第27話 魔法大学

 二


「どこへ向かう」

 忠興が、先を歩くユリィに尋ねた。

 ユリィは、目標が決まっているかのように進むのである。

「ちょっとツテがあってね」

 ユリィが振り返り、笑顔を見せた。

「聖女様たちも勇者の情報を求めているのなら、その情報を得られるところに行かないと」

 そう言うユリィの足は、大きな建物に向かっていた。

 教会のような建物であるが、階層が分かれている点が大きく異なる。

「あれが大学よ」

 ユリィが指さす。

「あそこに行けば、きっと情報が手に入るはずよ」

 忠興が頷いた。そのままユリィが正門に入っていく。美しい装飾の施された門である。

 学生たちが、武装した忠興を物珍しそうに見つめる。それに気付いたユリィが恥ずかしそうに俯いた。

「おい、今のは何だ」

 正門を潜った忠興が、ユリィに声を掛けた。ユリィが振り返る。

「今、何かを通過したぞ」

 忠興が、門の方に視線を向けた。

「あー、それは魔法の結界よ。気にしないで」

 外部からの侵入者に対するためのセンサーである。ユリィはそのまま歩き続ける。

 やがて、建物の入り口が見えてきた。

「これも気にしないでいいのか?」

 再び忠興が、ユリィに声を掛ける。

 入り口扉の前には、二人の男の姿があった。黒い式服に、それぞれが青と赤の帯を掛けている。

 その二人だけではない、背後にも二人、こちらは緑の帯を掛けた男と、黄色い帯を掛けた女である。

 歓迎している風には見えない。それどころか、敵意が辺りに充満している。

「……」

 ユリィが、前と後ろを交互に見た。

「あ……えっと、私たち怪しい者じゃないんです」

「私、ユリィって言います。オベード村のアルゴ先生の弟子で、その……大賢者ヨハン様に会いに来たんです」

 ユリィが必死に弁解する。

 すると、赤い帯の男が口を開いた。

「貴様ではない! 後ろの男、貴様は何者だ!」

 年齢は三十歳くらいだろうか、燃えるような赤い髪の男である。

「えっ……この人」

「この人はヨイチ、イスパリオの魁星騎士団の騎士です」

 こんな時は、取りあえず大物の名前を出した方が話が早い。そうユリィは考えたのである。

 しかし、赤帯の男はそれを聞くと嘲笑した。

「上手くやったものだな、魔王の眷属よ」

「君、巻き込まれたくなければ下がっていなさい」

 そう言うと、四人の魔法使いが忠興の周りを取り囲んだ。

「ユリィ、離れろ」

 忠興が、走った。奴らの狙いが自分である以上、ユリィを巻き込むつもりはなかった。

 それに続いて、四人も動く。忠興を囲むように、それぞれが一定の距離を保っている。

「くらえ、魔族!」

 赤帯の男が、火炎を繰り出す。

 同じく、それぞれの魔法使いが、攻撃を放つ。

(祈りなしで……いきなり)

 それを、後から追いながらユリィは思った。流石、帯を掛けられるだけはある。いずれも一流の魔法使いである。

「おおおおおお」

 忠興が、自身の周りに闇の防護壁を作る。それが、四人の魔法攻撃を防いだ。

「小癪なっ」

 黄色の帯の女が、右手を突き上げた。

「大地の精よ、目覚めて起きよ」

 そう言うと、みるみる間に忠興の足元の地面が隆起する。そして、それが忠興目がけて遅いかかる。

「うぬっ」

 咄嗟に忠興が飛んで、躱す。

「そこだっ!」

「風の精よ、しばし流れを休め、留まれい」

 空中に逃れた忠興を、今度は風が襲う。

「あれは!」

 ユリィが思わず声を上げた。バセロナのルシアが使っていた魔法である。風が、忠興を取り巻いて、その動きを封じる。

「でかした」

 赤帯の男が、叫ぶ。

「フレイン、やるぞ」

 青帯の男が、赤帯に声を掛けた。

「駄目っ」

ユリィが、忠興に駆け寄る。彼女は対人間用の攻撃魔法を修得していない。

「くらえぃ」

 赤帯の男が火炎を繰り出す。それと、同時に青帯の男も水流を放つ。

「合体魔法! ヨイチ!」

 ユリィは割って入ることもできない己の無力さを痛感した。

 火炎と水流が忠興に向かって襲い掛かる。しかし、これらは実物ではない。魔力が、それらの姿を具現化したものである。

 強力な相反する属性の魔力がぶつかり合って起こる、魔法の大爆発。これが合体魔法である。

「爆ぜろ!」

 赤帯の男が、忠興に向かって叫んだ。

 しかし、忠興は彼らの上を行っていた。

「ぬううううううううん」

 魔力を開放し、風を振り払うと一気に兼定を引き抜いた。そして、火と水の間を切り裂いた。

「バカな」

 青帯の男が、狼狽える。

 忠興の目に殺意が走る。

「死ね」

 そう言うと、忠興は刀に魔力を載せ、その場で独楽の様に回転した。

 周囲に魔力の刃が広がる。圧倒的な力の前に、四人の魔法使いたちは死を覚悟するほかはなかった。

 その時である。

 彼ら四人を、強力な魔法壁が守り、忠興の刃を防いだ。

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