第28話 精霊の泉
フェンリルは精霊の森の上を風のように駆け抜けた。アーネスがこのまま地の果てまで行くのかと不安になるほどの距離を飛び越えている。
伝え聞いていたよりも遥かに遠く、サイとクリクを連れて精霊の森を越えようとしていた計画の甘さに身震いがした。今はサイの中に隠れていたサイホーンに助けられていると思うと複雑だった。
フェンリルの背中から前方にそそり立つ峰が見えると、フェンリルはゆっくりと降下し始めた。
「あの峰に魔星の谷がある」
少し開けた地に降り立つ。その地に立ち込めていた
一度消えた霧はその湖に再び立ち込める。湖の至る所に浮島が連なり、湖水は淡い青色に遊色を帯びていた。立ち込める霧が渦巻くと無数の精霊たちの姿に変わっては霧散する。
「魔星の谷に向かうのではないのか? 」
フェンリルから降りたアーネスがサイホーンに質問をした。
「生きている人間ならここは必ず通らねばならない」
と、サイホーンが答えたが、アーネスの不信感は解かれない。
「サイホーン、先ず、お兄さまの姿をやめてもらいたい。ここに来た理由が知りたい」
アーネスは背にクリクを回し、腰の魔剣に手を掛ける。クリクが目と耳をピクピクさせる。
サイホーンはマドリアスの姿からサイによく似た壮年の男に姿を変えた。
「この先に泉がある。強いて言えば精霊の泉だ。この泉で身を清めないと霊気の強い魔星の谷には入れないぞ」
湖の一点向かって指し示す先に鉱泉が湧き出る場所だとサイホーンは言うと、アーネスの顔を触れると、アーネスはそういうとサイホーンの手を払い除け魔剣を抜いて刃を向けた。
「……お前はこの泉ぐらいでは
サイホーンは苦笑した。
「……分かった分かった。もうサイのお姫さまには手を出さないと誓うよ。ただ、中途半端な色仕掛けが残念なほど通用していないから、からかいたく————
「……!! 」
言い終わる前に、アーネスがサイホーンを湖に突き飛ばした。
「あーぁ」と、クリクが言う。
ザブッと湖の中に尻餅をついたサイホーンに向かってアーネスは罵った。
「お前はその減らず口を清めろ! 」
「乱暴なお姫さまだなぁ〜」
サイホーンは嫌味を言う。
アーネスは、泉に向かい強い勇み足で歩いて行った。
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