第3話【カクレテナイテ】
あお向けの身体、ぺたぺたと細い指がボクの全身を這うと、くすぐったさから身を震わせてしまう。
振動に合わせて、皿の上のプリンみたいな揺れかたをしているボクの両胸をナネさんは見つめ、いつもの微笑みのまま、どこか悲しそうな表情をした。
彼女はボクの身体から手を離し、紙に何かをメモしているが、ペンを動かすという些細な動作でも、彼女の胸は揺れている。
ボクも、些細なことで揺れてしまう、そんな似たような状況になったのだろうか。だとしたら、この重みや動くときの痛みを、これまでナネさんはずっと背負ってきたのかと過去を思い出すと、この感覚のことを今まで微塵も考えてこなかった自分の視野の狭さに悲しくなる。
「禁忌魔法の類じゃ無いナ、それはよかったが、どちらにせよ対策はあたしもワカラン」
「てっきり、マルトがボクに、禁忌魔法を掛けたのかの思いました……前日、似たようなこと言って、ましたから」
「……人間への魔法行使は、この【第3区】では違法、ましてや禁忌。将来に期待されてる彼は、易々としないハズだよ……」
彼女は、微笑みを少しだけ崩しながら続ける。
「ま、着替えてくるとイイ。あたしの服なら、ツクヨのデカイの乳もキツくないはずだよ? 地下書庫なら店に誰が来ても大丈夫なはずだ。ホレ、行ってきな! 見張りもあたしがやっとくからね」
「……は、はい! ありがとうございます!」
勢いよく頭を下げると、下方に胸がにょんと伸び、また痛みと恥じらいを感じた。
「……ツクヨ……?」
ナネさんは何か言いたげだったが、頬を赤くして何も言えなくなっていたボクに彼女の返答を待つだけの余裕はなかった。
「し、失礼しまーす!」
ボクは地下室へ走った。慌てたせいか、途中で1度転ぶも、胸がクッションがわりに衝撃を抑えてくれたから、地面に頭を打ち付けることはなかった。
地下室の扉は隠蔽魔法で隠されていて、学校でも教えてくれない特殊な魔法を行使しなければ開くことはない。
「
扉が現れ、出来るだけ静かに開けると、大量の衣服と、
本の方にはあまり興味がない。というのは嘘で、1冊だけ勝手にくすねたことがある。……そういえば、慌てていたせいで部屋に起きっぱなしにしたままだったことを忘れていた。ナネ先生、本当にごめんなさい……。
申し訳ない気分は拭えないが、変装の意味も含め、早く歩きやすい服装に着替えなければ。と思いクローゼットに仕舞われた大量の衣服からなんとか1つ服を選んだ。
黒のセーターに黒の長ズボン。うん、いい。実に動きやすい……少しだけ胸がギュッとなってきついけれど、これでもまだましな方だ。クローゼットの中から、割合の多いスカートやワンピースといった女の子らしい格好は、まだ着れる気がしない。なぜなら、着た自分を想像すればするほど恥ずかしくなってしまう。恥じらいに連動して腕を身体の内側に動かすと、両腕が胸を抑える形になり、むにゅっとした感触を味わった。
そういえば、これほどの柔らかさ、ふわふわしたそれには、男の頃は何1つとして縁がなかった。今はこの豊満さは自分のものだ。であれば、いくら触ろうと構わないのではないか……。
「わ、白い……それに、中心に、桜色の、突起が……」
服を捲し上げた時にもぷるんと揺れ、その巨大な乳房を自ら目にする。そして、どれくらいふにふにしているのか、気持ちいいのだろうかといったことを堪能したいと思う気持ちは、年頃の男児には抑えられぬ衝動だ。
「触、っちゃお……うん、ここなら、いいよね……? ……ッッ!」
微量の罪悪感に阻まれながらも、意を決して触ろうとした瞬間、指の1本1本から両手の全てがやわらかく埋もる。
「あ……! こ、これ……やっぱ、スゴい……スゴいなぁ……」
自分の胸だ、どこか現実感のないままだけれど、この大さと柔らかさには衝撃を覚えずにはいられなかった。
もっと、もっと堪能したい、もっとたくさんもみくちゃに揉んで、埋もりたいと考えた時「ガチャ」という音がした。ナネさんが扉を開けた音だと確信すると、ボクは慌てて両胸を隠そうとする。
慌てたせいか、両胸には更に指が深く埋もる感覚と同時に、突起にまで指が触れてしまうと、恥ずかしい声が漏れ出てしまった。
「んぅぅッッッッ!?」
見られたことが恥ずかしくて堪らなく思ったボクは、俯いたまま、顔中を真っ赤にして、彼女の顔を見れずにいた。
「ご、ごめんなさ……い……こんな……」
「いいんだよ、誰にも言わないから、安心して。その代わり……」
ナネさんの声じゃなかった。大人しいけれど、男性の声だ、どうして? と思った矢先、顔のようなモノが、ボクの胸に埋もってきた。ふにゅんふにゅんと音の鳴りそうなほど揺れる胸の中、そいつは声を出す。
「私にも、堪能させてくれたまえ。……いいだろう? 名も知らぬ少女よ?」
声が胸の中で響いて、少しくすぐったさと不快感を覚える。埋もってきたからか、顔は拝むことができなかったが、その声には聞き覚えがあった。
「な、な!? あ、あぁ~っ!」
「あぁ、もうツクヨの事などどうでもいい! さ、吸わせて、吸わせてくれ、名も知らぬ少女よ!」
第3区の名門魔法学校の学長にして、伝説の邪竜をたった1人で封印した偉大なる魔法使い。【アルフローズ】だった。
ボクは、どうすればいいのか、もう、わからないまま泣き叫ぶしかできなかった。あぁ、最近、泣いてばかりの自分だ。
「……ぁ、イや、いやぁあ……んぅうぅぅ……! ひゃあっッッッッ!!!!」
逆らう力も無い、もう、このまま、されるがままなのだろうかと絶望した時、彼女の声がした。
「こぉんのド助平ひ孫! 出ていきナ! さっきはアア言ったが、あたしにゃ法律なんざ関係ないンだ!
魔法を唱え、視界が真っ白になった。遠くなる意識の最中、学長をボクから引き離すナネさんの姿が目に入った。
彼女はボクに向けて何かを呟いていたみたいだけれど、魔法の効果で意識を失いそうなボクには、その呟きの意味はわからない。
「ナネさん、今、なん、て……」
何を言ったのかを知りたい、けれど、言葉を続ける前に、ボクの意識は遠くなっていった。
きっとボクが起きてから聞いても、答えはしないだろう。彼女は、何もかも1人で背負い込んでしまう人なのだ。そういうところは、真面目だった学長に似ていたのかもしれないと、途切れかけた意識で思った。
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