学級会と小さな男の子の思いで
温かい思い出として残っている男の子がいる。その子は4年生の時に転入して来た。貧弱さを感じさせる身体の小さな男の子だった。
皆が何となく感じていた彼の幼さや違和感は今から思えば、当時はまだあまり知られていなかった発達障害だったのではないかと思う。
5年生になって男の子達からイジメを受けるようになったが、クラスの中にはそれに加わらない男の子もいた。ただ、その子たちは我関せずという感じで黙っているだけで、別段私に同情するでも庇うようでもなかった。
4年生の時に転入してきた小さい男の子も卒業まで同じクラスだったがイジメに加わる事はなかった。幼い彼は、彼自身が時にからかいの対象となる子どもで、私に対する男の子達の仕打ちにはどうしたら良いのか分からないという感じだった。
さて5、6年生の時の担任は女性だった。私がイジメられていることをどの程度把握していたのかは分からない。
たまに正義感の強い女の子が男の子達のイジメを見かねて担任に言いつける事があった。卒業までクラス変えのなかった2年間で3〜4回、女子の告発により担任が対応した事がある。
6年生の時、何回目かの告発で担任が学級会を開いた。
「環さんに
クラスのほとんどの男の子が立ち上がり"ヤバイ"という顔をしていた。
「なぜ、そんな事を言ったのか一人づつ、わけを言いなさい」
何ともいたたまれない気持ちで私は座っていた。そして耳に聞こえたのは先生には聞こえないような
「ひとのせいにするなよな」
始めに私をイジメはじめた男の子の声だった。そのささやきは隣から隣へ伝わり…
結果的にそれは、人のせいにすること「自分は真似をしただけだ」「みんなが言っているから」と口にするのが"男らしくない"事と思わせた。
「環さんは目が大きくて、気持ち悪いなぁと思って…」
「環さんの顔が気持ち悪くて…」
立っている男の子達から次々と出される言葉は普段の遊びや、ふざけ混じりとは違って…
私は聞いているうちに頬を涙が伝うのを感じたが、次第に頭の中が真っ白になり、いつの間にか机に突っ伏していた。
立っていた男の子達の発言がいつ終わったのか、その学級会を先生がどう締めくくったのか私は覚えていない。
いつの間にか放課後の気配が漂っていた。教室には担任もおらず、少しのクラスメイトだけが残っているようだったが、それも一人また一人となくなっていった。
気がつくと突っ伏している私の頭をそっと撫でている手を感じた。何も言わず私の頭を撫で続けるその手の主は、その息遣いから私の机に顎を乗せ私の様子を見守っているようだった。私は顔を上げなかったが、それがあの小さな男の子だということを感じた。
彼は普段、集中力のなさを先生に叱られ、クラスメイト達からからかいの対象となる存在だったが、ときおり昆虫や動物への優しさ、怪我をしたり弱ったクラスメイトへのいたわりの心を見せるのだった。そんな時の彼は、いつもただ黙って心配そうに弱った者の横によりそうのだ。
私達以外のクラスメイトの気配が全て消えて私はやっと顔をあげた。それまでずっと私の頭を撫で続けていた手を空に浮かせたまま、彼はわずかに微笑んだ。そして再び私の頭を撫でて
「だいじょうぶだよ」
といったのだった。
大人になって子どもの不登校の問題に直面した頃から私はよくこの時の情景を思い出すようになった。その情景はしんどいなぁと思っている私の心を温かく慰めるのだ。
あの小さな男の子は今どうしているのだろう。
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