第22話 会戦

城門を開くと、バセロナ伯以下の将兵が配置に着いた。

 城壁の上には、民衆の中から募った有志たちが弓を構える。戦えない老人、女、子どもは西側の城門から街の外へと避難していた。

「何としても城外決戦で勝負を着けるぞ!」

「奴らを一歩たりとも街に入れるな」

 バセロナ伯が、将兵の前を馬で移動しながら檄を飛ばした。

「おおおおおおおおおおおおう」

 それに応える将兵の声が、響く。

 士気は高い、忠興はそう見た。

 前線の部隊が既に、魔物との交戦に入っている。しかし、多勢に無勢、そのほとんどが無残に討たれていた。

「無理、無理、無理」

 ユリィが早口で言う。

 魔物の唸り声が大地を割かんばかりに響き渡る。

「ユリィ、魔法はルシアに使え」

 忠興がユリィに言う。

「えっ……」

 ユリィが驚いた声を上げる。

「ヨイチ様、それは」

 ルシアも同様である。

「ワシは己で充分じゃ」

「ルシア、ワシに着いてこい」

 そう言うと、忠興は自身の周りに、闇の魔力を纏った。

 そして、

「行くぞ」

馬の腹を蹴ると、単騎で駆け出した。

 忠興が、腰の愛刀、兼定を抜く。

「ふはは、歌仙どころか、これでは百人一首も越えて万葉集となってしまうわ」

 この兼定の異名歌仙は、忠興がこの刀で、京の都を荒らした無頼の徒三十六人を斬り殺したことから、三十六歌仙に着想を得て命名したものである。

「くらえい」

 忠興が、刀に魔力を集中させた。

 眼前に、魔物の大群が迫る。獣じみたモノ、ゴブリンや、見知らぬ姿の化物まで、いずれも禍々しい姿である。

「死ねや!」

 刀を一閃させると、紫色の光が巨大な刃となって放たれた。

 それが、魔物どもをなぎ倒す。

「もう一発」

 忠興が、さらに魔力を切っ先に移す。

 その時だった。

 天から、幾条もの光の矢が魔物どもに降り注いだ。

「おお、珠か」

 遥か後方より、ガラシャが光の矢を大量に降らせたのである。

「客人ばかりに良い格好させてはおられん、我らも行くぞ」

 それを合図に、バセロナ伯の鉄牛騎士団も突撃を開始する。

「ぬううん」

 忠興は、魔物の群れに入り込むと手当たり次第に刀を振った。その度に、魔物が血しぶきを上げて倒れていく。

「私も」

 ルシアが指に挟んだナイフを何本も投げる。

 しかし、それは魔物ではなく、空中に向かってだった。

 そして、そのナイフは空中でその運動を止めた。

「よっ」

 ルシアは馬から飛び上がると、そのナイフを足場に空中に立った。

「え……何、それ?」

 後ろに続いたユリィが余りのことに声を上げた。

「そこっ」

 ルシアが一本のナイフを足で蹴る。すると、止まっていたナイフが勢いよく飛び、魔物の額に突き刺さった。

 ルシアは、魔法を使えるのである。風の魔法を使い、ナイフを空中に留めて足場にしたり、それに追い風を付けて飛ばすというのが、彼女の戦闘スタイルなのである。

「使えるなら言ってよね」

 ユリィが、後ろから大声で呼びかける。

「ごめんなさい、ユリィさんサポートお願いしますね」

 そう言うと、さらにルシアは空中からナイフを魔物に投げつけていく。

 騎士道精神に篤い祖父の手前、魔法はあまり使わないようにしていたルシアであったが、幼少の頃より亡き父がこっそり学ばせ、それを自身のナイフ術と融合させていたのである。

「もう……」

 ユリィもすっかり魔物の大群の中に入ってしまっている。もはや攻撃魔法を苦手とは言って居られない。

「えい、ていぃ!」

 必死になって、『浄化の水』を放つ。魔の力を浄化する水の魔法である。受けた魔物の身体が煙を上げて溶けていく。

(ユリィの奴……なかなか)

 それを横目に、忠興はなおも、刀を縦横無尽に振り続けた。

 まるで、忠興の周りだけが空白地帯であるかのように、道が開けて行く。

「ガラシャ様は、前線の援護を!」

 後衛のガラシャを守りつつ、ショウサイとエンリケも、前線を突破した魔物を食い止める。

「頼みます」

 ガラシャは『光の矢』を間断なく放つ。上空から撃ち降ろされる矢は、まるで意思を持つかのように魔物だけを貫いていく。

 いつしか、バセロナ側の守備隊は、魔物の軍勢を押し返していた。

「どけい、どけい」

 バセロナ伯が魔物を蹴散らしながら進む。

 馬上で、鎖に付けた棘の付いた鉄球『モーニングスター』を振り回しながら、ただひたすらに前進して行く。

「進め、進めい」

「鉄牛騎士団に後退はないのだ!」

 声を上げ、自らが先頭となって道を切り開いて行く。それに他の将兵も続く。

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