第13話 凱旋

 六


 ゴブリンを討伐したガラシャ隊と、忠興らの一行は、トレットの街で歓待を受けると、翌朝にはイスパリオに戻った。

 王都に入ると、多くの群衆らが英雄の帰還を待っていた。

「はえー、まさかこんな……」

 飛び交う民衆の歓声を受けたアルトが、照れくさそうにする。

「アルト、今夜はモテモテだぞ」

 コエンが冗談を飛ばすが、彼もまたどこかぎこちない表情である。

 単なるギルドの冒険者にとって見れば、それは無理もない話であった。

「御免」

 そんな忠興らに、先を行くガラシャ隊から一人の騎士が近づいて来た。ポルテギアのエンリケである。

「イスパリオ王が、貴公らに謁見を許すとのお言葉だ」

「このまま着いて参れ」

 それだけ言うと、馬首を戻して隊に戻って行く。

「ほう」

 忠興が珍しく感嘆の声を上げた。エンリケの見事な手綱捌きに感心したのである。

 他の一行は、まさかの王への謁見という言葉に舞い上がっている。

「やったなアルト」

 沿道にいたギルドマスターがアルトに手を挙げて祝福する。

「おう、後で寄るよ」

 それにアルトが応える。

 やがて、城門が見えてきた。

 衛兵らが凱旋部隊を認めると、立てた槍を外側に向けた。敬礼の所作である。

「照れくさいな……」

 アルトがペコペコと頭を下げる。慣れていないのである。

 忠興は軽く一度頭を下げて答礼を返す。この世界の作法は知らないが、武人としての礼に変わりはない。

「ここを馬に乗って潜れるとはな……」

 サイモンが、上を見上げて言う。

 冒険者は平民である。そのような者が、城門を騎乗で通ることを許されるというのは、感慨深い物があるのだろう。

「ここで下馬を」

 城門を潜ったところで、エンリケが忠興らに下馬を促す。忠興らの馬は、ギルドから借りた馬である。

「ここで美味しい飼い葉でも食べて待っていて」

 ユリィが馬の首筋をポンポンと叩いた。

 衛兵に案内され、場内に入った一行は謁見の間へ向かった。

「貴公らは、我々の後ろで控えるが良い」

「イスパリオ王からの諮問にはガラシャ様か、私が答える。よいな」

 エンリケが再び、忠興らに言う。

 ガラシャ隊は、ポルテギア王国の正式な騎士で構成されている。彼らは、ガラシャを団長とする聖遣騎士団と言う称号と、騎士の身分を与えられている。

 一方のアルトらギルドの冒険者は平民である。この差は絶対であった。

 王が、その姿を見てくれるということですら過分の沙汰なのである。

「帯剣を許すとのお言葉じゃ、兜のみ脱いでお待ちあれ」

 イスパリオの騎士が告げる。

 謁見の間に通された一行は、玉座の前に片膝を着くと兜をその脇に置いた。

 王が現れるまで、このまま控えるのである。


 

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