第8話
都市伝説マサオさんの募集記事に応募してからあっという間に一ヶ月が経った。
そして本日は聖地巡礼の日である。
「着替えよし、モバイル充電器よし、カメラよし」
オカは朝早く起き、荷物の確認を行なっているようだ。カリンとは最寄駅で集合し、始発で一緒に行く事になっている。
「あ、虫除けスプレーも忘れずに持っていかないとな」
荷物の最終確認を終え、オカは家を出る。時期は夏だが早朝の為空はまだ暗い。
「夏だけど、結構朝は寒いな」
オカはこの日が来るのを、とても楽しみにしていた。募集した次の日には友人達に話し一緒に行こうと誘ったが友人である三人には、丁重に断られたらしい。
「アイツらも来れば良かったのに」
いくら楽しみだからと言っても、やはり知らない人とのオフ会的なのに参加するのは初めてであり、カリンが一緒だとしても、どうやら緊張しているようだ。
「何人くらい参加者いるんだろう」
募集してから一週間後に当日の詳細が記載されたメールが送られて来たが参加人数などは特に書かれてはいなかった。
聖地巡礼についての楽しみや緊張、不安などが頭の中でぐるぐる回っている様だ。そして気付いたら駅に着いた様だ。
「オカー、遅ーい」
「カリンおはようー」
「おはー。私、楽しみ過ぎて寝れなかったよー」
「あはは、俺も俺も」
人通りが少ない駅前で楽しそうに話す二人組は他の人から見たら歪に見えるだろう。
一人は何の変哲も無い見た目がオタクの普通の男で二人目は道ですれ違えば男なら振り向いてしまう程の美人だが見た目がギャルである女だ。
「それにしても、カリンさ」
「なに?」
「その服装スゲーな……」
「え!? 何か変……?」
カリンはオカに言われ自身の服装を慌てて見る。
「いや、変じゃ無いけど……」
恋愛対象から外れたとは言え、際どいホットパンツを履いて来たカリンを直視するのは恥ずかしいらしい。
それにこれから行くのは自然豊かな場所の筈なのに、そんなに生足を晒していたら蚊などに喰われそうでもある。
「もぅ……、オカの為に気合い入れたのにな……」
「ん、なんか言ったか?」
「なんでもなーい」
二人は始発の電車に乗り込み目的地に向かう事にした。
「どれくらいで着くの?」
「うーん、三時間かな?」
「結構かかるねー」
カリンはあまりの長さに少しだけ顔を顰める。だがオカは逆で笑顔を浮かびあげている。
「でも、旅行気分が出て俺は好きだな」
「確かにそれは分かる気がするー。電の窓から見える景色が好きー」
「だよな! 俺もビルとか密集している所から、いきなり草木や田んぼばかりに切り替わるのが好きだわ」
「あれいいよね!」
二人は電車に揺られながら一時間程乗車し、乗り換える為に電車を降りた。
「朝早かったし駅弁でも買わね?」
「確かにーお腹減って来たしね」
二人は次の電車が来るまで駅構内で駅弁を選ぶ。
「次は二時間くらい乗るからゆっくり出来るな」
「それにまだ7時にもなってないし空いているだろうねー」
それぞれ好物の駅弁を買い再び電車に乗り込む。
「そういえば、あれからマサオさんの記事更新が無くなったけど、あれ以上は情報とか無いのかな?」
「うーん、確かに募集の記事以来マサオさんに関する記事が一切更新されなかったな」
二人はあれからも更新を楽しみに毎日ブログをチェックしていたが、更新される内容は食事だったり趣味の事だったりでマサオさんの事については一切更新されず、物足りなさを感じていた。
マサオさんフレンドになった二人は会う度に都市伝説の事を真剣に話し合っていた。
ある時はマサオさんについて、またある時はアケミについて話し、子供達二人についてもお互いの考察をまじ合わせて考えるなどをしていたら、いつの間にか二人は大学内で付き合っているのでは無いかと噂になったくらいである。
その噂がまんざらでも無いカリンは表面上は怒っていたが、内心はとても喜んでおり、噂の否定などは特にしなかったので、一か月程経った今でも大学内ではホットな話題となっている。
「やっぱり、ハルカ可愛そうだよな」
「うん。家族の中で一番報われないよね……」
そして二人はハルカの人生を振り返って、あまりにも不憫過ぎる為、ハルカはどの様に生きていれば幸せな生活を送れたかを妄想したりもしていた。
そしてその妄想をお互い言い合ってたりもした。
「てか、話に夢中になり過ぎた。駅弁食べないと着いちゃう」
「あ、ホントだ。マサオさんの話しするといつもこうなるよね」
二人は少し急ぎ気味で駅弁を食べて胃に収めると、降りる準備をする。
「そういえば、今回何人参加するかオカ知っている?」
「いや、俺も朝方考えてたけど検討も付かないな」
「そもそもマサオさんの都市伝説って有名なの?」
「いや、最近出てきた都市伝説だから、友人とかに聞いても全員知らなかったな」
「そうなんだよね。私の友達も誰一人知らなかったもん」
先程まで感じていた電車の振動が徐々に少なって行き、電車が止まった。
「やっと着いたー」
カリンは両腕を大きく広げて到着した喜びを表している様だ。
「さてと、改札を降りたら集合場所に向かおう」
「おっけー」
こうして二人は駅の改札に向かう……。
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