第33話
パークがバットを片手にマサオさんに向かって全力で走り出す。
「あはは、俺にそんなも効かないとさっき気付いただろ?」
余裕の笑みを浮かべているマサオさんに対してパークは全力でバットを振り切った。バットが当たった瞬間、鈍い音が鳴る。
「クソ……ダメか……」
パークはマサオさんの頭部を野球ボールを飛ばすが如く振り抜いたが全く効いていなかった。
「だから言っただろ? そんな物意味が無いと」
ニヤニヤ笑っていたマサオさんの表情が徐々に変わり、また目の焦点が合わなくてなって来たようだ。
「パークさん!」
「オカ、お前は自分のやるべき事をやれ!」
パークの言葉にオカは行動を開始する。
(マサオさんは、正気を失ってパークさんしか見えて無いなら、もう一度チャレンジしてみるか……)
オカは極力音を立てずにヒューズにこちらに来るように合図を送る。
(フィブでは届かなくてもダルマとヒューズさんの三人ならいける)
オカの合図に素早く対応しヒューズが到着する。
「オカ君、どうするつもりだい?」
「もう一度人間タワーを作ります」
「よし、分かった。俺がダルマ君の上に乗るから君が写真を盗るんだ」
そう言って三人は再びチャレンジする様だ。
「ダルマ君、さっきより重くなるが大丈夫かい?」
「ヒュ、ヒューズさん良く生きてくれて……。ヒューズさんの為なら何でも出来ます!」
ダルマはしゃがみ込み自身の上にヒューズとオカを乗せる。
「ダルマ、頼む!」
二人が、上に乗った事を確認してからダルマは両足に力を込める……。
先程と違ってフィブより更に重いヒューズに変わっているにも関わらずダルマは少しずつ自身の身体を上に上げていく。
「いいぞ、ダルマ君」
そしてヒューズの言葉でとうとう立ち上がったダルマはヒューズに言う。
「ヒュ、ヒューズさん後はお願いします」
「あぁ、任せてくれ」
続いてオカを肩に乗せたヒューズが立ち上がろうと両足に力を込める。
オカの体重が重く無いとはいえバランスの悪い場所でヒューズは難無く立ち上がる。
「さ、流石ヒューズさんだ」
一番下に居るダルマが感心する。
「さぁ、後はオカ君の番だよ」
「はい!」
オカはスクッと立ち上がり写真に手を伸ばそうとする……。
「汚い手でそれに触るなよ?」
パークの相手をしていたマサオさんが正気を取り戻しオカ達の方を向いて問いかけた後に笑う。
「殺してやる……」
マサオさんがダルマ目掛けて走り寄る。距離にしたら五メートルも離れていない位置の為、人間タワーを組み立てても、直ぐに崩して、いつでも殺せると思ったのだろう。マサオさんは笑いながら人間タワーを崩そうとするが、一つ誤算があった……。
それはパークの存在だった。
「そっちには行かせねぇーぜ?」
「そ、そこを退け!」
ここに来て初めてマサオさんが焦った表情を浮かべる。
マサオさんとパークがお互い押し合う様な構図になっている。
「お、お前本当に人間か?」
マサオさんは自身と力で均衡出来る人間が存在する事に相当驚いている様子である。
「へへ、お前の様な都市伝説に言われら俺もお終いかね?」
マサオさんとは逆で、緊張はしているものの、パークは笑みを浮かべている。
「退け、退け、退け!!」
鬼の形相でマサオさんはパークを押し退けようとするが、その場から退かす事が出来ない様である。
「す、凄いわね……」
「ただの体育会系じゃなかった……」
プルとフィブが驚いている様だ。
(パークさん、スゲェーな……)
オカは立ち上がる際にマサオさんとパークが押し合いをしているのが目に入る。
「パークさんが惹きつけている間に俺も……」
オカは手を伸ばし大きな写真を持ち上げ一度地面に落とす。
大きさの割には軽いのか、落ちた時の音は小さかった。
しかし、逆にマサオさんの怒りは重く大きくなっていた……。
「アハ、ヨクモ、ダイジナ、シャシンヲ」
マサオさんが再度正気を失う。
「お、おッ!?」
そして今までマサオさんを抑え込んでいたパークが徐々に押され始めたのだ。
「な、なんだか分からないけど、ヤバイ!」
パークは全力でマサオさんを押し戻そうとするが、ズルズルと押される。
「皆んな、逃げろ!」
パークの掛け声でオカ達は食堂から逃げ出そうとする。
「オカ君、君と俺でこの写真を持つよ!」
「は、はい!」
オカとヒューズで落ちた大きい写真を持ち入って来た扉に向かう。
「ダルマ君、早く君も逃げるんだ」
「は、はい」
ヒューズに急かされてダルマも走り出す。
「フィブちゃん、私達も行くわよ」
「先行って……」
そうプルに言いフィブはパークの方に走り出す。
「アハ、オマエタチ、コロス」
マサオさんはパークを逃がさないつもりか、押し合うのでは無く抱き着く様にパークを自身に寄せ付けようと力を入れる。
「く、くそ。離せよ」
全力で抵抗するパークだが徐々にマサオさんの胸に引き寄せられていく。
「マズハ、オマエ、カラ、コロス」
パークを胸まで抱き寄せたマサオさんは片手で暴れ回るパークを抑えつけもう片手で例のハサミを取り出す。
「アハ、シネ」
高々と振り上げたハサミをマサオさんはパークに振り下ろす。
「殺されてたまるかよ!」
片手で抑えていた影響なのか、なんとか拘束を振りほどいたパークであったが、肩辺りにハサミが突き刺さっていた。
「イッテーな、ちきしょう!」
「オレノ、ハサミ、カエセ」
そして再びパークに向かって手を伸ばす……。
するとフィブが走って来て有る物をマサオさんに投げつけて、パークの手を取りオカ達が走って行った扉に向かうのであった。
「お、おいお前も逃げろよ」
「大丈夫、パークのお陰で全員逃げられた。後は私達だけ……」
フィブの話を聞き安堵するパークは扉に向かって自分の意思で走り出す。
「ナンダ?」
一方マサオさんはフィブが投げ付けた物をキャッチして見ていた。
「アケミ……、ハルカ……」
それはオカとダルマに内緒で持ってきた二人の依り代であった……。
マサオさんの目からは涙が出ていた……。
依り代に目を奪われている間にオカ達は外に出ようと必死に逃げ出した……
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