第25話 戦後処理
べリアル軍を討伐した忠興たちは、バセロナ城に戻った。
勝利を手にしたものの、人間側の被害も尋常ではなかった。多くの将兵の心理としては、勝ったというよりも、生き残ったということの方が実感としては強かった。
傷ついた者が城内に運びこまれるが、それを運ぶ者もほとんどが負傷していた。
「ほれ、頑張れ」
ショウサイが、血まみれの兵士を背負いながら、懸命に励ましの声をかける。エンリケも、軽い傷で済んだ分、必死になって負傷者の搬送に当たっている。
それを、医師や魔法使いが処置に当たる。ガラシャも、ユリィもひっきりなしに運び込まれる負傷者の手当てに追われていた。
「おじい様……」
城に戻ったルシアは、座る者のいなくなったイスを見つめて呟いた。鉄牛騎士団団長バセロナ伯は、全身を燃やし尽くされ遺体すらなかった。
主だった家臣たちも、バセロナ伯に殉じて散ったのだった。
ルシアは感傷に浸る暇もなく、バルカ家の後継者として、街を仕切っていかなければならなかった。
その寂しげな表情を忠興が見守る。
バセロナはこれまで、独立した勢力として他国に付くことでその立場を守ってきた。その背景にはバルカ家の武力と、政治的な駆け引きがあったことは言うまでもない。
しかし、今回の戦いでの損害は、その在り方の転換を迫る結果を生むことをルシアは理解していたのである。
「イスパリオに使者を」
ルシアが、家臣に声を掛ける。
もはや、バセロナはイスパリオの支援なしでは立ち直ることは困難であった。城外決戦によって、街は守られたが、人的被害は甚大であった。
今のままでは他国からの侵攻にはとても対処しきれないし、これを好機とバセロナに繰り出す国もあるだろう。
イスパリオにおいても、それは同じである。
しかし、それでも他国に侵略されるよりかはマシと言えるかも知れなかった。
「あーあ、どうせバルカ家の名を絶やさぬためにとか言って、イスパリオの王族とかと結婚させられるんだろうな……」
ルシアがおどけて見せた。
「……」
忠興は、じっとそれを聞いている。
「ヨイチ様くらい強い人なら大歓迎だけどなぁ」
ルシアが視線を忠興に向けた。目には大粒の涙が溢れていた。
「安心せい。イスパリオ王フォリオ三世、あれは武人だ」
忠興がようやく口を開いた。確かにこれからバセロナは、イスパリオの完全な支配下に置かれることになるだろうが、あの王に限って言えばバセロナを悪いようにはしないだろうと忠興は思ったのである。
慰めるのは苦手であったが、本人の中では精一杯の慰めのつもりである。
ルシアが忠興の胸に飛び込んで来た。緊張の糸が切れたのだろう、憚ることなく大声を上げて泣くルシアの背中を、忠興は優しく撫でてやった。
ひとしきり泣いた後、ルシアは涙を拭った。
表情には生気が戻っていた。忠興はそっと、両手でルシアの肩を持ちルシアを離した。
「ヨイチ様、もう大丈夫です」
ルシアは笑顔を見せると、頭を下げた。そして、戦場の余韻漂う階下に降りて行った。
「忠興様」
そこに、入れ替わりでショウサイが入って来た。入るタイミングを見計らっていたのだろう。
「此度の事は……ご助力感謝いたします」
頭を下げる。べリアル軍の狙いが聖女ガラシャであることは忠興も分かっていた。バセロナはそれに巻き込まれた形である。
「どうせ、いずれはこうなる事に違いはあるまい……」
「いや、むしろワシや珠がいたからこそ、バセロナは陥落せずに済んだのだ」
忠興が言った。
酷な話であるが、それが事実であった。ショウサイも頷く。
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