第16話 次なる旅へ
第三章
一
城門を出ると、アルトら一行は忠興とともにギルドに顔を出した。
「お、英雄の御帰還だな!」
マスターが強面の顔に笑みを浮かべて、一行を迎えた。
「今回の件で、お前らのパーティーの等級も銀等級に昇格ってことだぜ」
マスターが、肘でアルトの胸をつついた。
アルトも、照れくさそうに笑う。
「ところで、ヨイチ殿はここでお別れですな」
サイモンが改まって言う。
忠興は、イスパリオの騎士として魔王討伐の旅に出ることになるのである。
路銀として相応の金貨を、王より賜っていた。
「これが、あんたの取り分だ」
コエンが、忠興に金貨を渡す。ゴブリン討伐の報酬である。
「うほん」
突然、ユリィが咳払いをした。
「ん? 何だ、ユリィ」
アルトが尋ねる。
「実は私も、その……ヨイチと一緒に行こうかな……」
ユリィの言葉に、アルトが驚く。
「はぁ?」
「ヨイチは今やイスパリオの魁星騎士団の騎士様でしょ……だったら従者が必要でしょう」
だから、私がそれをするとユリィは言うのである。
騎士とは身分であると同時に、戦場において騎乗を許された者である。通常は、従者を従えるのは当然である。
しかし、忠興は騎士といっても、遍歴を許された名目上の騎士である。領地もない忠興に従者などは不要である。
アルトやサイモン、コエンはユリィの発言の真意を図りかねていた。
「んー、もう。私はもっと色々な冒険をしてみたいの」
「魔王を倒すって、かなりの冒険じゃない」
恥ずかしそうにユリィが言う。
「決意は固いんだな……」
アルトが、ユリィの顔をじっと見る。ユリィがコクンと頷いた。
「お世話になりました」
そう言うと、ユリィは大きく頭を下げた。
「おい……」
当の忠興がようやく口を開く。
「ワシは、許可しておらんぞ」
忠興からしてみても、勝手に着いてこられても迷惑である。
「何よ、ヨイチだって聖女様に勝手に着いていくんでしょ。だから私も、勝手にでもヨイチに着いて行くんだから」
「それに、一人じゃこの世界のことが分からないから不便でしょ」
むっ、と忠興が言葉に詰まった。確かにユリィの言う通りである。
「勝手にせい」
そうは言ったが、内心は助かるなと思う忠興であった。
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