第3話 ギルドにて

  三


 忠興は、自分の身に起こったことを、ありのままに話した。

「つまり……アンタは別の世界からやってきた……その戦士ってわけか」

 サイモンが言う。背が高い、短い赤い髪をした大柄な男である。

「サムライだ」

 忠興が訂正した。

 忠興は、その「パーティー」と呼ばれる一団とともに、「イスパリオ」にやって来た。

 イスパリオというのは国の名前で、この町は王都マドーレというそうだが、忠興には興味がなかった。

 パーティーは、賑わう街中を進み、街の中心部に向かった。

 大きなレンガ造りの建物である。

 その周りには、屈強な男、怪しげな雰囲気を放つ女がたむろしていた。

 ここは「ギルド」と呼ばれる場所だと、サイモンが説明した。

 そして今、忠興らは、このギルド内でテーブルを囲んでいた。

 ギルドで、彼ら「冒険者」と呼ばれる者たちは仕事「クエスト」の依頼を受け、それに応じて報酬を受け取るという仕組みらしい。

 彼らは、そのクエストの帰りに、先ほどのサーベルウルフに襲われたらしい。

「しかし、簡単な素材集めのはずがえらい目にあったぜ」

 サイモンがテーブルの上に、並べられた料理に手を付ける。

「アンタも食べな。俺たちのおごりだ」

 青い服の男、このパーティーの「リーダー」と呼ばれるアルトが、忠興に勧める。

 栗色の髪に、どこか人懐っこそうな顔をしている。

 忠興は、手をあげて感謝の意を伝えると、改めて室内を見回した。

 ここの街並みは忠興には新鮮であった。

 異国の宣教師たちの国に似ているというのが感想である。

 この地の言葉や文字も、忠興にはなじみのないものであるはずが、すんなりと理解できた。

 これは、神とやらの計らいによるものであると、忠興は納得した。

 何せよ情報は大事である。

(こいつらから、必要な情報を得ておくか)

 忠興は、テーブル上の、グラスに注がれた赤い飲み物を飲み干した。

 亡き信長公に貰ったワインという南蛮の飲み物と同じようである。苦味走った味は嫌いではない。

 しかし、この世界には忠興にとって理解を越えたものが存在した。

 魔法や魔物の存在である。

 この世界には、どうやら先ほどの獣以外にも、妖怪や物の怪といった魔物と呼ばれる存在が跋扈し、妖術の類と忠興がバカにしていた魔法という物が事実存在するらしい。

「魔法とはなんだ?」

 忠興が、パーティーの女、ユリィに尋ねる。白い服の若い女である。

 コエンと言う男は火の柱を起こし、この女はサイモンの力を増幅させ、さらには傷ついた青い服の男アルトの右腕の傷を治した。

 忠興はそこに興味を持ったのである。

「そう……アナタの世界には魔法がなかったのね」

 ユリィが、説明を始める。

「魔法はつまり……神や精霊の力を借りて奇跡を起こす術よ。火、水、風、土の四つからなる……」

 忠興が、テーブルの肉に手を伸ばす。

「それらの四つの元素にはさらに攻撃、回復、補助などの効果があるの」

「コエンが起こした火柱は、火の魔法。私がサイモンに使ったのは力を増幅させる水の魔法ね」

「この世界では、剣技と同じように魔法も広く修行されているの」

 ユリィが丁寧に忠興に説く。

 忠興が肉を口に放り込んだ。

「ただ……」

 ユリィが指を立てた。

「アナタの、その闇属性、そして聖属性だけは特別よ」

「普通の人間では、扱うことのできない力」

 そう言って、ユリィは再びグラスを傾ける忠興を見た。

「神の恩寵を受けた聖人だけが扱える聖属性……か」

 紫色の衣の男、コエンが口にした。皺が深く、老けて見えるが、三十七歳の忠興と同じくらいの歳である。

「では、ヨイチ殿の闇属性は……」

 ヨイチとは、細川越中守忠興の通称「与一郎」から来ている。

 あまりに彼らには忠興と単語が馴染みがない物だったので、忠興は自身の通称を教えたのである。

 それを、彼らは「ヨイチ」とさらに簡略化して呼んでいるのである。

「もしかしたら、魔王に呼ばれてたりして」

 ユリィが笑った。

 忠興も、グラスを片手に笑った。

(魔王だと、ワシはワシの意思でここに来たのよ)

(この力が魔王の物だとしても、それがどうした。成る程、ワシは珠にも鬼と呼ばれた男……、闇属性とやらも頷けるわ)

 クククと笑う忠興に、ユリィが引きつった笑いで応じた。

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