49.ラスボスとの最終決戦の話
僕、イーサン=アンセットは神の化身だ。
神の化身とは、神に任じられ、神を演じる、神の代理人のことを差す。
神の代理人であるところの僕は現在、神の代理戦争の内に立たされている。
相手は神がかつて創造し、創造物に追い落とされた世界の勇者達。
争いで互いに傷付け合うことを嫌った僕らは――主に傷付くのはこちらになるからだ――彼らと六対六の団体戦で勝敗を決めることとなり、僕はここに集った五人の仲間と共に、決戦へと臨んだ。
で、今、五対〇でこっちが勝っている。
「これ六戦目やらなくて良くないですか?」
決戦の舞台となる大聖堂附属グラウンド内の特設ステージには、妖の勇者の力で、外部とを完全に隔絶する結界が張られていた。先程まではここで、幼児と瀕死の青年が動物将棋で争っていたりした。
僕とその対戦相手は、その舞台中央で向かい合う形に立っている。
「はあ? ふざけるなよ! 最後の最後まで結果はわからないだろ!」
僕の提案は、対戦相手である獣の勇者に切って捨てられる。
わかるだろ。異世界ルールでは最終戦十万ポイントとかあんのか。
とは思うものの、この人達は機嫌を損ねると辺り一面を焦土にしたりするらしいので、口には出さない。
獣の勇者。純白のショートヘアを逆立て、黄色い瞳を目付き悪く光らせる少女。
その頭には猫を思わせる一対の耳が並んでいるけれども、人間の耳がある位置はちゃんと髪の毛で隠してあった。良かった。耳が二対あったら気になるしね。
初めから人間耳はないのかもしれないけど。
話変わるけどさ、ペガサスって、足が四本と翼が二枚あるじゃん。あれ、要は手足が六本あるわけでしょ。あいつら馬じゃなくて昆虫の系譜なんじゃないかな。
いや、でも昆虫だったら更に羽が四枚いるのか。あ、じゃあ合計十本になるから、イカは昆虫の仲間ってことだよね。
あとで虫の勇者の人に訊いてみよう。
「貴様、旧き神。今何か失礼なことを考えていなかったか?」
「いや、特にはですけど」
イカのこと考えてたんだけど。こういうの当てずっぽうで言うのやめて欲しいんだけど。
とは思うんだけれど、怖いから口には出さない。
しかし、猫なー。僕猫そんな好きじゃないんだよな。
苦手ってほどでもないんだけど、進んで近寄りたくはないっていうか。前世で猫に殺されてるしなぁ。
できるだけ早くこの状況を終わらせるべく、僕は展開を進めることとした。
「勝負の内容は何にしましょう。徒競走とかどうですか」
まあ相手はあらゆる獣の能力を
でも団体戦的にはここで僕が負けても問題ないし、わざわざ異世界から来たんだから、一回くらい相手に花を持たせてやってもいいんじゃないかな。
と思ったのだけど、
「無理だな」
と素気なく断られる。
「私と貴様が並んで走りなどしたら、貴様など風圧で吹き飛ばされて負傷するだろうが。そうなればルール違反で私の負けとなってしまう」
勇者怖すぎでしょ。
「なら、ポーカーか何かで……」
「頭を使うゲームは私が不利だろうが!」
コメントしづらいでしょ。
「なら何がいいです。そちらの選んだのにしますから」
僕は諦めて丸投げすることとした。
死傷者出したら負けルールだし、相手は勝負が決まったこの状況でも、純粋に勝ちを狙ってるみたいだし。そうおかしなことは言わないだろう。
勇者は少し考える素振りをして、口を開いた。
「そうだな……肉弾戦、というのはどうだ?」
こいつ馬鹿でしょ。
とは思ったものの、そのまま口に出すのは憚られる。どうにか婉曲して伝えなければ。
「頭おかしいんじゃないですか?」
僕はそう尋ねた。
ほら、他の勇者の人も絶叫してるし。
「何を言っている。ルールは“死傷者を出したら負け”だろう? 死者も怪我人も出さなければいいだけだ」
「走る風圧で人間吹き飛ばす人が寸止めとかできるんですか。どうせ風圧で鼻折れたりするでしょ」
「はあ? いや、怪我させなきゃいいんだろう? 破壊光線で跡形もなく消し去れば、怪我も何もないだろう」
やばいやばいやばい。こいつ洒落にならない。
僕は身内、を巻き込んだら被害が拡大するだけだし、この頭おかしい猫を取り押さえることもできそうな、勇者チームの方に助けを求める視線を送った。
「なるほど……一理ありますね」
「周囲に被害を出さないのならば、それも良いでしょう」
「そもそも元々俺達、旧き神を倒しに来たんだしな」
異世界人怖いんだけど。無理なんだけど。
「死ぬ! 怪我しなくても死者が出るから! ほら!」
「? 神はそれくらいでは死なんだろ」
いやいや。信頼が厚すぎるんだけど。
死ぬけど! 僕人間だから! 神の代理“人”だから!
「前から気になってたんですが、なんで獣の勇者が破壊光線撃つんですか」
「はあ? 猫は破壊光線撃つだろ。でなきゃ肉球は何のためにあるんだよ」
消音とか衝撃吸収じゃないの……。
ていうか、
そりゃ滅ぶでしょ、そんな大魔境!
「そもそも破壊光線って何なんですか! 光なの? なら僕光属性なんで、まだ耐えられると思うんですけど」
「破壊光線は破壊属性だろ」
「ひゅっ……これだから物理法則のない世界は……!」
焦りのあまり変な声が出たんだけど。
こちらの世界の人達は、総じて混乱の坩堝に飲まれている。
常識ないとか文化が違うとかじゃないでしょ。
え、本当何なの。なんで僕の相手だけこんななの。
さっきまでオンエアバトルとか詩のボクシングとかやってたじゃん!
「決まりだな。では、いざ尋常に勝負! 世界を……救うために!」
霞み始めた視界の中、獣の勇者がこちらに猫のような掌を向ける姿が映る。
「ちょっと待っ」
「破 壊 光 線 ッ !!」
塵となりゆく意識の中で、最後に見たのは漆黒に輝く破壊の奔流を生み出す、柔らかそうな肉球だった。
***
で、その翌々日に僕は自宅で
ふーんって思った。イカがどうのって話は、どうでもいいや。
かくして、僕の死という大きな犠牲(※すごく痛かった)と共に、この世界は救われたのだった。
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