第7話 昴と菜々

山崎先輩という先輩が部長をやっている部活。

通称、手助け部に入る事になった。

というか.....部活に入る事になるとは思わなかったが。

山崎菜々先輩の困っている姿を見て俺達は部活に入ろうと決めた。

しかし問題は本当に山積している。


先ず、部員が足りない。

そして.....2つ目に先輩しか居なかったので教室が汚くなっている。

掃除が必要だ。

俺は.....その事を考えて手助け部を広める方法を考える。


因みに顧問は居るので、それは問題無い。

顧問の名前は佐藤満(サトウミチル)。

三年生を教えている女性の講師らしい。

常に.....菜々先輩の心配をしていたそうだ。

佐藤先生も佐藤先生なりに頑張っていた様で。


俺は本気でこの部活を継続させたくなった。

だけど恐怖も有る。

俺の様な役立つが役に立てるのか?

その様な恐怖が、だ。

そして昔の事を思い出す。


『お前の様な奴は役に立たないんだ』


同級生のあの言葉。

今でも本当に冷や汗が出てくる。

俺は.....冷や汗を拭ながら。

七瀬と共に職員室に向かった。


「.....じゃあ正式に.....入ってくれるのね?」


佐藤先生。

ボブヘアーの黒髪に。

少しだけ年取った顔だがそれでいて.....母性が有る。

何だか.....母親だったら嬉しい顔だ。

そして笑みが絶えない。


「そうです」


「はい」


そうなのね.....と佐藤先生は俯く。

何だか懐かしいわ、と呟いた。

それから.....外を見る、佐藤先生。

俺は?を浮かべながら見る。


「いえね。長谷部くん。七瀬さん。貴方達を見ていると.....昴くんと菜々さんが来た.....手助け部を創設したいって言い出したあの頃を思い出すの。当時は.....そんな部活は受け入れられないと思っていたんだけどね。だけど.....こうして後輩が.....やって来た。部活をやっている意味が有ると再認識したわ」


「.....」


「.....ちょっと懐かしくなっちゃってね」


少しだけ涙を浮かべた、佐藤先生。

俺と七瀬は.....互いに顔を見た。

それから.....佐藤先生に言う。


「.....部員が必要なんですよね?」


「.....そうね。そうしないと活動費が出ないかも知れないわ」


「.....じゃあ私、つてを辿ってみます」


「.....任せて良いか。七瀬」


うん、と頷く七瀬。

俺はそういう方面に向いてない。

だから俺は片付けをしようと思った。

佐藤先生は書類を見ながら頷く。


「正式に受理しました。貴方達が部員になった事をね。.....有難うね」


「.....佐藤先生が顧問で良かったです。ね?ゆーちゃん」


「.....そうだな。じゃあ片付けしてきます」


「はい。でも疲れた時は休んでね。二人とも。後で私も伺うわ」


はい、とお互いに返事しながら。

職員室を後にする。

佐藤先生が手を振ってくれた。

俺達はそれを見てから。

互いに顔をもう一度、見た。


「.....じゃあ戻ろうか。ゆーちゃん」


「そうだな。取り敢えずは片付けだ」


「.....うん」


今のゆーちゃんは本当に輝いてるね。

と七瀬は小さな声で赤面しながら言った。

俺はそれを聞きながら赤面する。

七瀬が来てから世界が輝いた気がする。

まるで.....一度きりのスローモーションの出会いだ。


「.....七瀬。お前に会えて良かった」


「.....恥ずかしいけど.....有難う」


「ああ」


活気が無かったんだ。

それに対して.....まるで雲の間から射した光の様に現れた。

七瀬が、だ。


俺は.....頑張ろうと思いながら腕まくりをして階段を登った。

そして部室に帰ると、お茶を淹れた先輩が待っていて。

俺達にニコッと接した。


「お帰り。有難うね」


「.....いえ。全く問題無いです」


「.....部員集めはゆっくりで良いよ。無理はしないでね。私も出来る限りは最大限に協力するから」


「はい。菜々先輩」


君達はまるで.....私にそっくりだ。

と菜々先輩は嬉しそうに紅茶の入ったケースを片したりする。

当時の.....昴先輩と菜々先輩ってどんな感じだったのだろう。

俺は.....思いながら訊こうとしたが。

その前に菜々先輩が語り出した。


「.....私は昴が好きだった。本当に好きだった。だから昴は.....私に最後に言ったんだ。こうね。.....君と居れて幸せだった.....って」


「.....」


「あ、そう言えば。君達は付き合っているのかな?それ聞いても良いかな?」


「.....えっと.....私達はまだ付き合って無いです」


えへへ、と後頭部を触りながら七瀬は言う。

俺はそれを見ながら.....少しだけ苦笑した。

先輩は俺を目をパチクリして見ながら。

そうなんだね、と言う。

でも仲が良いね、君達、と話した。


「.....俺.....実は七瀬の記憶が無いんです。初めて出会った時の記憶.....両親は幼い頃から知っている様ですが.....初めて会った時の記憶は俺だけが無いんです」


「.....そうなの?」


「.....でも私は.....今から思い出を作っていけば良いと言いました。ゆーちゃん。私は彼が好きだからです」


目を柔和にする先輩。

愛しているんだね、と.....先輩は言う。

その事に、はい、そうです、と控えめに七瀬は言葉を発した。

先輩はゆっくりと.....外を見る。


「.....もし良かったら部活が復活した事も有るし昴に私と一緒に挨拶に行ってくれないか。この地区の墓地に眠っているから.....」


「.....はい。誘って下さい」


「.....まさか部活が復活するとは思わなかったからね.....本当に.....」


先輩はまた涙を浮かべた。

それから.....笑顔を見せる。

そして穏やかな感じでこの様に言ってきた。


「.....水色ちゃん。勇大くん。君達は.....付き合っても全く問題無いカップルになるよ。そんな感じがするから」


「.....先輩.....」


「.....私が認めるんだから。昴も.....この場に居たら同じ事を言うだろうからね」


本当に有難う。

そして先輩は頭を下げて俺達に口角を上げた顔を向けた。

強いなこの人。

俺は思いながら過去を思い出す。

嫌だった過去を。


見習わなくちゃいけないかも知れない。

俺は.....この人を。

そしてこの場所でこの人を。


今の周りを見習って.....俺自身が成長していきたい。

その様に.....思った。

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