第31話 斜め上を行き過ぎる

「やっぱり肉食べないとな〜」


 三人はググランデ達と離れた湖畔にいた。クリクとマドリアスが火を起こして、魚を串に刺してべる。アーネスは焚き火の近くの岩に座っていた。アーネスは果実だけで構わなかったが、もう二人は食べ飽きていた。


 そんな彼らに来客が一人、精霊の泉に清められて生気を取り戻したガーグルだった。


「久し振りだな。こんなところで再会するとは……サイ、もうマドリアス王子の姿はやめてもいいぞ。ググランデ王子にはバレている」


「……そうか」


 では、城にいるマドリアスはどうしているのか気になる。


 焚き火の前で座っていたサイが自分の姿に戻ると、マドリアス王子から解放されたのように伸びをした。サイは、ガーグルにはお見通しだった事にホッとした。


「なんだ、魚の焼く匂いに誘われたか? 」


 サイは焼き上がった一串をガーグルに手渡した。


「そうだな、呼ばれようか」


 久し振りにマトモな物を口にした。あのまま精霊の森で魂から朽ちるところだった者が、さっきまで生きていた魚を食らうのは、命を実感させるほどのものだった。


「美味いな……」


「あぁ、美味いぞ、香草と塩を振ってるだけだけどな」


 そう言ってサイはクリクと目を合わせる。この二人は気が合う。そして、あっさりとガーグルを受け入れた。


「サイホーンに会ったぞ」


 と、ガーグルが言うと三人は顔を合わせ、アーネスが「そうか」と言った。


「……結局、ここには彼に連れてこられた」


 魚を食みながらガーグルが言うと、アーネスはサイの話をした。


「サイホーンは、それで居なかったのか。サイは、サイホーンに取り憑かれている間の記憶がないみたいだ」


 顎に手を添えてアーネスがサイを見ると、サイは気まずそうに話す。


「末裔とは聞いてる……先代もサイホーンについてはあんまり話をしたがらなかったな。伝説になってるご先祖と言っても親しみなんかないな〜」


「はぁ……」と、アーネスとクリクがため息をつくと、サイがギクシャクする。


「一体、何をしたんだよサイホーンは。俺は分からないんだよ! 」


 知らない方がいいとばかりの二人に、サイは知らぬが幸いに至る。


「もう止めようその話、クリク……ちょっと付き合え」


 そう言って、サイは魚の串を二本取るとクリクを連れて森の方に入っていった。


 アーネスとガーグルが二人きりになると、別の会話が始まった。


「あれ、何? 」


「お前のせいで、勘違いしてるんだ」


 サイの中でアーネスの好きな男がガーグルとしてインプットされて、サイはアーネスに気を使ってクリクを連れて立ち去った。アーネスは恨みがましく不貞腐れた。ガーグルからすれば、妙味のない巻き込みだ。


「ガーグルの話なんか聞くんじゃなかった」


「もう三年も経ってる話だろ? どこをどう解釈するのか……アーネスは斜め上に行くからなぁ。サイも絶対ないって思い込みだな。そんなに本気ならもう最終手段でも使えよ」


 冗談半分のつもりの最終手段という言葉にアーネスがピクリと反応した。ガーグルが冷汗をかく。最終手段が強行手段に成りかねない。


「今、俺の話は『聞くんじゃなかった』と言ったよな? 」


 ——たった一言伝えれば済むのに!! この王女様は!!


 顎に力を入れ気味に真剣な顔をし始めるアーネスは、ただの女の子だとガーグルは思う。可愛いにもほどがあるが、ガーグルの気持ちには残酷なほど全く気がついていない。


「……なんて顔してるんだ。サイも大変だな」


 心にも無い皮肉めいた言葉にアーネスが戸惑う顔になると、ガーグルが何度目かの告白をする。


「サイがダメで俺でいいなら俺が全部叶えてやるけど? (なんなら、今すぐにでも)」


 ガーグルが両手を広げて受け入れるポーズをすると、アーネスが俯いて自分の膝を抱えた。


「うん……」と、アーネスが返事をした。それに甘んじる自分が大分痛々しいとガーグルは思った。


「こんな損をする契約は二度としない」と、ガーグルは心の中で呟いた。


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