家族の中の私

 私は末っ子の一人娘だった。

サラリーマンの父親に短時間パートの母、3歳上の優秀な長兄と2歳上の次兄、そして母方の祖母との6人家族。

 家族揃っての食卓、私は幸せな末っ子だった。幸せでなくてはならなかった。

学校や友達との出来事をひたすら喋り、兄達に横やりを入れられて拗ねたり怒ったり。時には悪態をついて叱られたりもしたけれど、それでも私にはいつも家族の微笑みが向けられていた。

「環には悩みなんてないだろう」

と兄に言われれば

「悩み?ないね〜」

と笑っていた。たとえ学校でイジメられていても、笑ってそう答えるのが私の役割りだった。


 イジメられている事を家族に話すことはなかったのだが、学校がつらいのは現実であり、なんとかして学校を休めないものかと思っていた。風邪をひきたいと思い、寒い冬に風呂場で水を浴びたこともあった。しかし、その行為で風邪をひいたりすることはなく、もとから身体の丈夫な私は、毎日普通に登校するしかなかった。


 大人になり結婚し、子育てにトラブルを抱えた時、子どもの頃のイジメられた辛い過去を吐き出すように母に打ち明けた事がある。母は言った。

「なにも知らなかった…」

小学校5年生から中学2年生まで、よくも知られずに…よくも知らずに生活していたものだと思う。


 

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