第20話 過去の精算、正義の鉄槌

一体、何をしに来たのか知らないが。

俺は眉を顰めながら.....顎に手を添える。

複雑な思いだった。


ずっと.....縛られてきた拘束具を外したのに.....それでも。

それでも湊、アイツは.....俺を縛る。

もう逃げられないのか俺は?


「.....そんなに悩む必要無いよ。ゆーちゃん。今度来たら塩を撒くし」


「.....七瀬。有難うな。でもこれはマジに俺と湊の問題だから。だから関わる必要は無いからな」


夜になったが湊は戻って来なかった。

つまり.....どうでも良い用事なのだろうけど。

でもそれでも.....頭が痛い。

俺は.....何時まで湊に悩まされなくちゃいけないのだろうか.....。

その様に思いながら.....窓から外を見る。


何時の間にか暗くなっていた。

さっきはそんなに暗くなかった.....のだが。

時間が経過し過ぎたな。

俺は立ち上がる。


「.....七瀬。風呂、先入ったらどうだ」


「.....大丈夫なの?ゆーちゃん」


「もう直ぐ父さんも母さんも帰って来る。大丈夫だ」


俺は和かに返事しながら.....笑みを浮かべる。

七瀬は.....だったら先に入って来ようかな。

と頷いて手を振ってパジャマを持ち、先に入って行った。


その中で俺は直ぐさま、顎にまた手を添えて考える。

港と決着を着ける時なのかも知れない、と思いながら。

七瀬、皆んなを巻き込むわけにはいかない。

絶望がどれだけ酷くても.....俺の事情に他人を巻き込む訳にはいかないのだ。

俺が自ら.....片さないといけない。


「.....アイツ.....何処に居るんだ.....」


考えながら.....窓から外を見る。

煌く星が見えた。

今日は満月の様だが.....輝いて見えない。

気分が落ちているせいだろうけど。


「.....」


湊とはそれなりにあった。

だけど.....もう良い加減に終わらせよう。

思いつつ.....目を尖らせて外を見た。

今の幸せが壊れるぐらいなら.....絶対に今だと思う。


「.....取り敢えず飲み物でも飲むか」


そして俺は考えるのを止めてゆったり過ごした。

七瀬が上がって来たので、風呂に入って。

それから家族と一緒にご飯を食べ、二階に上がる。

しかし湊は来なかった。

来ないなら来ないで良いけどと思う。



再びパズルのピースの原盤を探す。

しかしながら.....やはり見つからない。

俺は.....顎に手を添えながら.....溜息を吐いた。

やはり見つからないモノだろうか。

と思いながら、だ。


「試験は明日か.....」


仕方が無い、と思いながら。

スマホの時計を見て.....溜息を吐く。

それから.....勉強をし始めた、矢先の事だ。


電話が掛かってきた。

非通知設定で、だ。

俺は?を浮かべて.....何時もなら出ないのに出てしまった。

マズイとは思ったが、何だか無視出来ず、だ。


「もしもし?どちら様.....」


『よお.....長谷部。お前の携帯で間違いないか』


「.....お前.....何で.....」


何で.....!?.....湊.....!!!!!

ノートに置いた手に持っていたシャーペンの芯をバキッと折ってしまった。

紙に穴が空く。

思わず、力が篭ってしまう。

そして深呼吸をして.....改めて聞いた。


「お前.....どういう事だ。何で俺の住所を知ってんだ」


『ああ、それな。お前の住所はお前の学校に通っている俺の彼女が盗み見たんだ。それで知っているんだけど.....にしても負け犬。お前.....あんな単純な学校に通ってんだな。しかも女作って?お前の様な奴が、か。偉そうにすんな』


