第10話 記憶が無い事への複雑な思い

御白雪子。

俺の後輩で七瀬と違って俺は御白と一緒だった頃の記憶が有る。

その事が判明してから七瀬は少しだけ悲しげな顔をしていた。


俺はそんな七瀬に控えめに声を掛ける。

今、俺と七瀬は困惑の最中で一緒に登校していた。

御白は用事が有ると先に行ったが.....。


「.....すまん。七瀬。お前に不愉快な思いをさせたな」


「大丈夫だよ。ゆーちゃん。そういう事も有ると思うから。これから作っていけば良いんだよ。思い出ってね」


「でもお前が落ち込んでいる姿を見ていると.....申し訳無く感じる。本当にすまない」


そして自分に腹立たしい。

何故.....七瀬の記憶を思い出さないのか。

俺は馬鹿になっちまったのか?

その様に.....思ってしまう。

何故、思い出せないのだろうか。


「.....ゆーちゃん。思い詰めても仕方が無いよ。そういう事も有ると思うから」


「.....」


「私ね、ゆーちゃんが思い出そうと必死なの知ってる。.....だから全然、不満じゃ無いから。そして.....ゆーちゃんは優しいから」


「.....そうだな」


何故.....この笑顔を見れないんだろうか。

一体何故、思い出せないのか。

少しだけ自分が嫌いになりそうになっていた。

その時だ。

背後から声がした。


「よ。お二人さん」


「.....先輩」


「.....菜々先輩?」


菜々先輩だった。

俺達の部の部長で三年生。

可愛らしく身長が低いのがチャームポイントだと思う。

俺達を見ながら首を傾げていた。


「どうしたんだい?」


「.....いえ.....何でも無いで」


そこまで言い掛けた七瀬に俺は割って入った。

それから先輩に聞く。

その疑問を、だ。

俺は.....聞かずに居られなかった。


「先輩。俺.....思い出せない記憶が有るんです。それを.....思い出す方法を聞きたいです」


「.....?.....それはどんな記憶だい?」


「.....それは.....七瀬との過去の記憶です」


「.....え?」


先輩は目を丸くする。

七瀬はゆーちゃん!?と驚く。

俺は.....先輩なら人生経験豊富かと思ったのだ。

その為に聞いた。

答えはきっと出ては来ないと思うけど.....ヒントは得られるかも知れない。


「.....水色は勇大、君にとっては本当に大切な人なんだね。過去の記憶が思い出せないという事は.....それは何らかの障害が有って思い出せないだけかも知れない。忘れているんじゃ無く、記憶の部屋に鍵が掛かって思い出せないだけじゃ無いかな。私も.....昴との過去の記憶が無いからね」


「.....え?」


「.....思い出そうとするとモヤがかかるんだ。まるで.....霧の様な、ね。多分.....昴を失った為に起こっているんだろうけどね。でも.....昴とは今の思い出を徐々に作っていった。だから今が有るんだ。今の思い出は無くならない。私が死ぬまではきっとね。だから.....今の思い出を作っていけば良いんじゃ無いかな。囚われているだけじゃ.....未来は暗いよ」


