第39話 後始末
六
「王子、ご無事でしたか?」
ベアトリスが王子に駆け寄る。幸い、王子に負傷はない様子である。
「すまない。恩に着るよ」
「君も、大した腕前だな。ヘルマンは騎士としてもなかなかの剛の者だぞ」
王子が、ベアトリスと、ヘルマン卿を縛り上げる忠興に声を掛ける。
すでに、部屋には騒ぎを聞きつけた貴族たちが押し寄せていた。
「ヘルマン卿が……」
「謀反ですか」
ヒソヒソと話し合う。
そこに、遅れてようやくローラン卿が戻って来た。ソフィアも一緒である。
「すまない。この罪は万死に値する」
そう言って、王子の前にローラン卿は跪く。護衛の任務を放棄して女といたというのであるから、申し開きの仕様もなかった。
「ヘルマンに言われたのか」
忠興が顔面蒼白のソフィアに尋ねる。ソフィアは頷くのがやっとの態である。
「だろうな」
ヘルマン卿は、ローラン卿に対してソフィアが死んだという噂を聞かせた上で、ソフィアに対してはパーティーで会えるように取り計らうと約束をしていたのである。
全ては、王子からローラン卿を引き離すための謀略であったわけである。
「私としても騎士として、面目ない話ではある。それにギュスター家に仕える騎士が私を救ってくれたおかげで、ケガはない」
「何も、お前一人が責任を感じることはない」
と、王子はローラン卿の腕を取って、立ち上がらせた。
「それに、レディの誘いを断るのはフロン騎士道に悖る行為でもあるしな」
そう言って、笑ってみせた。
この王子、武芸に関してはからっきしであるが、上に立つ者としての度量は備えているなと忠興は感じていた。
「それで、こいつはどうする?」
忠興が、縛り上げたヘルマン卿を王子の前に引き出す。口に轡を嵌められ、舌を噛み切ることもできないヘルマン卿は、抵抗を諦め、首を項垂れている。
「おお貴公が、王子を救ってくれたギュスター家の騎士か。すまない、恩に着る」
立ち上がったローラン卿が、忠興に歩み寄る。
「その男は、私が地下牢まで連れていこう」
そう言うと、ローラン卿は忠興からヘルマン卿の身柄を受け取った。
「では、これで」
自分を嵌めたヘルマン卿に対して、流石に腹が立つのだろう。ローラン卿は、ヘルマン卿を引きずるように連れて部屋から出て行った。城兵たちもそれに続く。
ソフィアも、ローラン卿の後を追おうとしたが、自分の出る幕はないことを悟り、その場に立ち尽くし、恋人の背中を見送った。
「さて……」
王子が、悠々と歩き出す。
「それではパーティーの続きを楽しむとしよう」
貴族たちが戸惑いを見せる中、ジュリアン王子は部屋を出て行く。
「何だありゃ、バカなのか?」
モーレットが陰口を叩くが、忠興は声を出して笑った。
「ふはは、なかなか肝も据わってるおるではないか」
そのまま、ベアトリスに手招きをして王子に続いた。
「よし、このチャンスを逃しはしないわよ」
ベアトリスも、裾をたくし上げて小走りで着いて行く。
その後のパーティーは、忠興とベアトリスは終始、話の中心であった。ヘルマン卿の陰謀から王子を助けた、令嬢と騎士は夜が明けるまで貴族らの歓待を受けたのであった。
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