「誰が負け犬だ!」


『負け犬だろ。お前。逃げたじゃねぇか』


コイツ.....。

話しているだけでも冷や汗が出るし、イライラする。

俺は.....シャーペンを荒っぽく置きながら.....俺が考えていた用件を伝えた。

この事を、だ。


「湊。ちょうど良い。喧嘩でも良いけど決着を着けよう。俺が負けたら俺は負け犬で良い。でもお前が負けたら.....もう二度と俺に関わるな」


『.....ハァ?お前、何様?』


「お前という腐食液が有ると俺の生活の全てが崩れるんだよ。良い加減にしてくれ。悩みが.....お前なんだよ!」


『.....分かった.....そこまで言うならお前の周りを壊してやる』


つーか、疎ましいんだよお前。

とボロカスに俺に対して湊は言う。

俺は目の前の窓から外を見た。

そして.....廃学校で決着を着けるぞ。

と俺は提案した。


『分かった。近いし行くわ。今から集合な。それが嫌ならお前の家に行くわ』


「来るな。お前の様な奴は嫌いだから」


『.....あっそ。俺もお前が嫌いなんだけど』


「.....昔の俺とは違う。お前の様な奴に心は折れたりしない」


言ってろ負け犬。

と話して、電話は切れた。

俺は.....上着を着て.....家を飛び出そうとする。

その際に.....七瀬と両親が俺を見た。


「何処に行くんだ?」


「.....近所のコンビニに菓子買ってくる」


「おう。じゃあ気を付けてな」


七瀬は俺を見つめ、そして.....直ぐに駆け寄って来た。

違和感を感じたのだろう。

俺に縋る様に.....見てくる。

そして小さく聞いてきた。


「ゆーちゃん。何処に行くの」


「.....だからコンビニだって」


「.....嘘だね。何かあった?例えば.....あの男から電話があったとか?.....ゆーちゃん。嘘を吐かないで」


「.....」


俺は七瀬を振り切って靴を履いた。

ゆーちゃん!!!!!と声がしたが無視で走る。

それから七瀬が追って来れない速度で走る。

とは言え、運動不足であまり走れないのだが。

そして.....廃校舎を目指す。


「.....ごめんな。七瀬。終わったら全てを話す」


その様に呟いて走った。

それから廃校舎に入ってからペンライトを点ける。

夜の為、真っ暗な校舎の中。

俺は歩く。


「.....湊!何処だ!」


そう言った瞬間。

人がゾロゾロ出て来た。

その数、四人。

俺は驚愕しながら.....見つめる。

ど、どういう事だ?


「.....よお。お前に心底ムカついたからラグビー部の俺の親友呼んだんだ。殺してやるってな。今度こそお前を」


「い、インチキだろお前!!!!!」


「なにがインチキだ負け犬。お前だって.....俺の足の事を知っている癖に呼んだだろ。これくらいのハンデは有っても良い筈だ」


ガタイの良い連中は俺を見つつボキボキと手を鳴らして、コイツやっちまって良いんすかね?先輩とか言っている。

俺はまさかの状況にかなり怯む。

ど、どうしたら良いのだ。

そうしていると.....背後から声がした。


「そんだけの人数でハンデもクソも有るか。ハンデじゃ無くてチートだろ。俺の息子になにしてくれてんだ」


「.....親父!!!!?」


何故か背後に親父が立っていた。

俺を.....怒った様に見つめている。

この状況を導いた事にだろう.....けど。

だけどちょっと待て.....確かに親父は鍛えているけど.....!


「お、親父!危ないって!」


「何が危ないんだ?お前のやっている行動の方が危ないだろ。後で説教するぞお前」


「.....!!!!!」


親父は確かにダンベルを上げて鍛えてはいる。

だけどコイツらは桁が違う。

しかもラグビー選手だぞ。

どうなってもおかしく無い。

俺は親父を止めようとした、のだが。


「負け犬が一人増えたぐらいで意味ねぇっつうの.....」


やっちまえ、お前ら。

と指示をして.....親父に襲い掛かった。

舐められたもんだな、と親父は口角を上げる。


いや、え?

何だこの状況.....マジにどうしたら良いのだ?!

と思ったのだが。

予想外の事態が起こった。


親父は一瞬にして片したのだ。

殴るとかじゃ無くて、タックルで、だ。

へ?と俺も、湊も言う。

親父はパンパンと手を叩きながら溜息を吐いた。


「残念だったなボウズ。俺も実は大学時代までラグビー部だったんだよ。ついでもって言うなら一年間、主将でね。俺は身長低いけど.....でも頭に大体、ラグビー選手の動きは入ってんだ。って言うか本当にラグビー選手かコイツら?.....素人の動きの様な感じだったが」


「.....そ、そんな馬鹿な.....」


あまりのあっという間の事に愕然としたのか。

湊は.....ロフトクラッチングの杖を横に倒した。

そしてその場に尻餅をつく。


俺も唖然としていた。

いやいやいや.....って言うか.....親父がラグビー部の主将とか初めて聞いたんですが。

と思いながら顎を落としていると親父は手を横に振りながら言った。

俺を見て穏やかに、だ。


「.....一発、ソイツをぶん殴れ。勇大。.....全く懲りてないみたいだし」


「.....!.....有難う。親父」


「く、クソッタレ!お、お前ら!冗談だろ!起きろ!起きろよ!!!!!クソッタレ!!!!!」


何でだよ!ちきしょう!と悪態を吐く、湊。

ロフトクラッチングの杖でバシバシとラグビーの奴らを目覚めさせる為に叩きながら青ざめてアワアワする、湊。

その中で思った。


湊、お前は本当に強かったと思う。

昔は本当に.....俺を追い詰めたんだから。

相当強かったんだ。


だけど今のお前は違う。

周りに頼り切っているお前は.....違う!

そして.....こんな不良みたいな奴らと一緒なお前も!

怯む湊に俺は思いっきり手を振った。


バキィッ


と.....頬にめり込む様な音がした。

そして俺は.....湊を思いっきりぶん殴った。

それは.....過去と決別の意味で、だ。

もう懲り懲りだ、と思いつつ。

そのまま湊は地面に倒れ.....気絶。


その日を最後に俺は湊と決別した。


そして.....過去の全てを精算した。

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