第6話【ダシテモグッテ】
「ッ――――っ、は……ぁ……んぁ……っ……」
声にならない荒い息。はだけた上半身に服を着直す力が入らないまま、掴んでいた胸から手を離す。
支えていた手がなくなったことにより、胸はぷるんと下まで流れ、弾けるように左右に揺れると、流れ続けていた母乳があたりに散っていくのが見えた。
「ツクヨ……あんた、すごい量だネ!壺が満タンになっちまったよ! 今時の子はみんなこの量出るのかイ?」
「はへ……? わひゃ、わかり……はへん……?」
「アー……そーか、疲れてるヨナ。ごめんナ。……まあ、そんなわけナイか。多分、呪いの影響だとオモウけど……」
ナネさんは、ボクの胸から流れ出す母乳を彼女の指にちょちょいと付け、口に入れている。
「……こ……。……アア、デメリットとか、呪いの副次効果とかは無さそう。濃縮された魔力もそうだケド……。この乳……」
ボクの胸を見つめながら、だんだんと近づいて来る。
「とっっっっっっんでもナクうまいじゃナイカ! もう一口だけ、貰ウ」
「ほへ? あ、はい……? い、いいれふよ?」
頭がぼやけてナネさんが何をしたいのかわからないまま、頷いてしまった。
「ソレじゃ、貰い受ケル……」
ボクの胸にある突起に、ぬちゃっとした生暖かい感覚。と共に、胸が熱くなる、突起には快楽が走る。さらに全身の力が抜けていく。
「ひゃいッッッゥぅ!!!!?」
「うまい、うまいヨコレ……これまで飲んだ飲み物のナかでも1番かもネ……さぁ、あたしが満足するまでヤッチまうから、覚悟しな!」
それからは、ボクは新たな快楽に悶えながらも、どこか満足したような表情になっていたと、後からナネさんに聞いた。
そんな、そんなボクが気持ちよかったみたいなこと、あるはずない……はず。いや、気持ちよくはあったけれど、それを認めるなんて無い……はず。だと、そう思いたかった。
――――――――
「やっちまった……。……こ、これは呪いのせいでもナクい。あたしの趣味みたいなもんだから、ア、安心? しナ?」
「……それ、安心できませんよ。もぉ」
ぶすくれてそっぽを向くボクと、少し慌てながら申し訳なさそうな雰囲気をかもし出すナネさん。
「……」
「……」
お互いに沈黙が続く中、ナネさんが近づいて来る。そして、ボクの手を取り、そのまま彼女のふかふかな胸に押し込めた。ずぷぷと手が胸にうずもっていく。
「へ!? な、なに、を……?」
「イヤ、ごめんナ、ツクヨ。興奮しちまうと周りのことを見なくなるのは、あたしの悪い癖だ。だから、マァ……せめてもの詫びだヨ。いつの時代も、オトコはこれが好きラシイからナ……あ、今のあんたは女の子だったナ!」
「ナ、ナネさん……ずるい、ですよ……」
「機嫌は、収まったカイ?」
「はい……」
声を細めて言う。どうも、彼女には敵わない。
「……やっぱちょろいナ……」
ボクの手を胸から引き抜くと同時に、そう小声で呟く声が聞こえた気がしたが、今回は見送ることにする。
「……サ、壺に魔力も貯まったし、売りにいくゼ! あんた1人にゃできナイからナ。ついてきナ!」
「あれ……ナネさん、忘れたんですか? これが終わったら、ボクの胸を……切る予定では……」
自分で言いつつも、痛々しさを感じる。しかし、覚悟はもう決めたのだ。勇者についていくためなら、これくらいのことできなくてはと。
「アー、それナンだけどね。あんた、相当に体力も落ちてるんじゃナイ?」
「え? はい、そう、だと思います」
「だっタラ、ダンジョン攻略ナンて命を落としに行くヨーナもんだ。胸のことがナクたって、あそこは魔境ナンだよ。基礎的なコトがナってナくて、ドーして生き残れる?」
厳しい口調で彼女は告げる。彼女の言うことは正しい。それに、強い口調なのも、ボクのことが心配だからというのも、長い付き合いだからこそわかる。
「それでも……」
「ドーシテモって言うんなら、条件がある」
「……」
「前、あんたが余裕で突破デキタって言った【第1層】を、今のあんた1人で攻略してキナ。それが、勇者同行の条件だ。足手まといになりたくナけりゃ……いや、死にたくナケりゃ、これくらいは出来るハズだヨ」
