第六章 過去の凄惨な記憶

第16話 涙

だからと言え俺に対して鮎川の接し方が大きく変わった訳じゃ無い。

簡単に言うなら、クラス委員のままだったのだ。

俺への態度も.....何もかもが、だ。

つまり、クラスでも何時もの様な感じだ。


でも大きく変わった訳じゃ無いが俺の事が好きだと判明してから小さくは色々と接し方が変わった。

一体何が変わったかと言えば鮎川は幼馴染の一人として胸の中に有る全ての気持ちに前向きになったのだ。

それから.....俺に教室で接してくれる。

それはまるで.....仲が良い昔からの親友の様に、だ。


俺は.....その様子に赤面せずには居られなかったけど.....でも。

そんな姿を見て俺も気持ちが前向きになった。

世界は確実に変わり始めたのだ。


それは簡単に言えば.....世界に色鉛筆で色を描く様に。


僅かに色が付き出して.....そしてパァッと色が付いたのだ。



「で、私と菜々先輩を置き去りにして.....一体何処で何をやっていたのですか」


「.....すまんかった。御白」


「.....そうだね。ゆーちゃん」


プンスカ怒る御白。

腕を組んで頬を真っ赤に染めている。

それも有るけど、俺達は先輩の威圧を受けてもいたので正座していた。

なんつうか.....殺されそうです。


特に俺に対しては目が笑わない。

完全に据わっている。

恐怖しか無い。

ガタガタ震えながら俺は冷や汗を流す。


「.....勇大。用事済ませたら戻って来るって言ったよね?あはは。遅かったなぁ」


「す、すまなかったです」


「あはは。謝って済むなら警察要らないけどね。私達、図書室から帰って来て用事を2件も済ませたんだけど。あはは」


「.....」


あかんこれ。

先輩が怖いんですけど。

マジに、だ。


本格的にズタズタに殺されるんじゃ無いかってぐらいの威圧です。

あらやだ!菜々先輩、怖い!

思いながら七瀬を見る。


この状況でも七瀬は何だか嬉しそうだった。

笑みを浮かべている。

俺にとってはヤレヤレな感じだった。


すると御白が?を浮かべていて、あ!もしかして二人でイチャイチャしていたとか!

