翻訳家レッスン開始
会社を辞めてしまったので、日本に帰ってから新しい仕事に就かなければなりません。
韓国で働けないかと思い、たまに韓国に在住している日本人向けの求人を見ていました。
インターネットに韓国の情報を紹介している日本人向けのホームページがあって、そこに閲覧者がいろいろなことを書き込める掲示板があります。
その掲示板によく韓国での求人が掲載されています。
しかし、ほとんどが就労できるビザがある人対象の求人ばかり……
その中で、ビザがなくても韓国で働ける求人がありました!
韓国のコンテンツを日本語に翻訳する仕事です。
その代わり、フリーランスです。
お給料は日本の口座に振り込んでくれるから、韓国で仕事しても不法にならないのだそうです。
インターネット環境さえ整っている所ならば、韓国にいても日本にいても、大袈裟に言えば他の国にいても仕事ができるというのが、私にとっては魅力的でした。
求人に掲載されているメールアドレス宛に、語学堂3級程度の学力で翻訳の仕事ができるでしょうか? という問い合わせのメールをしました。
しかし、問い合わせについての回答はなく、説明会があるとの返事。
なので中級程度でもできる仕事があるのかもしれないと思い、説明会に参加することにしました。
会場には二十人くらい集まっていたでしょうか。
私のように大学に留学している人や、結婚して韓国に住んでいる人などなどがいました。
社長以外全員日本人なのに、みんな流暢な韓国語を話します。
みんなすぐにでも翻訳家になれそうだったのに、社長は有料の講座を受けてもらわなければならないと話しました。
有料の講座を受けても全員が翻訳家になれるわけではないそうです。
翻訳家になるためには、日本語の文章力がなければなれないし、テレビ番組に字幕をつける時、本一冊分の決まりごとがあって、それを覚えなければなりません。
バイト感覚ならばあきらめたほうがいい、毎日徹夜しても食べていけるほどお金はもらえない。
体を壊して辞めていってしまう人が多いとのこと。
私は講座を受けてみることにしました。
その時はまだ在学中だったので、インターネットで完全個別指導をしてもらうことになり、月一万円でレッスンを始めました。
まずはドラマのワンシーンの翻訳です。
メールで韓国語のコンテンツが送られてきて、期日までに日本語に翻訳します。
翻訳したものをメールで送ると、同じシーンを翻訳家が日本語に訳したものが返信されてきました。
メールには自分が翻訳したものと翻訳家が翻訳したものをよく見比べなさいとありました。
教えてくれたり添削してくれるわけではありません。
でも韓国語と日本語を自分で見比べるだけの勉強方法なら、すでに世の中に出回っているものなので、自分一人でできるなと思いました。
次はドラマを紹介するホームページを日本語に翻訳するものでした。
それもやっぱり誰かが日本語に翻訳したものが送られてきて、自分で見比べなさいとだけ。
次は漫画の翻訳です。
韓国のウェブ漫画に会員登録をして(有料です)、韓国語のままの漫画と、そのサイトの日本人向けに翻訳したものとを見比べるというもの。
そして漫画を翻訳するためにはPhotoshopのインストールが必要だと言われ、社長と社長のもとで実際に翻訳をしている日本人女性1人、韓国人男性1人、それから私を含めた日本人女性研修生3人が、とあるカフェに集合しました。
みんなが集合するのを待っている間、社長と少し話をした時、私が中級程度の学力しかないことをすごく驚き、翻訳家というのは韓国語をすべて履修した人がなるものだとあきられました。
その時に私は、この人は私のメールの内容なんてまったく読んでないんだなと思い、若干一緒に仕事をしていくことに不安が……
ソフトをインストールしてもらい、全員集合し、ミーティングが始まりまったのですが。
私以外の二人はすでにPhotoshopをインストールしてもらっていたらしく、漫画の翻訳の課題もすでに終わっていました。
ミーティングの目的は、これから動画を翻訳する際に、専用のソフトを購入しなければならないということだったのです。
ドラマやバラエティ番組の翻訳には、日本の会社が指定したソフトを使って字幕をつけていかなければならない。
そのソフトが高いとのことなのです。
実際にそのソフトを使って動画コンテンツに日本語の字幕をつけている日本人女性が、使い方を教えてくれたのですが、その人は永年ライセンスだと高いので、一年単位の購入で使っているのだと言っていました。
一年単位の購入でも、とても高いです……(泣)
まだ翻訳家としてやっていけるかわからないのに、翻訳家でなければ必要ない高価なソフトを買わなければならないのかと思うと、迷います。
購入してもその分回収できて、さらに生活できるくらい収入があればいいですが、現実は厳しいようです……
字幕をつける作業のことで、この時にもう一つ新たに知ったことなのですが、一つの字幕をつける秒数が決まっている。
文章の長さも二行まで。
人間が字幕を理解できる範囲でしか、字幕をつけることができないということです。
韓国語を聞き取れる日本人が、韓国ドラマの日本語字幕が正しくないと指摘する話をよく聞きます。
それは制限がある中で字幕をつけなければならなく、極力無駄な単語をはぶき、より自然な日本語に近づけるように表現を変えているからです。
社長から教わったことの中で一番大切なことが、「翻訳とは最初から日本人が書いたように翻訳すること」でした。
直訳するだけではダメなので、韓国語ができる人でも全員が翻訳家に向いているわけではなく、日本人作家のような文章力が求められるのです。
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