第2話 師匠からの呼び出し

1人虚しい勝利宣言をして一面の花々に苦笑された後彼はベット代わりに地面に敷いていた布を畳み始めた。毛布もそれと同じ様に畳み、布と重ねてコンパクトに丸めて藁の紐で縛り、その結び目の部分をリュックに着いている金具に引っ掛けた。これでベットの片付けは完了。

後はリュックの中から干し肉と革製の水筒を取り出し、水を少しづつ飲みながら干し肉を齧る。

うん、不味い。

自身の目的を再確認する為、上着の内ポケットに入っている師匠からの手紙を読んだ。


’’我が可愛い愛弟子よ、最近の調子はどうか?。 貴様の事だから別種族の女子にうつつを抜かしてないか心配でならん。知的好奇心を持つのは結構だが、間違えても籍を入れる様な事は絶対に無いように。立場上貴様を捨てなければならなくなるのは、師であり育ての親でもある我には忍びない。

さて前置きはこれぐらいにして本題に入るが、近く我が学園で卒業試験を執り行う事となった。貴様にはその試験官を頼みたい。過去、貴様が受けた試験の様に、長期間拘束されるような事は無いのでそれに関しては安心すると良い。

試験内容だが、我が学園のあるルアム王国首都ルィーナから、貴様が今住居を置いている辺境都市アルヴェスタまでの旅だ。貴様はただ受験者に付いていれば良い、たったそれだけ。詳しい話は貴様がこちらに来た時に話す。道中気を付けるように、ではな。 ’’ アーケイン・エイルス より


「異種族の女子にうつつを抜かすって、別に女の子だけって訳じゃないんだけどな…。」

しかし彼の卒業試験のサバイバルで、角の女の子と当初の予定1ヶ月の2倍の期間を過ごしていた事が、師匠には強く印象に残っているのだろう。

ちなみに1ヶ月遅れで孤児院に帰った時、夕方だったのだがそこから次の日の早朝まで叱られた。孤児院全ての部屋の清掃や庭の雑草取りに手入れ、木の剪定など挙句の果てには、敷地外の通りの清掃も命じられた。その罰の清掃は、3ヶ月間続いた。気づけば、木の剪定や庭の手入れは、孤児院で二番目になっていた。一番はもちろん師匠である。

気になる試験結果に関しては、不合格を言い渡された。

「私は1ヶ月と言ったのだぞ?。それを2ヶ月過ごす馬鹿があるかっ!?。正確に、言われた通りの事をこなす。そんな事も出来ない者が錬金術師になれると思うな!このっ大馬鹿者がっ!!」


そうそれは至極当然のこと、錬金術は正確無比でなくてはならない。人族には解明出来ていない事の多い、神から授かった技術だ。だからこそ錬金術師は錬金術を行う際は、全く同じ手順同じ材料を使い細心の注意を払い錬金術を行う。余計なアレンジを加え、大惨事を起こしてしまわないように。

だが彼はそれでも理不尽に思った。2ヶ月間も森の中で生活していたというのに不合格。この仕打ちに子供らしく駄々をこねたものだ。その甲斐あってか、角の少女のレポートを出す事を条件に合格させて貰えた。

その後補習という形で、錬金術の利便性それに伴う危険性、心構えに道具の整備方法などなど基礎を一言一句、寸分違わないよう頭にギュウギュウ詰めにされた。

あの時、死を願うほどに師匠を恨んでいた。今では感謝してもし切れない。本っ当に、申し訳なさで俺が死にそうだ。


次に婚約に関してはなんら問題無い。現状それ程に親しい間柄の人族の女性すら居ない、一応同じ街にいる同業者の女性とはよく話す。が、いつも敵意を剥き出しにしていてそれどころではないし、他の女性と話す事はいつも仕事の話ばかり、浮いた話のひとつも無い。

今年で22歳になり、そろそろ相手を見つけるのも悪く無いのかもしれないが、衣服は所々解れていて泥だらけ、身体中傷だらけのたまにだけ家へ帰ってくる浮浪者の様な男でも良いと言う女性が居ればの話だが。



ん?

あぁ お師匠様。俺はもう別種族の女性にしか希望が無いのかもしれない。いや、彼女達からしても御免か。

という訳で問題無し!。


そして本題の試験、過去に自分が受けた試験よりも至って簡単なものだった。

「今の卒業試験って、こんな簡単なのか?

しかも保護者同伴とは、あの怖い先生方も歳食って温くなっちゃったのかねぇ。」

授業中に眠れば石を投げ、当たった者を永久に眠らせ。

備品を壊せば、全力で振り下ろされる岩をも砕く鉄拳。

サボろうものなら、首根っこを掴み校門から外へぶん投げる。

そんな教育の鬼は多くの生徒から恐れられていた。

まぁ、真面目に授業さえ受けていれば優しい人達なのだが。

しかし温い、顔を合わせた時に学園の内情も一緒に聞いてみようと決めた。


手紙の内容に目を通し、目的の再確認も完了。手紙を折り畳み上着の内ポケットに入れる。

「んじゃま、久しぶりの故郷にむかいますかぁ」

その場から立ち上がりリュックを持ち上げ背負う。中には孤児院へのお土産や食料、錬金術の道具などが入っている俺の旅の相棒。


昔、師匠から街の露天で買って貰った物だ。初めてのプレゼントで只只嬉しかった。嬉しさの余り一日中背負っていたぐらいだ。その最中だろう、

布製のリュックは何処に引っ掛けたのか穴が空いていた。それを見て俺は泣いた。せっかくの、初めての、師匠が、くれた、プレゼント、壊れてしまった。壊してしまった。その事実に、俺はただひたすらに大声で喚き散らしていた。その喚きを聞いて師匠が走ってきた。その惨状を見た師匠は呆れていた。

「馬鹿者っ!、錬金術師を目指す者がその程度の事で喚き散らすなっ!。どれ貸してみろ。」

そう言われ嗚咽を漏らしながら大人しく師匠にリュックを渡す。

「ふむ、何の問題ない。それに丁度良い、そのうちお前に教える予定だったしな、ほらもっとこっちに来なさい。」

そう言って師匠は、リュックの修理の仕方を教えてくれた。ゆっくりと丁寧に、肩紐や縫い目そしてぽっかり空いた穴。時に自分で縫わせて貰った。先程まで漏れていた嗚咽はもう聞こえない、聞こえるのは驚きと質問し考える少年の声。


「ねぇ?これは?」 「なるほど」 「そうなってるんだ」 「すっげぇ」「うぅんなんか違う」


時が経ち、少年も練習用の布に覚束無いが綺麗に直せる様になった頃。師匠がU字の金具を手に持ち、穴の空いた部分に縫い付けていく、そうして穴を縫い合わせた。リュックの外側にL字の金具が飛び出している。

「これは?」

少年が聞いた。

「旅をしているとどうしても荷物が多くなるからな、リュックに入りきらない荷物を紐で縛りそこに結び目を引っ掛けるといい。ただし毎日、点検しておけよ?その部分は外れやすいからな。」

そう言って師匠は念を押していた。


「昨日の夜も見たけど、一応もう一度見ておくか」

そう言って俺は1度背負ったリュックを地面に降ろし布団を引っ掛けている金具が解れていないか確認する。

「うむ、大丈夫そうだ。」

金具を上下左右に引っ張るが少しのズレも無い完璧だ。

今度こそと、リュックを持ち上げ背負った。そして向かう、故郷へ。師匠であり父のいる場所、ルイン王国首都ルィーナへ。


第2話 師匠からの呼び出し ~完~

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