第3話 故郷への道のりにて、
彼が白縹の花が咲く草原を発ち、草原の街道を半日ほど歩いた所で森に入る、この森を越えれば首都はもう目と鼻の先だ。
「ふぅ、ようやくここまで来たか、あともう少しだな。」
この森には錬金術で使う材料を採取したり、学園の授業を行ったりと日常的に入り、探索や収集作業をしていた為、大体の場所へ行く道筋も解るし、現在位置の把握もお手のもの、だからこそ感じた違和感、なにか森の様子がおかしい。
「まぁ、すぐ誰かに会うだろうし、その時に聞いてみるか。」
森に入り2時間、首都に向かって歩みを進めているのだがその間誰一人とも出会うことは無かった。
こんなのは初めての事だった。春先である今の季節、学園の生徒が授業や採取でこの森のそこら中に出払っているはずだ。その生徒に出会わない。
「おかしいな、人っ子1人居ないじゃないか……。」
そんな事はそうそうありえない、全校生徒参加の式典か何かがあるとも考えられるが、不安に駆られ彼は荷物を降ろし走り出した。杞憂ならばただのくたびれ儲けですむ。
だが、そうでなければ……。
この森で一体何があったのかと木々や地面、いたるところを調べ始めた。しばらくして、比較的に最近ついたであろう足跡を見つける事が出来た。その足跡と並んで何かを引きずる跡があった。
「この先か。」
この足跡の主を追う。充分な距離を取り、気付かれないよう。
対象に近付いて行くのがわかる、対象が放つ嫌なプレッシャー、存在感が、進むにつれ大きくなるからだ。
だが、まだ対象を目視出来ない。
「んな、何も無いような場所に、一体どんな御用なんだってんだよ!?」
明らかにおかしい、こんな所に居るはずがない存在、それがこの足跡の先に有る。
ひ汗が出る。手が、足が、怯え震える。
「見たら帰る………、ここに居た連中には申し訳ないが…。俺なんかが到底勝てる相手じゃない……。」
息を殺し、今出来る全身全霊の忍び足で距離を詰める。神経をすり減らし、精神さえ押し殺して。
そうして涙目になった瞳に、俺よりも頭2つ分大きい巨漢の姿を捉えた。
漆黒のマント、漆黒の鎧、天を穿つ鋭い角、角を覆う漆黒の兜、獲物は身の丈程もある大剣だ。あれで切られたら斬撃と衝撃波で一瞬にして肉片と化すであろう。そんな大男の周りには学生であろう、何人もの制服の子供が倒れていた。涙溢れそうな瞳で一瞥し、自分の行いを悔いて、弱さを言い訳に正当化した……。
(……後は逃げるだけ…。)
王国の脅威である奴の容姿は覚えた、恐怖を添えた鮮明な姿が否が応でも頭の中に居座る。あとはこの場所から脱兎の如く王国まで走り、偉い人達に至急対策を取ってもらう、それだけだ。
王国軍には過去、龍王を撃退した実績もある。師匠もその中核を担っていたらしい。
息を殺し、存在を隠して王国に戻る最中どうしても考えてしまう。今国内にいる最も強い人達が負けてしまったらと、あの巨漢をみてしまったからだろう。あの圧倒的なプレッシャーと存在感、あれ程のものは、この世界に生まれ落ちてから初めて感じたものだった。現在の自分では縋る事しか出来ない。
(師匠や王国のみんなならきっと倒してくれる!。だって、だって最強と謳われる。あ、あの龍王だって撃退したんだから!!)
そう心の中で他力本願に叫ぶ、その時……。
「ほぉ…、その師匠とやらは、あれほどに強いのか?無理じゃと思うがのぉ~」
そんな惚けた少女の声が、後方から聞こえた。その声の方へ振り向く。瞬間、視界が歪み始め、脚の力が抜け、崩れ落ち、地面を舐めた。
そうして俺は、意識を手放した。
アリストア世界の錬金術師 セツナ @fersst0924
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