と慌て出した。

その姿を見てから先輩は真正面に向いて笑みを溢す。

七瀬に対して、だ。


「.....水色?何だか気が晴れた様に嬉しそうだね」


「.....はい。私、嬉しいんです」


「.....」


本当に.....うーん。

どうなる事かと思ったけど。

その様に思いながら立ち上がる。

そして七瀬の手を握って立ち上がらせた。


それから先輩を見る。

先輩は腕組みを止めて鼻息を出してから外を見た。

そして俺と七瀬をまた見る。


「説教はここまで。色々活動をやって今日はもう遅い。帰ろう、皆んな」


「.....ですね」


「そうですね」


七瀬は帰宅の準備を始める。

御白も、だ。

その姿を見つつ俺は窓から外を見た。


そして俺も準備を始める。

今日は本当に色々有ったな.....と思いながら、だ。


明日からまた.....何か変わった日常が有るだろう。

その様に.....思えた。

今日で.....結構変わった事が有ったから、だ。

何が起こるか.....楽しみな感じでも有るけど.....。



世に言う、ジグソーパズル。

それは.....簡単に言えば、嵌ったら嵌ったでスッキリするオモチャだ。

だけど俺達の場合は別の意味に聞こえる。

何故かと言われたら.....ジグソーパズルは嵌れば婚約の証という事になるから、だ。

つまりは婚約指輪に近い。


七瀬水色。


鮎川西見。


その二人の少女が持っているジグソーパズルのどちらかが俺の持っているネックレスジグソーパズル原盤に嵌ればどちらかが俺と婚約する事になる。

俺は自室で.....ネックレスジグソーパズルの原盤を探していた。


棚を漁り、机を漁り、奥を漁り、のその中で考える。

未だに俺が記憶が無い事を、だ。

鮎川の記憶も七瀬の記憶も無くそして.....ネックレスに見覚えも無い。

何故、俺はこんな感じなのだろうか。


これでネックレスを探すなんて無謀と思えるかも知れないけど探すしか無い。

だって俺にとっても皆んなにとっても大切だと思うしな。

そして.....俺の将来を決めるかも知れないのだ。

運命を決めるかも知れないのだ。


「.....でもそれにしても無いな。それらしきものは」


せめて形でも分かればと思うが。

それすらも分からないらしいから。

夜も遅くなってきたし.....止めておこうかな。

取り敢えず.....勉強もしないといけない。


「.....ヤレヤレ.....クソッタレだなマジに」


荒れた部屋の中で俺は天井を見る。

木目が見えるだけで意味は無いけど天井を見つめる。

しかし.....形.....形か。

四角形?三角形?何だろうな.....。


『はーちゃん、私ね.....』


また.....そんな声がした。

俺は顎に手を添える。

そして考えた。


「.....また.....記憶が過ぎったな。.....これは.....鮎川か」


俺は顔を天井から背けて時計を見る。

今の時刻は二十時.....か。

探すのを諦める訳にはいかないけど.....明日テストだもんな。

取り敢えずは今は置いておこう。

そして勉強しながら形を考えてみるか.....。


「.....」


しかし.....ん?

ピースが嵌れば結婚.....って.....。

俺は改めて考えながら猛烈に赤面した。

考えたけど結構ヤバくねぇかそれ!?

つい流し目で見ていた感じだったけど!?


「.....俺の様なボッチがそれで良いのか」


そんなに幸せになって良いのだろうか。

昔の事も.....有るし。

イジメに遭っていたあの頃。

幸せになる様な人間なのだろうか、俺は。


「幸せになる必要が有るよ?」


「.....ウオォ!?お前!?」


突然に目の前に七瀬が現れた。

俺は驚愕して見開く。

それから.....七瀬を見る。

七瀬は笑みを浮かべていた。

何をしているの?と、だ。


「いやいや、勝手に入って来るなよ」


「だってノックしても返事が無かったから。ゆーちゃんが悪い」


「.....ハァ.....」


それはそうと.....もしかしてネックレスを探していたの?

ホコリだらけだし。

と嬉しそうに七瀬は言う。

そして七瀬はベッドに腰掛けた。

俺はそれを見ながら荷物を持って元の場所に戻す。


「.....そうだな。ネックレスが気になるからな」


「.....簡単には見つからないと思うけどな。記憶が無いんだよね?」


「.....そうだ。だけどお前らの為に.....探す必要が有るからな」


「.....そんなに無理はしないで良いんだよ?ゆーちゃん」


でもな、と俺は口角を上げる。

それから荷物を置いた。

約束は守る男だからな、と俺は話す。

無いなら無いでイライラするし。

不安にもなる。


「.....有難うね、ゆーちゃん」


「.....こっちこそ、有難うな。お前にも鮎川にも感謝だよ」


お前らのお陰で。

周りにも支えられて.....。

と思っていると。

視界が歪んだ。


「.....ゆーちゃん!?」


「.....あれ.....」


いきなりだった。

両目から涙が止まらなくなり。

と同時に.....嫌な記憶が.....蘇ってきた。

その記憶が.....だ。

ちょっと待て.....何故今なんだ.....!!!!!

七瀬が駆け寄って来る。


「.....ゆーちゃん.....!」


「.....す、すまない.....何だろうか。ごめんな」


「えっと.....昔の.....」


七瀬は心配げな顔を俺の背中に手を添えて見せる。

俺は静かに少しだけ考えて頷いた。

昔の記憶。

それははっきり言って.....凄惨な記憶だった。

あまり.....思い出したく無いのだが.....。

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