第13話【ノマレテキイテ】

 歓喜の声が一斉に上がる。


「おいしいっ!」


「ッハぁー! やっぱうまいナ」


「……」


 先程搾って用意したミルクは、5本。


 彼女達は、1人1本瓶を飲み干した。


「んア……後、2本残ってるネ」


「ほんとだ……じゅるり……」


「私が飲む!」


 奪い合いに発展した。


 ナネさんが手にしたと思えば、ラトムちゃんが後ろから隙を見て奪い去り、その下をくぐり抜け取り去ったアルフォートが口をすぼめながらガッツポーズしている。


「……ねぇ、皆?」


「あ、ナナシさんも、飲みたかった……?」


 はい。と、赤色の瞳を向けるアルフォートは、ミルクの入った瓶をボクに渡してきた。


 その後ろでは、残された1本をラトムちゃんが勝ち取ったみたいで、ごきゅごきゅと音を立てながら飲んでいる。ナネさんがジャンプしながらなんとか口元のおこぼれを貰おうと必死になっていた。


 ボクは瓶を手に取ると、自分の胸の中に仕舞う。


「皆……そんなになるほど、これって美味しいの?」


「え? はい。……とっても、それはもう、やみつきになります……。あれ、飲まないのですか?」


「……ボクは、後でにするよ」


「あれ、そうですか? 楽しみは後でってことでしょうか!」


 彼女はナネさんの元へ歩いていくと、ナネさんは振り向きこう言った。


「そーダ、ナナシ、あんたこれ、幾らで売ルつもりだったんダイ?」


「これですか? 瓶1本で、500コルで売ろうと……」


「……500だっテ!? あんた、これに含まれる魔力純度、売る場所次第だとひと瓶で十万は下らないんダヨ? わかってんのカイ?」


「……はい。わかった上で、です」


 ナネさんの目を、真っ直ぐ見つめて応える。隣で聞いていたラトムちゃんは、ウンウンと頷いていた。


「……そうかい、ナにか、考えがアるんだネ。……だったら、いいんだガ……相場から大幅に下げてモノを売ルってこたぁ、同業者にとっちゃ商売上がったりッテコト、も、ちゃんとわかってるのカイ?」


「はい。だから、それを防ぐためにも、ナネさんにお願いしたいことが、あるのです」


「そいつハ、ナンだい?」


 自らの胸をしなやかに持ち上げ、搾り取りながら、


「母乳そのものと、母乳から出てくる魔力を、分離させたいのです。そのための道具、持ち合わせていませんか?」


「……ッたク、しょうがナいネぇ。かわいい弟子のためだ、帰ったら、探しといてヤルヨ」


「ありがとうございます!」


 頭を下げると、ナネさんは僕の頭を撫でた。思いきり悔しそうな表情をしているラトムちゃんの顔が目に入った。


 ナネさんが帰っていった後、拗ねたラトムちゃんがボクの胸にうずもったまま数時間揉みしだかれたのは、また別の話だ。


 なんとか機嫌を取り戻してくれたラトムちゃんとボクは、部屋に戻り整理しようとクローゼットを開けた。すると、中からほこりまみれになったアルフォートが、くらくらしながらた倒れこんできた。彼女がボクに覆い被さると、彼女の胸と僕の胸が反発を起こしぽよよんと音が鳴りそうになった。


「あわわ……仲直りされました? みたいです。よかった。……えっと、私、置いてかれまして、それでここに隠れてましたけれど、出づらい空気で、それで……」


「あらら、それはごめんよ……送って……」


 言葉を遮られ、彼女は続ける。


「あ、あの、ナナシさん……! ダンジョンで、勇者アクタと一緒に居たのですよね、それも、仲良さそうに話されてました! それで、聞きたいのです!」


「へ……? うん、いいよ……?」


「どうすれば、巨乳でもアクタに嫌われませんか!?」


 目を丸くしたボクとは対照的に、アルフォートの目は真剣に、熱く燃えていた。目の奥にどこか悲しさが隠れていたが、この熱はそれをバネにしたかのようにも思える。


「私は、アクタのことが……好きなんです。大好きなんです……なのに、巨乳がダメだと言われた昨日は、哀しくて眠ることができませんでした……お願いしますナナシさん! 私に、彼のことを教えてください!」


 服に手を入れ、自らのサラシを脱ぎとった彼女は、今まで聞いたことのない気合いの入った声で、吠えるように叫んでいた。


 彼女の目元には、涙が浮かんでいた。

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