第2話
オカの周囲には人が等間隔で並んで座っている。どうやら大学の講義室にいる様だ。
「ふぁ……あー眠い……」
オカはマサオさんの記事を読んだ影響で結局一睡も出来なかったらしい。
「あんな記事見なければ良かったな。今頃眠気が……」
そしてオカは抗議中に爆睡し、終わるまで一度も目を覚まさなかった。終わりの号令と共に目覚めたオカはオタク仲間の友人達とお昼を学食で食べてから家に帰る事にした。
「今日はカレーにするかな」
カレーの乗ったお盆を運び窓際の空いている席に座る。
「お前ずっと寝てただろ?」
「あー、俺も見た見た!」
「昨日、そんなに面白いアニメなんかやってた?」
「いや、いつも見てるブログに変な記事があってさ」
「変な記事?」
友人の一人が問いかけて来る。
「あぁ。都市伝説の記事」
「何お前、都市伝説なんか調べちゃっているの?」
「都市伝説って口裂け女とかだろ?」
「俺が昨日見たのは【マサオさん】って都市伝説」
オカが都市伝説の名前を言うと友人達が笑い出す。
「あはは、なんだよその名前!」
「マサオさん?! あはは、普通に人の名前じゃん」
「オカって偶に面白い事言うよねー」
「ち、違うんだって! 名前は確かにアレかも知れないけど、内容が気持ち悪いんだって!」
笑う友人達にマサオさんの話をするオカ。
「す、ストップ! お、俺はもういいや」
「お、俺も……」
「少ししか聞いてないのに鳥肌が立つくらい気持ち悪いな……」
友人達は冒頭部分しか聴いて無いが途中で聞くのをやめたらしい。
「お前、その都市伝説を聞いたら五人の人間に同じ内容を話さないと殺されるとか無いだろうな?」
「チェーンメールかよ……」
「なぁ、そんな話し辞めて今期のアニメについて語ろうぜ」
「さ、賛成ー」
それから、オカ達はアニメについて語り合う。
すると窓をコンコンと叩かれた。窓の奥には派手な格好をした女性が笑顔で手を振っている。
「カリンかよ……」
オカの表情を見た女性はムッとした表情になり学食に入ってきた。
「お、おい! お前アレ誰だよ!?」
「彼女か?! 彼女なのか?」
「いやー、オカにそんな人いないでしょ……いないよね?」
メチャクチャ動揺している友人達に事情を話そうと試みるが、その前に女性が到着してしまったようだ。
「ちょっとオカ! アンタのその態度は何なのよ!」
凄い短いスカートに、まだ真夏でも無いのにかなり薄着の服を着ている女が怒気の篭った口調でオカ達の所に来た。
顔付きは凄い美人でスタイルも良いが派手な印象を持たせる化粧と言動にオカの友人達は萎縮しているらしい。
「オカの奴……こんな綺麗な女と知り合いかよ……」
「確かにメチャクチャ美人だけど俺はちょっと……」
「わ、分かる。僕も……」
どうやらオタクである友人三人からすると、カリンみたいな所謂BBQや海などが好きそうな雰囲気の人種は怖いらしい。
「私が笑顔で手を振っているのに、そのメンドくさそうな対応は友人としてどうなの!?」
「俺にも色々あるんだよ」
「マジ意味分かんなーい」
「今、友達と話しているからどっか行ってくれ」
オカの言葉にやっとカリンはオカ以外の人間が席にいる事に気付いた様だ。
「ん?」
カリンに睨まれた友人三人は萎縮しながらも、やはり男なのだろう綺麗な女性とお近づきになれるチャンスを棒に振るわけが無かった。
「ど、どうも……」
「お、俺はオカくんの友人です……」
「……こんにちは」
しかし、彼らは緊張してカリンの目をまともに見れず声も小さかった。女性にする挨拶としては最低点がつけられてしまうだろう……。
「何コイツら? 気持ち悪ッ!」
「お、お前。なんて酷い事を……」
「だって何言っているか聞こえないし、私の目を見て話してくれないしー!」
カリンの鋭く尖った刃の様な言葉に三人は意気消沈し、改めて心に刻んだ。
「やっぱりギャルは敵だ……」
「クソ! 顔が良いからって調子乗りやがって!」
「死ね! しね! シネ!」
確かにカリンが悪いが、この男達も相当問題があるのは言うまでも無い。
このカリンと言うギャルは三ヶ月ほど前に知り合った。オカ自身も友人同様に苦手なタイプであり向こうからしてもオカ達の様なオタクとは普通関わろうとしないだろう。
だが何故かカリンの方から声を掛けてきて、そこからはオカを見つける度に話し掛けて来る様になった。
カリンは持ち前の明るさで気軽に話し掛けて来るがオカは未だに緊張してしまう様だ。やはり苦手なタイプだとしてもカリン程綺麗な女性相手だと少なからず意識してしまうらしい。
「私も丁度抗議終わった所だから混ぜてよ」
「嫌だね」
「私、オカの隣でいいからさ」
「話聞けよ?!」
なんて厚かましい女なんだ! と言いたそうにカリンを見るが、カリンには通じないらしく、小首を傾げただけだった。
「ん? なぁに?」
そして、オカは恥ずかしくなって顔を逸らし席を立つ。
「俺帰るわ」
恋愛経験皆無のオカにとっては気恥かしさに耐え切れなかったらしい。鞄を手に持ち早々と学食を出て行く。
「あ、まってよ! 私も一緒に帰るから!」
カリンは慌ててオカの後を追うが、何かを思い出したかの様に引き返してきた。
「お、おいギャルが戻って来るぞ……」
「もう俺の体力は残ってないぞ!」
「ギャル怖い! ギャル怖い! ギャル怖い!」
そしてカリンが三人の前に着く。
「三人共さっきはゴメンねー。私キツイ事言っちゃうんだけど、悪気は無いの。もし傷付いたならゴメン」
カリンが腰を折って頭を下げる。まさか謝られるとは思ってなかったのか、三人は吃りながらもカリンの事を許したのだ。
「ありがとうー! 今度オカと一緒に皆んなでご飯食べよー」
カリンは笑顔で三人に言ってからオカを再度追い掛ける為学食を出て行く。
「皆んなまたねー!」
男達はカリンが食堂を出るまで手を振り続けていた。
「やっぱりギャルは最高だ……」
「クソ! 顔が良いからって調子乗りやがって……最高だ!」
「綺麗! 可愛い! 最高!!」
やはり男達はアホであった。
オカ同様恋愛経験が皆無の三人はカリンの笑顔一発で惚れてしまったようだ。
そしてオカはその間に走ってカリンから逃げた為捕まらずに無事に家に帰宅した。
「ふぅ。夜飯も食ったし今日もブログや動画のチェックでもするか」
昨日同様いつもの日課でお気に入りのサイトやブログをチェックし始める。
「お? この人またマサオさんの記事更新したのか」
【都市伝説マサオさん。眠れない夜のお供にどうぞ その2】というタイトルで更新されている様だ。
「ち、ちょっとだけ見てみるか」
何だかんだ言って昨日の夜からオカの頭の中にはマサオさんで埋め尽くされている。オカは記事をクリックして読み耽るのであった……。
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