第1層。棲む生物も凶悪な生物は少なく、道も他の層に比べれば緩やかな道ばかりの層だ。ボクは学生時代、たった1人で【第3層】まで攻略したことのある。たとえ胸が邪魔であろうと、体力が落ちていようと、楽な上に道も知っている場所程度、ボクの魔法の腕があれば、余裕で攻略できるはずだ。
「……決まりダネ。あたしはあんたの乳を売りさばいて来なきゃナラナイからサ……変な男に襲われないヨーにな?」
「な……! 大丈夫ですよ! 呪いだってことがわかった以上、対策は増えました……じゃあ、準備してきますから、先に売りに行っててください」
「……アア。時間制限は、勇者が正式にダンジョン攻略に入る3日後マデだ。ツクヨ、あんたにできるカナ?」
「出来るかどうかじゃありませんよ。やるんです。ボクは……」
真剣な目で、ナネさんを見つめる。彼女はいつもの微笑みのまま、静かに頷いた。
「いい覚悟だ、ツクヨ。あんたは確かに臆病者だが、腕前と実力は確かだからネ。まー今は、でかい乳揺らしちゃってるけどサ」
「むぅー」
にひひと彼女は笑う。そういう彼女も、重過ぎるほどの胸を抱えたまま、200年近く生きてきたのだ。きっと、今のボクの気持ちはわかっている。
「そいジャ、行ってくるからナ。ムリそうになったら、あたしの名を大声で呼ぶんだ、んーじゃツクヨ。またナ!」
ひらひらと手を振りながらナネさんは店の外に出て、看板を下げてから街へ向かった。
「……本当に、不器用な人だけど……綺麗な人だ」
彼女を見送った後、ボクも支度をしてから、店を後にする。店を出るとき、むにゅうと扉に思いきり胸を押し当ててしまい、その反動で転んでしまったけれど、それくらいなら些細なこと、そのはずだから。
そうして街行く男性から身を隠しながら、ダンジョンの入り口までたどり着いた。
岩肌の中から揺れ動くような暗闇が覗く。中からは、獣の唸り声、毒虫の這う音、水流の流れる音、そして、血肉が裂ける音と共に聞こえる人の叫び声。
何度来ようと、ここには馴れない。しかし、それでいいのだ。恐怖に対して必要なのは、慣れではなく、認識であると、アルフローズ学長に教わった。だから、たとえ万全でなくとも、かつての自分のように自分の力を引き出せずとも、やってみせる。
「スゥ――――ハァ――――! ん、よし……久々のダンジョン。頼みますよ……」
1歩、また1歩と、ボクは魔の巣窟の中に足を踏み入れていった。
その途端、足元の段差を見落として転んだ。自分の胸で足元が見えなくなったことにより勢いよく足を踏み外してしまったらしい。
そこから転び続け、壁の岩肌に何度も身体をぶつける。身体全体が柔らかくなったこともあり、痛みが増している。ゴツゴツと壁にぶつかりながらも、勢いを止められない。
「んぐァ……ッツウゥ……。……あ、れ?」
勢いのままに転げ落ちていたはずのボクの身体は、突然人の形の何かに当たり転倒は止まった。
しかし、その何かを自分の胸で押し潰してしまったせいで、転倒を止めてくれた存在を認識できないまま、何かは苦しそうにもがいている。
「あ……ご、ごめんなさい! ボク、すぐどきますね!」
そう言って、傷だらけの身体で起き上がる。そして、ボクの転倒を止めてくれた人物の顔をようやく見ることができた。
「プハァッ! く、苦しかった……。……あ! 君は無事? 転んでたみたいだけど、怪我はない?」
心配そうにボクを見る茶髪の好青年。片腕を失くし、王家に伝わる伝説の剣を腰にさげ、おとぎ話で見たことのある紋章を残った方の腕に宿している。
「へ……!? あ、だ、大丈夫です! そ、そんなことより……!」
「あ、俺なら大丈夫。そうだよね、自己紹介が先か。あーあー、俺は……」
身長はあまり高くはない。今のボクよりも頭1つ分ほど大きいが、かつてのボクよりも頭1つ分小さい。それでも、彼から溢れだす圧倒的な力は、かつての僕以上のものだ。
「【アクタ・ケンダイだ】! 一応、勇者ってことになってる。よろしくな! それで、君の名前は?」
「あ、あわ……」
勇者への同行を掛けたダンジョン攻略の最中で、最初に出会った人物。それは、異世界からやってきたという、アクタ・ケンダイ……つまり、伝説の勇者だったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます