第4話

私は本棚の整理をしていた。巻数とかが揃っていないと気に入らないのだ。

「サニー様、片付けが終わりました」

クラウディが報告にやってきた。

「あ、終わった?じゃあこれに着替えて」

「私の服でございますか?」

「そう」

古着屋で買ってきておいたワンピースだ。サイズが合うといいけど。

「申し訳ございません、サニー様。私は着せ替え機能を搭載しておりません。もし着替えさせたい場合、マニュアルに沿ってお着替えさせください」

まじか。まあしょうがないか。

「そう……。じゃあこっち来て、着替えさせるから」

クラウディは申し訳ありませんと一言添えて私の前に来た。

「えっとまずは、背中のボタンか。懐かしいなあ」

「……」

「昔、まだ人間がいた頃。屋敷のお嬢様の着替えとかよくしてたんだよね。お嬢様は特に私達に優しくしてくれた。別に他の人達が優しくなかった訳ではないけど、所詮アンドロイドだからさ。まあ、機械扱いだったね。……クラウディは大きいね。背が高くて、大人の女性って感じ」

クラウディは前を向いたまま反応した。

「私は部品の小型化が進んでいないため、全体的に大型になっています。大人らしいのはそのボディを誤魔化すためです」

「そっか。え、おっぱい硬いね。人工肌の下がすぐ機械なのか。……確かに私の世代になるとかなり小型化進んだ感じする。はいおっけ。どっか変なとこない?」

「センサーに異常はありません」

クラウディは鏡に映る自分の姿をじっと眺めていたが、表情が変わることはなかった。

「それじゃ行くよ。あれ、車のキーどこ置いたっけ。クラウディ、ガレージで待ってて」

「かしこまりました」


「おまたせ。助手席乗って」

「これは……ビンテージカーですか?」

「クラウディのデータ上でもこれはビンテージカーになっちゃうのか」

「はい。どうして自動運転ですらない車を使ってらっしゃるのですか?」

「私の元主人がこういう車好きでさ。やっぱり一定数手動運転したがる人がいたんだよ。それでいざ自分で運転するようになったらこれが楽しくてさ。今は手動運転車が流行ってて、アンドロイドで運転してるのも多いんだよ」

彼女は理解できていない様子だ。改めて感情という存在の大きさを感じた。

「この前さ、疑問を即座に解決するようにプログラムされてるって言ってたじゃん」

私は運転をしながら話かける。

「はい。ところで話を遮るようで申し訳ありませんが、散歩ではなかったのですか?これでは散歩ではなくドライブです」

ムッ。中々鋭い。

「まあ、それは、言葉の綾だよ。それで、疑問の解決って絶対しなくちゃいけないの?」

「はい。思考ループを防ぐために絶対必要なものです」

これは今後大変になりそうだ。

「じゃあさ、そういう疑問というか不安要素が発生した時はさ、思考の保留をしてみなよ」

「保留、ですか」

「そう。人間の話なんだけどさ。彼らは常に何かしらの不安を抱えていた。私達は指示に従って、プログラムされたように動くだけだから疑問や不安はほとんど生まれない。でも人間は違った。すべての行動を自分で考えて、自分で決めなくちゃいけない。だからこうなったらどうしようとか、こうなったら嫌だなとか色々考えてしまう。でもそれを一々解決しようとしたらキリがないんだよ。だから彼らはその不安を考えないようにした。現実逃避ってやつ」

現実逃避ではなかったかもしれない。

「危険を顧みないわけじゃないんだけど、目を逸らすというか。それについて考えることを留保したんだ。それで他の大事なこととかを考えるようにした。クラウディもそうすればいい。そもそも思考しなければループに陥る可能性もない。ただその疑問、不安を削除しちゃいけないんだよ。なぜかって言うと、削除するとまたその疑問、不安がインプットされちゃうから。保持したまま思考しない。そうすればいいと思うよ」

クラウディは何か考え込んでいるようだった。

「どうしたのクラウディ」

「……疑問を保留するプログラムを書き込みました。今後必要であればこのプログラムを使用します」

そんなこともできるのか。すごいなあ。

そんなことを思っていると目的地が見えてきていた。

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