薬莢(8)

 空の青が輝き始めた頃に、三人は高宮の家へ行った。高宮は今日中に、この家から出なければならない。高宮は手早く荷物をまとめ、リュックを背負い、キャリーケースを一つ引きながら高宮家を後にした。

 日本の文化や社会の仕組みについては、三人の中で、高宮しか知らない。高宮の知識も充分ではなかったが、日本人として利用できる制度を調べて、生活の基盤を作ることにした。勿論、清見と喜与奈の存在は秘密にしたまま。

 高宮は、生活保護を受けることで居住先を確保する。アルバイト先も確保した。三人は、古いアパートで共同生活を始めた。

 清見は、手持ちのスマートフォンを公共無線LANに接続することで、様々な知識を吸収していた。程なくして、パソコンとインターネット環境さえあれば、お金を稼ぐ方法があることに気付く。高宮と喜与奈に相談して、パソコンとインターネット環境を最優先で用意してもらうことにした。

 喜与奈は、高宮に頼んで、こくごドリルを買ってもらった。


 高宮が得たバイト代で、パソコンとインターネット環境を用意すると、清見は瞬く間に収入を増やした。生活保護は廃止されたが、三人の生活が困窮することはなかった。高宮は、清見の能力があれば、一流大学を卒業して、大きな影響力を持つマスメディアに就職し、日本を糾弾できるようになるのではないかと考えた。高宮は既に通信制高校を卒業している。あとは、高宮の戸籍を利用して、清見が大学に入学すれば良い。高宮の提案を聞いた清見は、大学受験のための勉強を始めた。

 喜与奈は、近所の空手道場に通い始めた。


 清見の身長が高宮と同じくらい高くなった頃、清見は王都大学に入学した。目立たないように大学生活を過ごし、王都大学を卒業した清見は、王都放送へ就職する。王都放送の企画会議で、少子対策法の養子が過剰な教育を受けていることを告発するが、編成部長の意見により、清見の取材は捏造であると結論付けられてしまう。清見の取材を支持したのは佐上だけだった。

 喜与奈は、銃火器や爆発物の取り扱いを海外で習得した。


 正攻法で日本を糾弾することはできないと理解した清見と喜与奈の二人は、少子対策法を悪用している人間を、テロリズムで糾弾することにした。高宮がテロに反対することは分かりきっていたため、高宮には一切相談せずに、二人はテロを起こす準備を始める。清見は、官公庁のシステムをハッキングして、少子対策法を利用して人間を買っている人間を特定した。同時に、国王生誕祭の会場準備を委託される企業と、その下請け会社を特定した。

 喜与奈は、清見が特定した下請け会社のうち、外構工事会社と清掃会社の二社を掛け持ちで勤務することにした。


 清見は山梨県の廃校を購入して、住居として利用できるように修繕した。

 喜与奈はアーミーショップでナイフを購入して、使い心地を確かめた。


 清見は、少子対策法を利用して人間を買っている人間の家のセキュリティをダウンさせた。

 喜与奈は、人間を買っている人間を刺殺して、男の子一人を連れ帰った。同時に、沢山の貴金属と記憶媒体、そして、拳銃三丁と弾薬を持ち帰った。

 高宮は、清見と喜与奈から、テロの開始を告げられた。目の前には、喜与奈が連れ帰った男の子。引き返せない状況であることを悟り、高宮はテロを黙認した。


 清見は、喜与奈が死んでしまうことを知っていた。

 喜与奈は、清見が死のうとすることを知っていた。


 清見は、喜与奈から受け取った拳銃を、懐のポケットの中に大切に仕舞った。

 喜与奈は、清見に持たせた拳銃の最後の弾薬から、火薬と雷管を取り除いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る