第26話

 辺りは完全に暗くなり、虫の鳴く音とオカ達が歩く音しか聞こえない程静かである。


「む、村に行ったら、マサオさん居るかな……?」


 ダルマが周囲をキョロキョロと警戒しながらも、他の四人に聞いた。


「恐らく、いるんじゃないか……?」

「そうだね。俺もオカ君の意見と同じかな」

「居たとしても結局私達は村に行くしかない……」

「フィブちゃんの言う通りね」


 このまま山に隠れていても、いずれ見つかり殺されてしまうだろう。そして助けが来る見込みも無い。


 五人はゆっくり、静かに歩き進み村に到着する。


(マサオさんは居なそうだな)


 山同様、村も静寂に包まれて居る。


「あった……」


 フィブが一つの家を見ながら呟く。


「フィブちゃん、あれがマサオさんの家かい?」


 声を出さずに頷くフィブを見て全員がマサオさん宅を見る。


 外見は昔ながらの日本家屋であるが、村の外れにある為か他の家よりは少し大きい様である。


「ク、クソ。ほ、他の家より大きいじゃねぇか……」


 ダルマは無意識に愚痴をこぼして居る様だが、口には出さないだけで他の者達も同じ事を考えて居たらしい。


「あの家から探すのは大変そうね……」


 プルも知らず知らずの内に愚痴を零してしまっている事を本人は気付いていない様だ。


 それから、五人は家に忍び込む為に身を屈めて、夜の暗さと静けさに紛れ込む様にゆっくりと家に向かう。

 昼間に同じ事をすれば完全に丸見え状態ではあるが、今宵は運が良いのか曇っている為月明かりすらない状況である。


 五人は時間を掛けてようやく家の前まで到着した様だ。


「ど、どこから入るんだよ?」


 ダルマは何度も何度も背後を確認しながら質問する。


(鍵とか開いて無いかな?)


 オカは無意識に扉に手を翳して、横にスライドさせてみると、扉はガラガラと音を出して開いたのである。


「鍵が掛かってない……?」

「これは、どう取るべきかしら?」


 鍵が掛かっていなかった事にフィブとプルは不信感を持って居る様だ。


「元々、鍵が掛かって無かった可能性もあるんじゃないかい?」

「ヒュ、ヒューズさんの言う通りだ」


 五人はどうするか、玄関の前で考える。


「今は、ここで考えていてもしょうがないし、中に入ろう」

「オカの言う通り、どうせ私達は中に入らないといけない……」


 扉から家の中を見ると、電気が点いていない為外より更に暗さが増している。


 オカ達は慎重に踏み込みマサオさん宅内にあると思われる依り代を探し始める。


「暗いわね」

「でも、明かりを発生させたらバレる……」


 外に居る時も明かりを点けずに五人は移動していたので、暗さに目が慣れていたが、家の中は更に暗い為、あちこち足などをぶつけたりしているようだ。


(それにしてもこの家広いな)


 外から見たら、他の家より多少大きい程度だったが、中に入って見ると、そこにはとても長い廊下が繋がっていた。


(この家の長さってこんなにあったか?)


 オカは廊下を歩きながら、そう思ったようだ。それは他の者も気付き始めたのか少し騒つく。


「ね、ねぇ。この家ってこんなに奥行きあったかしら?」


 歩きながら小声でプルが質問する。


「い、いや無かったと思いますが」


 ヒューズも、かなり長い廊下に動揺する。

 オカ達が家に入ってから廊下を歩いて既に1分以上は進み続けている。人間が1分間直進し続けたら、結構な距離を歩けるが五人は、まだ一度も部屋を見つける事が出来ないでいた……。


「これは流石におかしい……」

「な、何がおかしいんだよ?」


 フィブの言葉にダルマが突っかかる様に問いただして来る。


「こんな長い廊下が、あの家の規模であるはずが無い……」

「そうね。私達結構歩いたわよね?」

「えぇ。プルさんの言う通りこの家入ってからずっとですし」


 何か不思議な現象が起きているのを感じながら、五人は一旦足を止めて周囲に扉などがあるか確認し始める。


(こんなに長い廊下を歩き続けて部屋が一個も無いなんてありえるのか?)


 オカも壁に手を置きながら。何か無いか探るが結局何も見当たらなかった様だ。


「前に進むしか無いか……」

「そうね。オカ君の言う通り進むしか無さそう」


 そして一同は再び廊下を歩き出したす。

 暫く歩き続けているとフィブが話し掛けて来きた。


「皆んなゴメンね……」


 歩みを止めないが、四人はフィブの言葉に耳を傾けている。


「私が、あった時に説明すれば、こんな事にならなかったのに……」


 己の復讐の為に皆んなを巻き込んでしまった事にフィブは申し訳無さを感じている様だ。


「はは、フィブちゃん何を言っているんだい?」


 ヒューズは、その場の雰囲気に似合わない笑い声を上げて話し始める。


「仮に君が集合した時点で打ち明けたとしても、どっちにしろマサオさんが本性を出すタイミングが早まっただけで、結果は対して変わらないと思うよ?」


 ヒューズは、マサオさんの開催したオフ会に参加した時点で、もう遅かったと思っている様だ。


「そうね。ヒューズ君の言う通りよ」

「フィブの所為じゃ無いし気にしないで大丈夫だよ。それに俺はマサオさんの事を許せない理由が出来たし……」

「お、お前だけのせいじゃない」


 それぞれが、フィブの所為では無いと言い、フィブは心に温かいものを感じた。


「皆んなありがとう……」


 少し和んだ雰囲気の中、五人はとうとう扉を見つけた様だ。


「どっちにする?」


 オカの質問に皆んなが悩む。扉を見つけたのだが二つあったのだ。

 扉を開けると、そこにはまた長い廊下が続いており先が見えない様になっていた。


「二手に別れるかい?」

「そうね……。あまり人数を分散させたく無いけど、それしか無さそうね」


 皆んなでどちらにしようかと話し合っていると、背後からガラガラと扉が開く音が聞こえた。

 そして今まで暗かった家の中に明かりが点く。


「「「「「え?!」」」」」」


 一斉に振り向くと、少し後ろには玄関が有り、マサオさんが居た……。


「あははは、お前ら人の家に勝手に上がり込んで何しているんだ?」


 五人はとても困惑している様だ。先程まで長い廊下を歩いて来たので、見える範囲に玄関などあるはずが無いのだ。それなのに、今では直ぐ後ろに玄関がある……。


「まぁ、いいや。お前らそこを動くなよ?」


 マサオさんは手にハサミを持ちながらオカ達向かって歩き出した……。


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