第三章 部活を探して

第5話 手助け部

部活は極端に嫌いじゃ無いが.....何だろうな。

あまり部活に入りたくは無い気がする。

何よりも.....人に関わるのが根っから嫌なのだ。

こんな俺だからそれ相応に馬鹿にされるのがオチだしな。

考えながらも.....七瀬が楽しそうなので敢えて何も言わなかった。


もし部活に入るとなったら俺はフェードアウトしよう。

七瀬に迷惑が掛かってしまう。

こんな.....人格だから、だ。


俺は.....部活に入るべきじゃ無いのだ。

思いながら.....放課後、人目がつく様な廊下を歩きつつ目の前の七瀬を見る。

歩きながら鼻歌を歌っている。

本当に嬉しそうだな。

思っていると七瀬が振り返った。


「ね?ゆーちゃんはどんな部活が良い?」


「.....俺は.....」


俺.....は。

そこまで考えていると昔の嫌な記憶が蘇った。

その嫌な記憶が俺を邪魔する。

お前は役立つだから。


昔はイジメが少しだけ酷かったからな。

俺は七瀬を見つめ申し訳無さそうな顔をする。

それから.....頭を下げた。


「七瀬。ごめんな。やっぱり俺は.....部活に入れないかも知れない。ちょっと昔、嫌な事が有ったから」


「.....え?ゆーちゃんに嫌な事をした人が居るの?最低だね」


「.....それなりに俺を受け付けない奴も居るんだよなやっぱり。気持ちが悪いとか言われてな。俺は.....部活には要らない人間なんだ」


「.....そんな事無いけど.....うんでも、そうなんだ.....じゃあ.....」


やっぱり部活に入るの、止めようか。

と少しだけ控えめの笑みで.....俺を見る。

俺は.....そうだな.....と思いながらも何だか胸をチクリと刺す痛みが有った。

本当に全てはそれで良いのか、と。


せっかく.....七瀬が部活に入りたいと言っているのに.....それすら無碍にゼロにしてしまうって。

それも全て俺のせいで、だ。


本当にそれで良いのだろうか、と今頃悩む。

そうだ。

高校生活は一度きりと以前.....鮎川が言っていた。

だったら.....。


俺は.....顎に手を添えて考える。

それから.....立ち止まっている七瀬を見た。

少しだけ震えが出るが.....言わないといけない気がする。

この言葉を、だ。


「七瀬。お前は部活に入りたいのか?」


「.....え?.....でもゆーちゃんが.....」


「.....俺はどうでも良い。でもお前は成績優秀で.....何もかもが完璧だ。だとするならその才能を生かさないのは非常にもったいない気がする。だから.....部活に入ろう。俺も一緒が良いんだろ?」


言葉に.....七瀬は涙を浮かべた気がした。

直ぐに俯いてしまったので詳しくは見れなかったけど。

七瀬は.....少しだけ笑顔になった。


「.....そうだね。ゆーちゃん。でも.....無理はしないでいこうね」


無理はしてないと思う。

だが.....一人の人生をゴミにするほどクズになりたくも無いから.....。

だから.....俺は考えたんだ。

でもこんなに人の為に動くなんてな.....。

変わったもんだな、俺も。

昔だったら有り得ない。


「.....でも七瀬。俺は運動音痴だ。だから運動部は無理かも知れない。だけどそれ以外なら俺自身が挑むのも良いかも知れない」


「.....じゃあ文芸部とかの部活.....にしようか」


「.....ああ」


無邪気な笑顔を見せる、七瀬。

俺は.....その笑顔が見れただけでも良かったなと思った。

そして.....振り返って廊下を見たその時だ。

雷に打たれた様に大きく見開いた。

女の声がする。


『貴方は大きく育つわ。だって.....勇大なのよ?』


「.....」


「.....どうしたの?ゆーちゃん?」


長い廊下を見つめる。

何だ?何時も通っているじゃ無いかこの廊下は。

だがまるで.....金槌で頭をぶん殴られた衝撃だ。

今の記憶.....声は?

