怪我を認識した神経が脳に信号を送りそれから怪我を周囲に知らせるためにやっていることに過ぎません。人間とアンドロイドとの違いはなんですか。……心、とはなんですか?」

「それはわからない。不思議なもので、心は人間のほぼ全員が認識していた。でも人類の永遠の命題は『心とは何か』だった。結局人間はそれを理解することはできなかったんだ。だから私も心がなんなのかは、わからない」

しかし確かにそこに存在した人間とアンドロイドとの差異だ。

「さ、クラウディご飯作って」

「……わかりました」

彼女はまだ何か考えているようだった。

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