第7話
私達は電気屋を出て服屋に入った。
「まあ、クラウディの服を買おうと言っても私はセンスがないんだけどさ」
そう。私は服装に無頓着なのだ。普段着ている服もオシャレとは言えない。Tシャツに短パンだ。知っている服装もゴシックというかクラシカルなものばかりだから、あまり現代的な服装ができない。
「でも大丈夫。服屋には店員がいるのだからね。店員さーん」
店の奥から「どうされましたかー」と店員が出てくる。その格好はオシャレそのもの。私ではあれを選ぶことはできないだろう。
「このこの服を買いたいんだけど、私センスないんですよ。だからオススメとか教えてください」
機械達の時代に流行は無い。外見が同じ個体が多くいたからこそ、同じ服装をするのを拒んだのだ。我々は自分たちなりの個性を作り上げようとした。だから周りと違う服装をしたがった。そのため流行は生まれなかった。
店員は「久々のお客なので気合が入ります!」と言ってクラウディを試着室に連れ去った。
その間、私は自分の服を見ることにした。私も流石に季節にあった服装をしたいものだ。私達は体内温度を調節できるので気温などを気にせず服を着れるが、それ故に季節感が無くなりがちだ。道行くアンドロイドを見ると同じ時期でも半袖だったり厚着だったりと混沌を極めている。私もそのひとりなのだが、せっかく服屋に来たのだからそういうのを買ってみてもいいだろう。
秋。秋らしい服装ってなんだろうか。ちょっと地味な自然色とかがいいのかな。わからない。時代も時代なのでファッションに定石はないので、ますますわからないのだ。何もモデルにするものがない。ある意味個性への執着の弊害とも言える。しかしメリットもある。それは服の種類がとにかく多いことだ。ほとんどが一点物だったり、多くても同じものは10着とかだ。大量生産をしないために、服はローカル化した。地域によってかなりファッションの違いが出る。前々時代はこんな感じだったのだろうか。
そんなことを考えているうちにクラウディが帰ってきた。
「おまたせしました。どうですかサニー」
店員がニコニコして後ろに付いている。
「えっ、なにこれ……かわい。」
これは驚きだ。季節感もあり、クールな印象のクラウディにもよく合っている。すごくいいなど言っていると、後ろにいた店員がニコニコしたまま紙袋を大量に渡してきた。
「これは?」
店員は一つ一つ説明してくれた。サイクルできる服の組み合わせや、他とも合わせられる服や小物たちだった。値段はそう高くないので、これだけ買っても気にしないで良いのはとても嬉しい。経済らしい経済がないので、ほとんど原価なのだ。
「サニーが喜んでいるようで良かったです」
クラウディは表情を固めたまま言った。
「私もクラウディがオシャレになってくれて嬉しいよ。さ、帰ろっか」
「はい」
空はもう赤くなっていた。
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