第11話 洞窟へ

  五


 翌朝、忠興たちはガラシャ達の後を追った。馬を置いての徒歩である。

「向こうの方が戦力的には充実してますからね」

「他にもこれには意味があるんですよ」

 アルトが言う。

「ゴブリンはきっと林の中の洞窟を巣としているはず……」

「複雑に入り組んだ洞窟は暗くて攻め込む方が不利」

 ユリィがさらに説明する。

「だから、後発して伏兵に備えるということか」

 忠興が頷いた。

 ガラシャの一行と打ち合わせした訳ではないが、向こうも忠興らの行動は察知しているようであった。

 街道を外れて忠興らが林に入る。鬱葱とした樹々の緑が、ゴブリンの擬態には丁度いい。

「ほらね……」

 途中の樹々に剣でキズが付けられている。忠興たちに道を示しているのである。

「ゴブリンらはここまでは智恵は回りません」

「行きましょう」

 罠かも知れないと考える忠興にコエンが言う。

 その目印に従って進むと、所々でゴブリンの死骸が転がっている。潜んでいたゴブリンどもを先発のガラシャの隊が叩いたのである。

「見えましたね」

 やがて、目の前に洞窟が大きな口を開けて現れた。

「街の人間の話によると、この洞窟は約5エメイルくらい……そんな距離はないな」

 サイモンが松明を点け、中を窺いながら言った。

「しかし……ヨイチさん」

 アルトが忠興の兜を見て言う。

「その兜は、洞窟ではちょっと窮屈かもしれませんよ」

 忠興の兜は、自身で設計した兜で

「山鳥尾頭立黒塗越中兜」

と呼ばれる物である。

 その名の通り、兜の天辺から真上に山鳥の尾を生やしたものである。

 その鳥の尾が、狭い洞窟の中では邪魔になるとアルトは注意を促したのである。

「それも……そうだな」

 忠興は、こういうところは素直であった。兜を脱ぐと、それを洞窟の入り口にポンと置いた。

 暗い洞窟で、兜の目庇(ひさし)で視界を損なうことの不利も考慮したのである。

「よし行こう」

 アルトが皆に促す。

 洞窟の中は、暗く湿っている。しかし、想像していたよりも広い。

 天井から滴り落ちる水滴の音がこだまする。

 一行はサイモンを先頭とし、アルト、コエン、ユリィ、忠興の順で進んだ。

「しっ……」

 十分ほど進んだところで、サイモンが皆を手で制した。

 小声で囁く。

「見ろ、ゴブリンだ」

「ポルテギアの隊を後ろから襲うつもりらしい」

 忠興が見ると、なるほどゴブリンの群れ十匹ほどが前を歩いているのが分かる。

「殺す」

 そう言うと、忠興は刀を抜き放ち、走り出した。

 忠興に躊躇はない。元から、この伏兵を討つことは計算に入っていたことであるが、あまりの行動の速さにアルトたちが戸惑う。

 怒涛の如く駆け寄る忠興の足音にゴブリン達が気付く。

 しかし、すでに遅い。

 忠興は、ゴブリンの群れに突っ込みながら、一匹を切り倒した。ゴブリンたちに動揺が走る。

「消えろ」

 そう言うと、忠興は刀を縦横無尽に振るった。その度に、ゴブリンが一匹、また一匹と血しぶきを上げて倒れ伏す。

 哀れなゴブリンたちは、ろくに反撃することもできずに、全て忠興に斬り伏せられた。

「すげぇ……」

 アルトたちが出る幕もない。

「ほんと、恐ろしい人だな……」

 コエンが、忠興の凄惨な戦いぶりに身震いをする。

「でも、ヨイチは今のは加減してたよね」

 ユリィが言った。

 忠興が、刀の血を拭う。

 忠興は魔力を使っていなかったのである。それは、狭い洞窟内で魔力を使えば、崩落を招きかねないとの配慮であった。

 それにしても、純粋な剣技だけでもゴブリンの群れを圧倒する忠興の実力には、同じ剣士としてアルトも畏怖の念すら覚えるのであった。

「行くぞ」

 忠興が、歩みを進める。

 思い出したようにサイモンが先頭に立った。

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