第18話 光と影
長谷部勇大。
俺だが、まあ簡単に言えば一回.....死んだ。
それは.....前の小学校のクラスメイトや教員に殺されたと言える。
精神が死んだのだ。
だけど今。
俺は一歩ずつ.....反省の意味を込めて動き出している。
そして周りに接している。
それから.....周りの環境を維持している。
皆んな優しいと思う。
御白も.....七瀬も.....鮎川も。
俺は.....幸せだった。
だけど最大の心残りとしては.....女性。
つまり.....俺を助けてくれた女性の名前を思い出さない事だ。
俺と七瀬、御白と菜々先輩は目の前の墓を見つめる。
土曜日、約束の墓参りをしていた。
それは.....小児癌で戦いながらも天国の階段を登ってしまった.....昴さんの。
俺は.....複雑な面持ちで.....水を桶の中に有る柄杓でかける先輩を.....静かに見ていた。
「.....昴。皆んなが来たよ。初めましてだね。この子達は私の後輩だ。そして.....部活を救ってくれた人達だよ」
手を合わせ線香に火を灯しながら線香を立てる先輩。
その様子に俺は足を曲げた。
それから.....七瀬も御白も足を曲げる。
そして手を合わせた。
線香の良い香りが.....鼻腔をくすぐる。
「.....今日は来てくれて有難うな。皆んな」
「.....先輩の為ですから」
「.....だね。ゆーちゃん」
「はい」
空は快晴だった。
昴さんが.....見渡すのが容易い様な感じで、透き通っている。
因みに昨日の事も有り、俺は.....人を大切に思う気持ちが強くなっていた。
俺は.....昴さんの様になれるだろうか。
「.....部活を守るのは容易い事じゃ無い。だけど.....君達はやってくれている。だから感謝しか無いよ。皆んな」
「.....私達.....昴さんに認められる事をしていますかね」
ふと、七瀬が不安そうに話した。
俺は.....そんな七瀬を見ながら.....目の前の昴さんの墓を見る。
菜々先輩は.....そうだね、と小さく言ってから。
大丈夫、昴も認めている、と笑顔になった。
「何故かって?私が認めているからだよ」
「.....はい」
「.....良かったな。七瀬」
笑みを浮かべながら.....俺たちは顔を見合わせる。
それから.....桶を静かに持った先輩。
手をパンパンと叩いた。
さて、行くか、と笑みを浮かべて話す。
それに俺達は顔を見合わせて口角を上げて言った。
「.....はい」
「「はい」」
と、だ。
それから俺達は海辺に有る墓地を離れ。
街に出て来た.....のだが。
俺は.....笑撃を受ける事になる。
何故かって?
それは.....だな。
☆
「しかし.....街というのはどうも落ち着かないな」
「先輩は通い慣れないんですか?」
「だな。私は物静かなのが好きだ。ハハハ」
街の中。
所謂、少しだけ都会的な感じの街だ。
俺たちの街から数駅先の街。
その街の中を歩く。
人混みが多く、俺も少しだけ人にあてられていた。
「.....先輩。大丈夫ですか」
「.....俺は頑丈だから。それなりには」
俺は笑みを浮かべる。
でも昨日は昨日だった。
あれは頑丈とは言えない。
まるで稚児の様に七瀬の中で号泣して情けなかった。
恥ずかしいな俺。
「大丈夫?ゆーちゃん」
「.....まぁ大丈夫だ。死なねぇから」
「.....だと良いけどね」
そして固まって歩いていると。
人混みが.....増した、その時。
俺は思いっきりに見開いてしまった。
何故、見開いたかって言えば.....目の前に.....湊が.....立っている。
所謂ロフトクラッチング?の杖だっけかそれを使って.....歩いている。
それで多分、湊だろうと気が付いた。
成長しているが.....茶髪のままだ。
そして顔立ちは更にイケメンになっていて、サングラスを着けている。
その青年は俺を見て.....サングラスを外した。
「.....お前.....長谷部か」
「.....湊.....」
え、と一言吐いて。
七瀬がキッと目を細めて警戒心を露わにする。
菜々先輩と.....御白は?を浮かべていた。
まさか.....コイツがこんな場所に?
冷や汗が掌に集まる。
心臓が.....鼓動が早くなる。
額を汗が流れた。
湊は俺を見つめる。
目を笑わせないが俺を小馬鹿にしている気はした。
「.....何だお前、外に出れるのか?ハハッ」
「.....だから何だよ。出ちゃ悪いのか」
「いや.....まぁ.....御免な.....うん」
俺は悪いとは思っている。
だけど湊は俺を馬鹿にしている気がした。
コイツ.....と思っていると。
七瀬が強く俺の手を引いた。
「行こう。ゆーちゃん」
「.....」
だが.....七瀬を見て湊は目を細めた。
それから.....怒った様な.....目を向ける。
いや、違うか、相当に不愉快そうな目をしている。
まるで.....何故お前だけが幸せそうになっているんだ?という感じだ。
そして七瀬に聞く。
信じられないですね、的な感じで。
「アンタ.....長谷部の彼女か」
「.....違いますけど」
「.....申し訳無いけど.....アンタ真面目そうだ。.....ソイツに付き合う必要はねぇよ」
ハァ?と前に出る、七瀬を止める。
コイツは.....俺が.....俺の全ての.....元凶であり。
そして.....俺が生み出した敵であり。
俺が最も.....恐れないといけない。
「.....お前.....本当に不愉快な事をするね。昔から嫌いだよそういう.....お前が」
「.....」
「.....本当に不愉快で憎たらしいんだよ。お前。俺の足を人生を奪っていて」
「.....」
何も言い返せない。
その様に静かに考えて握り拳を作っていると.....先輩が割って入った。
それから.....ニコニコしながら言う。
まるで女神の様に、だ。
「.....まぁまぁ、二人共。何があったか知らないけど.....仲良くやりな」
何だこのガキ?と言う、湊。
ガキじゃ無いよ、と菜々先輩は言う。
その後に.....猛烈な黒いオーラを出した。
でも.....と言葉を発しながら、だ。
見開く、湊。
「.....申し訳無いけど、私の部員を愚弄するのは止めてもらえるかな。君がどんな人生を歩んだか知らないけど、不愉快だからね」
明らかに怒っていた。
目の前に御白が立って行く。
俺はその二人に、い、いや!と言葉を発した。
すると湊は周りを見てチッと舌打ちをする。
それから笑顔を浮かべた。
「.....まさに不愉快だな。お前。仲間も不愉快って感じだ」
「.....」
そして、じゃあな、と笑顔が無くなった真顔で去って行く。
俺にわざと打つかりながら。
痛みに少しだけ苦痛の顔を浮かべながら。
俺は立ち尽くした。
「.....大丈夫かい?」
「.....すいません。帰ります。俺。ちょっと.....しんどいんで」
「.....ゆーちゃん.....」
楽しい気持ちが一瞬で崩れ、壊れた。
アイツとは.....やはり上手くはいかない。
そして.....二度と会うべきでは無い。
その様に.....改めて思う。
いや、思ってしまった。
例えるなら永遠に交わらない水と油。
ああそういや、メビウスの輪ってのも有ったっけな。
あんな感じで.....永遠に答えが出ない。
まるで彷徨っている二人だ。
お互いに.....絶望しか.....無いのだ。
複雑な.....思いしか無いのだ。
二度と会わない事を祈りながら.....俺は引き返して歩き出した。
とぼとぼと.....駅の方角まで、だ。
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