第2話

相変わらず、B-121は書斎の掃除をしている。

「ねえ、やっぱ名前決めない?」

私は難しい内容の哲学書をパタンと閉じて話を切り出した。

「では、N-3552様がお決めください。私はそのような権限を有しておりません」

「何が良いかな。簡単な方が良いよなあ……」

B-121の古着屋で買ったクラシカルなワンピースドレスは、静かに揺れている。あれってホコリつかないのかな。彼女は私が考え込んでいる間も手を止めることはなかった。

「決めた。クラウディにしよう。クラウディね」

「かしこまりました。クラウディ様」

「違う違う。クラウディは私じゃなくて君ね」

クラウディは一瞬動きを止める。彼女は少し私を見つめ、また視線を戻し掃除を再開した。

「私ですか。かしこまりました。名前を登録します」

「それで、私はサニーね。いい感じでしょ」

「かしこまりました。サニー様」

それも登録するのだろうか。まあプログラムだしそうだよな。というか私もそうだろ。でも世代が違うだけでこんな変わるものなのか。まあでも世代差大きいもんな。

「サニー様。なぜクラウディなのでしょうか」

「だって君暗いというか、無表情でなんか冷たい感じするし。でもレイニーってほど冷たくはない感じがしたから、曇りのクラウディ。私は明るいでしょ。だからサニー」

「はあ、……私は暗いのでしょうか。私は感情がありませんし、表情もプログラムされていません。私はこれが正常であり、暗いというのは正しくないと判断します」

なんか人間みたいなこと訊いてくるな。第2世代のくせに。

「もしかして不満だった?」

「私には感情はありません。不満ではなく疑問です。思考回路のループを避けるため疑問を解決するようプログラムされています」

難しい話をされても困る。私はそんな深い考えではなかったんだけど。

「私から見れば暗く見える。それだけだよ。私と比較したらクラウディは十分暗いでしょ」

「承知しました」

クラウディは箒をはたきに持ち替えて、棚の上を叩き出した。順番が逆な気がする。

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