第6話 部活を創設した理由

先輩は手助け部の教室に案内をしてくれた。

中は閑散としていて、手前に学習机が3つほど有り、その奥には埃が積もった学習机が奥に天井ぐらいまで積まれている。

俺は横を見た。

ポットが有ったり、書類が有ったり。

漫画が有ったり、ラノベが有る。


「まぁ閑散としているけど入って入って」


甘ったるい様な声で俺達を見てくる、先輩。

俺は、お邪魔します、と言いながら。

横の七瀬は、失礼します、と言いながら教室にそれぞれ入る。

そして学習椅子。

つまり、俺達が勉強の為に何時も使っている椅子に腰掛けた。


「お茶淹れるからね。ちょっと待って」


「あ、手伝います」


「お?有難う」


そしてそのまま先輩と七瀬がお茶を淹れる作業に入った。

その間、俺は周りを見渡す。

奥に椅子と机がきっちり並べられており、真正面に黒板が有る。

そこには.....手助け部、概要、的な感じで書かれていた。

俺はそれを見ながら.....外を見る。

グラウンドが見えた。

野球部かサッカー部か知らないが、活動している。


「.....」


サッカーか。

嫌な思い出がまた蘇るな。

俺を虐めていたのも.....サッカー部の連中だった。

思いながら.....少しだけ溜息を吐く。

すると。


「入ったぞ。飲んでくれ」


「あ、有難う御座います」


先輩が急須で入れたコップに入ったお茶を渡してきた。

俺は.....そのコップを見る。

中には茶柱が立っていた。

ははっ、何だ?

今日は.....微妙に運が良いな。


「どうしたの?ゆーちゃん」


「茶柱が立っているからな。それで.....運が良いのかなって思ったんだ」


「お、本当だね」


先輩がニコッとする。

それから.....俺達を、さて、と言いながら見てくる。

そして笑顔を見せ、プリントを渡してくる。

俺達はそれを受け取った。


「これ、手助け部の概要だよ。もし良かったら読んで」


「.....あ、有難う御座います」


「有難う御座います」


早速、読んでみる。

プリントは華やかな感じがしながらも手書きだった。

かなり.....絵が上手い。


手助け部。

それは簡単に言えば、困っている人を助ける部活。

創設者は山崎菜々、伊藤昴。

伊藤昴?


「.....この伊藤昴って人は.....何処に?」


「.....あ?.....ああ。えっとね.....昴は.....死んだんだ」


「「え?」」


声が裏返ってしまった。

一体どういう.....と思っていると。

先輩は少しだけ悲しそうな顔をしながら.....俺と七瀬を見る。

それから誰にも言わないでほしいと言った。


「.....小児癌って知っているかな。昴はそれだったんだ。ちょうど.....悪性リンパ腫でね。去年亡くなった」


「.....そんな.....」


「.....」


マジか。

俺は目を丸くしながら.....先輩を見る。

先輩は.....少しだけ.....涙目になっていた。

そして.....俯いてぐしぐしと目を拭う。

子供の様な仕草をしながら、だ。


「.....わ、私はね.....昴が好きだったんだ。だから彼と一緒に.....この部活をやろうって決めたんだ.....なのに先に死んじゃったんだ.....」


声の音程が定まって無かった。

つまりを言えば。

泣いている。

嗚咽を漏らしていた。

その姿を見ながら俺は.....聞く。


「.....もしかして.....部員が居なくなったのは.....」


「.....そうだね。私がやる気が起きなくなったからだよ。そんな感じだね」


「.....先輩.....」


でもね、と先輩はお茶を見る。

そして.....外を見た。

ただ、この部活を閉めるのは.....間違っているんじゃ無いかって思ったんだ。

と先輩は黄昏る様に言う。


「万が一.....この部活を閉鎖したらそうしたら周りから昴の存在が忘れられてしまうかも知れないって思ったんだ。それは曖昧な感じで.....決断が出来なかった。そんな曖昧さで部長をやっていて活動も曖昧でね。そうしていたらもっと気力を出して下さい、活動したいと部員とのイサコザが起こってしまったんだ。で、私が怒ってしまったら部員は辞めていってしまってね。今は一人なんだ」


そこまで話して、でも。

と言った、先輩。

それから.....諦めた様な顔をした。

まるで.....この地球が終わっても構わないという感じの.....顔だ。


「.....もう良いんだ。ここまでやったから。色々やったけど生徒会から活動費も止められてね。.....多分、昴ももう許してくれると思う。だから私が卒業したらこの部活はもうおしまいにしようって思ってね。.....ごめんね。こんな話をしてしまって。部活に来た人は君達が久々なんだ」


「.....」


「.....」


だから話してしまった。

本当にごめんね、と先輩はハンカチで涙を拭う。

それから.....お茶を飲んだ。

俺はその中で.....さっきの言葉を思い出していた。


『貴方は.....勇大なんだもの』


と、だ。

どんな女性の声だったかは分からない。

そこは一瞬だったから。

でも.....丸で励まされている。

そんな気がしたのだ。


「.....じゃあ俺が継ぎます」


「.....え?」


「.....それ.....ゆーちゃん?」


昴先輩は確かに.....卒業するかも知れないけど。

でもそれで打ち切りの様に部活を終わらせるのは.....どうも納得がいかない。

俺は.....先輩が本気で部活を継続させたい。

そんな感じの事を.....感じたのだ。


「あ、もしかして.....私が部員として入ってって言ったのを信じているのかい?あれはじょうだん.....」


「いや。先輩が誘ったからじゃ無いです」


「.....え?」


俺が.....やりたいと思ったからです。

と立ち上がって答えた。

先輩は.....ボロボロ涙を溢す。

それから.....冗談でしょ、と言うが。

俺は.....冗談なんか滅多に使わないからな。


「.....ゆーちゃん。そういう所が好きなんだよ」


「?.....何か言ったか?七瀬」


「.....何も。.....あ、私も入るね。部活」


「.....え?お前は.....」


だって、ゆーちゃん、がやりたいって言ったんだから。

と腕まくりをする、七瀬。

それから.....雑巾を手に取った。

掃除の体制に入る。

先輩が.....唖然とする。


「.....先輩の熱意がしっかり伝わったんで。俺達、正式に部員になります」


「.....」


膝に体を曲げて顔を埋めて号泣し始めた。

俺は.....その先輩にハンカチを渡す。

そして俺達は.....正式に昴先輩、菜々先輩の創った部活の.....部員となった。

人生は何が起こるか分からないな。

そう、思ってしまった。

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