第9話

 改札を降りた二人を待っていた光景はとても自然豊かであった。


「おー、なんか凄いな」

「うん、凄いね」


 語彙力の無い二人は駅の風景や周りの草木、人通りの少なさを全てひっくるめて凄いと言っている様だ。


「俺無人駅とか初めてだわ」

「私も。これじゃ普通に切符とか無くても通れそうだよね」


 二人は更に周りを見る。


「それにしても空気が美味いな。俺達が住んでいる場所とは全然新鮮さが違う」

「ホントだよねー。空気が澄んでいて気持ちいいね」

「でも、これから更に山奥に向かうんだろ?」

「オカ、虫除け持ってきた?」

「使うか?」


 二人は虫除けスプレーを自身の身体に振り撒く。


「集合場所ってここから三十分くらい歩くんだっけー?」

「この駅集合で良かったと思うけど、そうらしいな」


 誰一人駅の周りにはおらず、車すら走っていない駅前は既に朝日が昇っていると言うのに夜並みの静かさである……。


「それにしても人が全くいないねー」

「でもなんか、怖い雰囲気出て来たな!」


 オカはニンマリとした表情を浮かび上がらせて、カメラで写真を撮っていた。


「オカー、そろそろ行かないと」

「そうだな」


 二人は集合場所に向かう為歩き出そうとした時に声を掛けられた。


「貴方達、もしかして都市伝説マサオさんの聖地巡礼で来たのかしら?」


 オカ達は声の方に向くと一人の女性がいた。


「突然声を掛けてしまいごめんなさい。貴方達もそうなのかしら?」


 オカやカリンより歳上であろう、女性は、美人ではあるが、とてもキツそうな見た目である。ビシッとスーツを着込んでいるからなのだろうか、それとも目付きがツリ目だからなのかは分からないが、眼鏡を掛けたキツそうな見た目の女性がそこには立っていた。


 いきなり声を掛けられて戸惑いはしたが、マサオさんの話をしていたので参加者だと思いオカは挨拶する。


「はい、僕達聖地巡礼の参加者ですが、貴方も?」

「えぇ、私はプルよ宜しくね」

「はい、俺はオカと言います」


 プルと言う名は彼女の本名では無くメールでもあったようにペンネームであろう。


「え? なにプル?」


 カリンはまだ理解が追いついていないらしい為、どうやらオカが説明してあげているらしい。


「あぁ、なるほど。そういえばメールにもあったわね。私はカリンと言います宜しくお願いします」

「えぇ此方こそ。貴方綺麗ね」

「い、いえいえ私なんかよりプルさんこそ……」

「ふふ。貴方反応の方は可愛いわね」


 プルと言う女性が笑った顔はとても綺麗であり、先程までのキツイ雰囲気とは逆に柔らかい雰囲気が出ていた、これが大人の魅力なのだろうか。


 そして男達からは何度となく容姿を褒められて来たカリンだが歳上の女性に褒められた事はそんなに無いのでカリンは照れたらしい。


「もし良ければ集合場所まで一緒に行かない?」

「えぇ、喜んで」

「私も大丈夫です」


 こうして三人は、広大な自然に向かって歩き出す。少し歩いただけでアスファルトで舗装されていた道が土の地面に変わり、より一層都会とは違う場所だと感じるようになっていた。


「オカ君達は学生さん?」

「はい、俺達大学四年になります」

「いいわねー。なら今が一番時間がある時ね」


 昔を思い出すかの様にプルは遠くを見るように呟く。


「プルさんはどんなお仕事されているんですか?」

「私はフリーのジャーナリストよ」

「おー、もしかして今回は仕事も兼ねているんです?」

「えぇ。よく分かったわね?」


 プルはオカ達の方を見る。


「だって、プルさんスーツですし」

「そうそう。出来る女って感じでカッコいいよねー」


 真夏であるのに、プルはスーツをビシッと決め汗一つかいていない。

 そして、学生からの褒め言葉に満更でも無いのか少し頬を上げるプルであった。


「主催者のブログを見てたらマサオさんの都市伝説記事があって、あれから引き込まれたわ」

「分かります! 俺も最初は気持ち悪かったんですが、読んでいくうちにどんどん引き込まれました」


 オカがもの凄い勢いで賛同する。それを横目で見ていたカリンは若干引いている様だ。


「プ、プルさんも都市伝説とか好きなんですか?」

「いえ、そこまで興味は無かったけど仕事になりそうだったし、それにマサオさんは何故か惹きつけられたわね」

「普段から、こういう系を仕事にしているんですか?」

「私は珍しい物全般ね。不思議な現象や怪奇現象を主に取り扱っているわね」

「なんか、面白そうな仕事ですね」

「私もそう思った! 卒業したらそういう仕事もいいかもー」

「確かに楽しいけど大変な事もいっぱいあるわよ?」


 プルは先生が学生に言い聞かす様に苦笑いしながら言う。

 普段仕事相手に舐められない様に常に気を張って隙を出さないプルだがどうやらオカ達の純粋さに、いつもの仮面が剥がれている様だ。


 そして、周りの景色が更に閑散として来た時に前方に複数の人が見えた。

 こんな辺鄙な場所に居るということは恐らく聖地巡礼の参加者なのだろう。


「どうやらまた参加者の様ね」

「こんな場所にいる人間はそれくらいしかいないですよね」

「あの人達なにしているんだろうー?」



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