先輩は少しだけ笑みを溢した。

モヤが.....かかる。

それは俺と同じの様な気がする。

先輩の様な.....経験はしてないけど.....でも。

俺は.....モヤがかかって思い出せない。


「.....ゆーちゃん」


「.....どうした?七瀬」


「.....無理はしないで。菜々先輩もそう言っているんだからね」


「.....ああ」


過去の七瀬を思い出せない。

だけど.....今という時間が有る。

それは良い事だと.....先輩が言った。

俺は.....その事を胸に手を当ててから考える。

そして先輩に向いた。


「.....先輩。ヒントを有難う御座います」


「.....私は特にアドバイスも何もしてないよ。私の人生を語っただけだ。それは良いけど行こうか。水色。勇大。こんな場所で立ち止まっていても仕方が無い」


「.....そうですね」


「そうっすね」


そして俺達は頷き合って学校に登校した。

それから教室に向かっていると。

目の前に御白が立っていた。

そして俺に笑みを浮かべている。


「.....御白?どうしたんだ?」


「先輩。先輩って部活入っているんですか?」


「.....ああ.....まぁ」


「じゃあ私も部活に入って良いですか?」


パキンと何かが凍り付く音がした。

俺はゾッとして背後を見る。

そこには.....七瀬が笑顔で立っている。

立っている.....んだが。

目が笑ってない。


「.....な、七瀬?.....お、落ち着け」


「ん?私は何時でも落ち着いてるよ?あはは。ゆーちゃんったら」


「.....」


七瀬さんが.....怖いんですが。

マジに、だ。

まるで俺が解体されそうな。

そんな勢いで有る。

誠に怖い。


「先輩。七瀬先輩怖いです.....」


「.....御白。お前のせいだぞ.....」


「ゆーちゃん」


お互いに罪をなすりつけ有っていると七瀬が重厚な声を発した。

そして俺を見つめてくる。

ビクビクしながら顔を向ける。

あはは、と笑いながら、だ。

俺はビクッとしながら返事をする。


「あ、はい」


「お残しは許しませんって言うか。そんな感じだけど浮気は許しませんからね」


「.....あ、はい」


浮気じゃ無い.....んだけどさ。

マジに怖いんだけど.....。

このままでは殺されそうな気がする。


と青ざめて思っていると御白が、じゃあ、用事終わったので.....帰りますね。

その様に話して御白はさっさと逃げて行った。

あの野郎!!!!!

俺は振り返るが既に居なかった。


「あ、それとゆーちゃん」


「.....あ、はい?」


「.....後輩で可愛いからってデレデレしないでね?」


「.....あ、はい.....」


威圧の威圧だった。

重厚だな.....。

こんなに声が重厚な人の声って.....聞いた事が無い。

俺は七瀬に時計を指差して言った。


「な、七瀬。早く教室に入らないとホームルームが.....」


「.....そうだね。ゆーちゃん」


「.....う、うん」


もう一度言うが、目が全く笑って無い。

浮気なんて.....出来ねぇなこれ。

マジに死ぬわ、と思った日でした。


俺は勉強しながら.....胃痛を感じつつ。

放課後を.....待つ。

というか永遠に放課後なんて来なくて良いと思ったのだが来てしまった。

俺は盛大に溜息を吐く。

マジに御白が来るのか.....?と思いながら。



「部員が増えるのは良いんだけど.....修羅場を持って来ないでもらいたいけどね。あはは」


「.....先輩。何とかして下さい」


「無理だね。アッハッハ」


先輩は笑いながら。

そして.....俺は萎縮しながらお茶を飲む。

目の前では.....バチバチと火花を鳴らしながら御白と七瀬が向き合っている。

俺.....ついこの間まで女の子とか関わり無かったのにな。


「.....御白さん。取り敢えず.....私のゆーちゃんには手出しをしないで下さいね」


「怖いですけど.....私も先輩の後輩。黙ってはいられません!」


「.....お前ら.....」


あははと苦笑する、先輩。

勘弁してくれ。

思いながら.....俺は額に手を添えた。

それから.....盛大に溜息を吐く。

そうしていると.....ノックが聞こえた。


「.....ん?仕事かな」


「あ、そういう事っすか」


直ぐに七瀬と御白を置いてノック主の顔を見た。

そのノック主は.....丸眼鏡の少女。

俺は目を丸くしながら見ると.....少女はビクッとしながら俺を見た。

えっと、と困惑して言いながら、だ。


「.....ここ.....確か手助け部ですよね.....?」


「.....そうだが.....君は?」


「あ、私、白島って言います。その.....手助け.....して欲しくて.....ヒィ!?」


涙目になる、白島さん。

背後に視線のキツい二人が立っていた。

また女かよ的な感じで、だ。


俺はまた盛大に溜息を吐きながら。

ヤレヤレ、と言った。

大丈夫かなこの部活.....手助け部なのに.....。

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