第二章 鮎川西見(アユカワニシミ)

第3話 クラス委員

七瀬水色。

透き通った淡い水の様な名前。

そんな七瀬の事を俺は.....昔も今も知らない。

だけど相手は俺を好きだと言う。

それどころか大好きだと、そう言う。


俺は.....何だか複雑な気分だった。

一方的に好きと言われても実感が湧かない。

そして.....それも有るが七瀬のご両親は何をしているのだろうか。

とも考えてしまったりもする。


考えながら.....翌日。

俺は朝、七瀬に起こされて下に降りると。

母さんと父さん。

そしてエプロン姿の七瀬が居た。


「おっは」


「.....今時、親父がおっはっておかしいだろ。親父」


「良いじゃ無いか。つれないな」


「.....」


母さん、長谷部菜々子、も和かに俺を見ている。

ボブヘアーに白髪。

それながらも優しい顔立ちで、優しい目をしている。

そして.....身長165センチと少しだけ高い。

寡黙ながらも俺を母性で包んで見守ってくれている。


「ゆう。大丈夫?」


「.....ああ。バリバリ元気だよ。でも.....その母さんも認めているんだな。七瀬の事」


「そうよ。私にとっては良い子よ。水色ちゃんは」


「.....」


何故、俺だけが記憶が無いのか。

それは.....今は考えない事にしながら椅子に座る。

すると味噌汁と魚とご飯が出て来た。

俺を見ながら笑みを浮かべる、七瀬が居る。


「ゆーちゃん。大盛り」


「.....いや、そんな注文してない.....」


「ダメダメ。年頃の男の子なんだから」


ね?と八重歯と共に笑顔を見せる七瀬に赤くなる、俺。

それから振り払う様な感じで飯を食い始めた。

って言うか誰が作ったんだこれ。

思いながら居ると七瀬が俺を見てきた。

両腕で頬杖をつきながら、だ。


「美味しい?」


「.....あ、ああ?美味いが.....お前が作ったのかこれ」


「そうだよ。だってゆーちゃんの為だから」


「.....そのゆーちゃんっての止めてくれ。マジに」


ゆーちゃんゆーちゃん呼ばれると何だかむず痒くて仕方が無いのだ。

勘弁してほしい。

溜息混じりで考えながら味噌汁を飲む。

うーむ.....味わい深い.....な。

信じられんぐらい美味い。


「ワッハッハ!流石は水色だな!美味い飯も作れるなんてな!」


「おじさま。有難うです」


「そうね。本当に.....練習したのね」


「はい。おばさま」


ノリノリだけど俺だけ置いてけぼりだ。

しかし.....練習した.....。

俺の為に、か?

そうなると赤面をせざるを得なくなる。

と思いながら.....七瀬を見る。


「お前、俺と一緒に登校するのか?」


「うん。そうだよ?ゆーちゃん」


「.....う、うーん。クラスメイトになんて思われるか.....」


「夫婦で良いんじゃ無いかな。クラスメイト達に示すのはね」


良くねぇよ。

なんで夫婦なんだ。

いきなりそうなったら悲鳴が上がるぞ。

そして俺のスレッドが立ってしまう。

エゴサーチも出来んくなりそうだ。


「でも.....有難うね。食べてくれて。自信無かったんだ」


「.....こんなに上手くて、か?それはおかしいだろ」


「昔は上手く無かったよ?憶えてない?」


いや、全く記憶にございません。

本当にどういう事だ?

何故俺だけ記憶が無いのだ。

眉を顰めつつ時計を見ると、時刻が遅くなりそうだった。


「よし、出るか」


「.....あ、じゃあ準備するね。ゆーちゃん」


「だからそのゆーちゃんは止めろって」


そして俺達は後で出勤の二人、父さんと母さんを残して。

って言うかノリノリの父さんを残してそのまま家を後にした。

それから.....数分歩く。

桜の木が差し掛かっている道に着くと、七瀬が話した。


「ゆーちゃん。実はね懐かしいんだ。私、この桜道」


「.....来た事有るのか?」


「有るよ。だってゆーちゃんが案内してくれたんだ」


「.....信じられないな。憶えてない」


そうなんだね。

でも大丈夫だよ、ゆーちゃん。

私は.....憶えているから。

とはにかむ、七瀬。

俺は.....そうか、と言いつつ遠くに有る高校を見る。


「.....七瀬は何処に住んでいたんだ?この場所じゃ無くて」


「.....そうだね.....岡山かな」


「.....岡山ってこの県から二つ先じゃ無いか。そんな遠くから?」


「そうだよ。だって.....ゆーちゃんが隣に住んでいたからね」


記憶に無い。

と言うか、七瀬も岡山に住んでいたのか。

確かに岡山に住んでいたとは記憶に有るがその隣にこの子が居たと?

