アリストア世界の錬金術師
セツナ
第1話 夢を見る錬金術師
「今日は何して遊ぶの?」
角の生えた女の子が聞いてくる。
「ん?いつも通り追いかけっこ。」
少年がそう応える。
「また?よく呆きないね。」
今まで何度やっても彼は彼女にたったの1度も勝った事はない。それでもまだ諦めずに挑戦してくる彼に彼女は呆れた。
「何度だって挑戦するよ。挑戦者ってのは案外良いものだしな。」
また少年が馬鹿な事を言っている。
「私は張り合い無くて全然詰まらないんだけど。」
少女が拗ねる。
彼女からすればそう言いたくなるのも致し方ない、なにせ少女は全力を出さずとも負ける事は無い。
基礎体力、身体の構造から違う勝負にすらならない。
ので、一定距離間隔が空けば距離が縮まるまで森の散策などをしている。
それでも少年は何とか追い付こうと全身全霊を持って彼女を追いかける。
彼女は、まるで晴天のような透き通った白縹(しろはなだ)色のサラサラでキメ細かい髪を宙に舞わせ、空を覆う木の枝葉から降り注ぐ木漏れ日を纏い、宝石のように人を魅了する美しい光を放っている。緋色の瞳も相俟って神秘的だ、彼女の素振りを眺めているとこの世界の至宝と言っても過言ではなく、彼女は自然からの寵愛を受けているようにさえ想えた。
いやまず、依怙贔屓が無くとも、少年には負けることは無いのだが。
空が茜色に染まり始め太陽が地平線に沈む頃、一方的な追いかけっこは終わる。
彼女は木の枝に座り少年が追い付くのを空に両足を揺らしながら待っている、しばらくして身体中が泥だらけで服の至る所がボロボロの少年が肩で息をしながらやって来た。
「おっそーい。ほら、見て見て。夕陽がとっても、綺麗だよ!」
心身ともに疲弊している少年に、地平線に沈む夕陽を指差し瞳を煌めかせている。
「ちょ、ちょっと…待っ、て……。」
少年はそう言うと息を整える。ある程度整えたら少女と同じように適当な木に登り枝に座った。
「今日は……勝て…る……と思っ、たんだ、けど、な。」
まだ少し息が荒い、普通に喋るにはまだ時間がかかりそうだ。
「勝てるって…、せめて横に並べるようになってから言いましょーねー。
というか大丈夫?人族はひ弱だってお母さんから聞いたよ?
だから遊ぶんだったら駆けっこじゃ無くてさ、私はこの間、君が教えてくれたおままごとでも良いのに。」
そう言って彼女は枝から跳ねる。瞬間重力から解放され空に浮かび始める彼女は水中を泳ぐ様に空を飛び少年の前で滞空する。
「ままごとは、男としては出来ればやりたくないんだよ。
てかどうなってるんだそれ、魔法の類なんだろうけどあまりに理不尽だ。
あぁ、俺も空飛べたらもう少し違うんだろうが。」
ようやく息を整えられた。笑みを浮かべ御満悦の彼女に呆れながら返事をした。すると彼女は頭を振り悩み始める。
「うぅん?
物心が付いた頃にはもう出来てたからさぁ。……ごめんね上手く伝えられそうにないや。」
そう言うと申し訳なさそうに手の平を顔のまえで合わせ首を傾け舌を出した。
そう言う彼女に少年は問題無いと返事をする。
「別に良いよ、いつか自分の力で飛んでみせからさ。」
そんな呆気ない返答に少女は機嫌が悪くなりそしてある提案をした。
「ふーん、でもさやっぱり私今の追いかけっこ面白くない!そうだ!明日の勝負で負けた方が、勝った方の言う事を一つだけ聞くってのはどうかな?」
その提案に少年は顔を引き攣らせた
「今までの流れだと、言う事を聞くのは確実に俺じゃないか……。
まぁ、せめて出来る範囲の事で頼む。物理的に出来ない事はどう足掻いても無理だからな? それで構わないのならそれで良いぞ。」
彼女にはよく無理難題を吹っかけられるので一応釘を刺しておいた。しかし、ここ最近彼女には世話になりっぱなしだ。こんな自分に出来る事ならば彼女の頼みは聞いてあげたい。
それを聞いた彼女は両手両足をピンッと延ばし先程の機嫌は何処へ行ったのか、上機嫌に塗り替えられた。
「本当!?、やったー!!!。
なんにし・よ・っ・か・なー………。」
後は無茶難題が飛んで来ない事を祈るのみなのだが、大興奮し指折り願い事を数えている彼女を見ていると少し不安になる。邪魔をしない様に静かに立ち上がった。
その時もう少し休んでいるべきだったと後悔する。
今までの無理が祟ったのだろう、立ちくらみを起こした。少年は枝から足を踏み外しそのまま地面に落ちてゆく浮遊感。
して同時に周囲が暗くなる…………………。
まぁ、地面に落ちても死にはしないだろうと衝撃に身構える。が、いつまで経っても地面に落ちる衝撃と痛みがない、おかしいと恐る恐る瞳を開いた。
開いた瞳に写ったのは世界の果てかと思える蒼、少し経ってからそれが空である事がわかった。雲が視界の端に入ったからだ。そして俺は大の字になって倒れてる。いや、すぐ側に毛布がある恐らく寝相で退かしてしまったのだろう。となるとだ俺は倒れていた訳ではなく、寝ていた事が解った。
ぁぁ…、しゃびぃし、体痛い…。重い上半身を起こし、ガチガチに固まっている身体をほぐし毛布を被ると太陽が地平線からゆっくりと登り始めるのが見えた。どうやら今は朝のようだ。次第にぼんやりとしていた意識が覚醒していく。
自身の周りにはあの少女の髪のような白縹色の花が一面に広がっていた。
「夢かぁ、しかも昔の…。」
あれは彼がまだ少年だった頃、錬金術の試験真っ最中、人里離れた森林地帯での出来事だった。
卒業試験だと師匠に言われ、1ヶ月間その森の中でのサバイバルを命じらた。確か後1週間という所で、角の女の子に出会ったのだ。
「確かあの時は、あの子の力が気になって結局2ヶ月ぐらい一緒に暮らしたっけな。」
思い返すとなんと無謀な事をしていたのだと我ながら呆れる。まず、角が生えているという事は、一般的に魔族か龍族のどちらかだ。そのどちらも人族の子供が敵う相手ではない。しかし、そんな存在の傍らで2ヶ月生き残ること自体大金星と言えるのではないだろうか?。
「という事は、俺は魔族か龍族相手に勝ち越していたって事か?」
そんな馬鹿を言う彼の一帯に、優しく暖かい春風が吹いた。
彼の周りに咲いている白縹色の花が風に揺られている様は、彼女が苦笑してるようにも見えた。
この物語は、アリストア世界のとある錬金術師を中心に語られる彼や彼女達が過し愛した日常の物語。
第1話 夢を見る錬金術師 ~完~
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