第26話 誰だそれ言ったの
「あーぁ、無理しちゃったな」
草を編んだ床敷きに寝床を用意されて、アーネスは横になっていた。アーネスは、エルフの村に着くなり熱を出して寝込んでしまった。
エルフの村は、岩棚に足場を組んで集落を作っている。人目につかない猛獣や魔物から身を守る風通しの良い立地に、エルフたちは平穏に暮らしていた。
アーネスは、ここに来るのは二度目だと言う。
「クリクは? 」
熱で顔をほてらせてアーネスはサイに尋ねた。さっきの少年のエルフ……と言っても俺たちより年上だ。
「クリクなら、村長のところに行ってるよ」
俺は床敷きに転がって、部屋にあった仕掛け箱で遊んでいる。なかなかいい造りだ。
「……サイ、なんか楽しそうだな」
「いやぁ、アーネスが具合悪くしてるのなんか、なかなか見る機会ないからな……というのは冗談で、悪かったな気がつかなくて」
クリクから
アーネスはこのところずっとイライラしたり怒ったりしてたもんな……張り詰めまくってこの村に着いて気が抜けたんだな。
「ガーグルが近くにいるらしい。ググランデは明日までは動かないらしいし……エルフたちの情報網は凄いな。こうなったらギリギリまでのんびりしようぜ」
「……そうだな」
アーネスが返事をする。濡らした布巾でアーネスの顔を拭った。大きな瞳のアーネスが伏し目がちにとろんとした顔をしている。こうなると美人というより可愛い。薬が効いてきたみたいだ。
「私を怒ってないのか? 」
「何を? 」
思い当たることがあり過ぎるけど、どれだろう。最近は、俺の方が怒らせてるみたいだけど。
「……卒業の、剣術大会のときは悪かった」
「……あー、あれか。お前が女装……じゃなくてドレス着て、マドリアス王子の横にいたのにはびっくりしたな。いろんな意味で」
気にするなとは言えない。でも、過ぎた事だし、今こうして三年ぶりに一緒に行動しているし。アーネスなりに気にしてたんだと分かって俺は笑ったのに、アーネスの方は困った顔をしている。
「女らしく着飾ったら、気を惹けるって言うから……」
——気を惹く? 誰の?
俺はアーネストに向けて笑ってた顔を傾げた。アーネスに好きなやつがいたって事? アーネスが俺を差し置いて誰にそれ相談するのか?
「誰がそんな事言ったんだ? 誰の気を? 」
「……」
まだ言いたくなさ気な様子だ。
「お兄さまのか? 」
しょっ中、お兄さま、お兄さまのアーネスに、ほかに気がある男なんかいたら俺は困る。あの二年間のうち見落としていたとしたら、滑稽過ぎる。はぐらかす様にふざけると、アーネスがうとうとしながら拗ねた様な顔になっている。俺が分かってなくて悪いみたいだ。
「俺が知ってるヤツ? 」
そこまで言うと、アーネスは泣きそうな顔になって、俺は慌てた。……女の子か!!
「まさか、ガーグルか? 」
だったらちょっと大変だなと思って、心配してアーネスの顔を覗き込むと、熱で頬を赤くして切ない顔をして怒っている。これちょっと、色っぽくて俺が見ていい顔なのかな? 胸がドキドキして罪悪感が湧いてくる。
「……サイ」
「何? 」
「……お前、大っ嫌いだ」
アーネスは不貞腐れて顔を横に向け、目をつぶってしばらくすると静かな寝息を立て始めた。どこまでが質問の答えなのか、後からジワジワと汗が出るほど俺は焦った。
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