それは.....無いと思うんだが.....。

何だろう、こんなに詰まらずに話すなら絶対に有った話だよな。


「.....」


「あ、悩まないでね。私は.....全然大丈夫だから、ね?」


「.....分かった。じゃあ行こうか」


そして歩いて行く。

それから下駄箱を通って教室に入る。

案の定、俺を見てクラスの男子どもが目を丸くしていた。


そして.....女子達は顔を見合わせてキャーと言いながら俺を見る。

ああもう、何で思春期の奴らってこんななのかね。

って言うか.....俺も思春期の野郎だけど。


「ゆーちゃん。どうしよう.....」


「.....んー.....考えたくも無いな。まぁ取り敢えずはいつも通りに」


「そだね。うん」


そして俺は七瀬と別れた。

七瀬は女子達に囲まれて、もしかして付き合っているの!?、とかなっている。

その言葉に、私達夫婦だよ、と答え.....オイ!?

俺は愕然として唖然とした。

教室が大騒ぎになる。


「マジかよ!?」


「あんなクソガリ勉と!?」


という声も聞こえたが反論するとまた何か.....大変になりそうだった。

それにもう止めるのがめんどい。

諦め半分で思いながら椅子に腰掛けつつ外の桜を眺める。

相変わらずこの場所は.....景色が良い。

桜並木がよく見える。


「ふあ.....」


しかしながらクッソ眠い。

大あくびをしつつ考えながら.....外を見る。

すると横に人の気配を感じた。

俺はバッと横を見る。

そして見開いた。


「.....何をしているの?」


「.....ああ.....鮎川か.....。何をしているって言われたら.....そうだな。俺は外の桜の並木を見ているんだが」


「.....そうなの?良く見える?」


鮎川西見(アユカワニシミ)。

このクラスのクラス委員で俺の事を良く気に掛けてくる少女。

何つうか.....俺の最初で最後の学校での知り合いかも知れない。

俺は苦笑しながら窓を覗き込んでいる鮎川を見る。


相変わらずの長いまつげに大きな瞳。

そして.....おでこを出した様なポニテに大きな胸。

それから.....顔立ちがそうだな、七瀬ぐらいでは無いが整っている。

真面目そうな凛とした感じだ。


「桜並木って言っても.....散っているよ?結構」


「.....それがまた乙なんだよ。はは」


「そうなんだね。でも.....良い趣味だね。そう言えば.....何だか七瀬さんと夫婦って事になっているだけど.....本当?」


「.....嘘ですよ。そんなアホな話が有りますかね?」


だよね、おかしいよね。

でも.....仲が良さそうで良かったよ。

君に私以外の知り合いが出来た事が何よりも嬉しかった。

と.....鮎川は笑みを見せる。


「.....君はいつも一人だから.....心配だった」


「.....すまんな。余計な気を使わせて」


「.....それもクラス委員の仕事だからね」


「そうか」


さて、と立ち上がる、鮎川。

それからパンパンと手を鳴らした。

もう直ぐチャイム鳴るからね!と大声で言いながら。

そして鮎川は俺に手を挙げて去って行った。


「じゃあね」


「.....ああ」


で、そうしていると。

七瀬が不愉快そうなジト目で俺を見た気がした。

俺は目を丸くする。

どういう仲かな?という感じだ。

黒のオーラで.....後で.....説明しないと殺されそうな勢いで有る。

俺は額に手を添えた。


「.....ハァ.....」


面倒になったもんだな。

でも.....これは嫌じゃ無いな。

思いつつ.....俺は海老名を待った。

チャイムが鳴り、海老名が入って来る。

俺はそれを見てから桜並木をまた見つめる。

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