何だ一体。


「ゆーちゃん?どうしたの?」


「.....い、いや.....」


頭痛がする。

何か.....を思い出しそうになったのだが。

のに直ぐに消えた。

今の女性の声は.....何だったんだ?


俺は頭に手を添える。

しかし.....次は思い出せなかった。

だけど今まで聞いた事の無い声だった。

それは一瞬だけ光る電球の様な感じで本当に一瞬だけ.....頭に過ぎったのだが。

俺は気のせいかと思い、首を振った。


「.....何でも無い。七瀬。行こうか」


「.....うん.....無理はしないでね?」


困惑した顔で七瀬が心配の声を発しながら俺を見てくる。

覗き込む様な仕草に少しだけ赤面しつつ。

文芸部などの部活が集まっている二階に上がろうと手すりに手を掛けた。

それから.....二階に上がって行く。


「.....文芸部.....って言うか色々有るんだよな。この学校って」


「さっき案内してくれたよね?やっぱり多いんだね」


「そうだ。この学校には文芸部、以外の部活が多いぞ」


例えばゲーム制作部とか.....編み物のみの編み部とか。

有り得ない部活の流れだけどな。

でもそれはそれで栄えているから良いんじゃ無いかって思う。

俺達は二階に上がりながら.....二階の奥の方の教室を眺める。


「.....色々有るね。やっぱり」


「空き教室が賑やかだな」


「.....何処にしようかな」


ゲーム制作部とか楽しいんじゃ無いだろうか。

俺の想像だけどな。

思いながら.....部活になっている空き教室を次々に見ていると。

目の前に女の子が立ってい.....うぉ!?


「ちょ、何だ!?!」


「.....?!」


いきなり現れたその少女。

ツインテールだ。

身長が10センチぐらい俺達より低い。

可愛らしい小学生の様な童顔で俺達をニヤニヤしながら見ている。

何だこのガキ!?


「君達、部活を探しているのかい?」


「.....そ、そうだが」


「じゃあもし良かったら手助け部に入ってくれないか」


「.....は?」


いきなり現れて部活勧誘かよ。

目が丸くなった。

しかし何だその部活は。

初めて聞いたんだが.....って言うかこのガキはこの学校の生徒なのか?


俺は.....下に視線をずらす。

赤のスリッパだった。

一年生は青、二年は緑、では三年.....は.....!?


「.....三年生!!!!?」


「そうだ。お前.....私を10歳ぐらいのクソガキの様に扱ったな?ガキじゃ無いぞ。正真正銘の17歳のピッチピチの三年、山崎菜々だ」


「.....嘘.....先輩.....だなんて.....」


七瀬が唖然とする。

そりゃそうだ。

見た感じ完全な小学生だろこれ。

驚愕に驚愕するしか無いんだがと俺は目を丸くしながら先輩に尋ねる。


「.....その手助け部ってのは?」


「.....慈愛に満ちて人を助ける。それがこの部活。所謂、人の助けになる事をするんだ」


「.....そうなんですね.....」


もし良かったら助けてくれないか。

と教室を指差す、先輩。

俺は?を浮かべながら教室を見るが誰も居ない。

部員らしき影は無い。

看板は有るが。


「.....廃部寸前なんだ。部員が居なくてね」


「.....そうなんですね」


「.....みんな手助けは面倒とか言ってしまって。集まらないんだ」


「.....」


今の日本の縮図の様な感じだな。

思いつつ.....先輩を見る。

先輩はニコッとしながら.....俺と七瀬を見た。

それから.....部室だけでも見学して行ってくれ。

と.....誘ってくれた。


「どうする?七瀬」


「うん。ゆーちゃんが良いなら」


「.....じゃあ先輩。案内して下さい」


「お?マジで?.....有難うな。お二人さん」


再び笑う、先輩。

それから俺達は.....手助け部とやらに入った。

そして部室を見学する。

先輩は俺達に笑みを常に絶やさない人だった。

俺もついつい、笑みが溢れてしまう。

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