第2話 闇の力

  二 


 忠興は、広大な荒野に立っていた。

 空は暗く、大地には大きな影が落とされている。

「あっちか……」

 呟くと、忠興は歩き出した。

 彼には珠の居場所が分かるのである。ズンズンと彼は進んだ。

 ふいに前方で声が聞こえた。

「コエン、後ろに回れ」

 彼の目に、男女の四人組の姿が見えた。

 その先には、大きな牙を持った獣の姿が見えた。

 銀色にきらめく体毛に、真っ赤な瞳が光る。その巨体を包んだ筋肉が、その素早さを物語っている。

「くそ……こんな所でサーベルウルフと出くわすとは……」

「こいつは俺とサイモンで引きつける」

 青い服を纏った、栗色の髪の男が言う。手には大ぶりな剣を持っている。

 一方、サイモンと呼ばれた男は、こっちは重厚な銀色の鎧を身に纏い、斧を構えている。

 獣の背後に、男が回り込む。コエンとはこの男のことだろう。

 手に木製の杖を持ち、軽装である。

「ふん……」

 忠興は、その一団を気にも留めず、そのまま歩いた。

 あの獣は、加藤清正が退治した虎よりも凶暴な獣であることは分かってはいたが、忠興は不思議と恐怖を感じなかった。

「ワシには関係ないことだ」

 ただ、そう思っただけであった。

「おい、そこの人」

「あんたも冒険者なら、手伝ってくれ」

 獣の後方に回り込んでいた男コエンが、忠興の姿に気付いて、声を上げた。

 全身を鎧に纏ったその姿を見て、彼らは忠興に助力を願っているのである。

「どうした」

 青い服の男が、忠興の方を振り向いた。

 その時である。

「グルオオオオオオオ」

 獣がけたたましい唸り声を上げて、青色の男に向かって襲い掛かった。

「うおおおおお」

 青い服の男が咄嗟に躱す。しかし、獣の爪がその右腕を切り裂いた。

「アルト!」

 サイモンが獣に斬りかかる。

「ガアアア」

 しかし、獣はサイモンの斧よりも早く、サイモンに飛びかかった。

「今だ、コエン」

 サイモンが大声を上げた。

 コエン、紫色の布に身を包んだ中年の男が、手にした杖を振りかざした。

「火柱よ、燃え上がれ!」

 その瞬間、獣の下から沸き起こった火柱が、獣を包む。

(何だ、今のは!?)

 忠興が、立ち止まる。

「ガァアアアア」

 獣が火に焼かれ、転げまわる。

「サイモンに力を!!」

 二人の男の後方にいた女が、サイモンの背に両手をかざす。

 まばゆい光がサイモンを包む。

 サイモンの背中が一回り大きくなったように忠興は感じた。

「うおおおおおお」

 サイモンが勇躍し、獣に向かって斧を振り下ろした。

 斧が、獣の額を割る。血しぶきが飛び散った。

 しかし、尚も、獣は炎に毛を焦がしながらも、激しく暴れまわる。

 そして、

「オオオオオオオ」

忠興に向かって、その牙を向けて真っ直ぐに駆け出した。

「危ない」

 右腕を抑えながら、青い服の男が叫んだ。

「畜生が……」

 忠興が、そう呟き、刀の柄に手を掛けた。

 全身に黒い蒸気が包む。

「あれは……」

「闇属性?」

 青い服の男らが叫んだが、忠興は意に介しない。

「邪魔だ」

 忠興の刀が、鞘から走る。

 その刃が、獣の大きな口から全身を切り裂いた。

「ガッ……」

 獣は断末魔を上げることもなく、大地に倒れ込む。

 ズズンと、大きな地鳴りとともに倒れた獣を見下ろし、忠興は刀の血振りをした。

「これは……」

 忠興は、愛刀「歌仙兼定」を見た。自身でも驚く程の切れ味である。

 いや、刀だけのせいではない。

 身体から沸き起こった不思議な力が、刀を包みこんだのも感じたのだった。

「ありがとう助かった」

 サイモンが、忠興に駆け寄って来た。

「まさか、街までもう少しの所でサーベルウルフに出くわすなんて……ついてなかったぜ」

 忠興が興味なさそうサイモンに一瞥をくれると、刀を鞘に納め歩き出した。

「ちょっと待ってアナタ」

 忠興の後ろから、女が声を掛けた。

 白い服を纏った、若い女である。

「アナタのそれ、闇属性よね?」

 興奮気味に話しかける。

「闇……属性」

 忠興の足が止まった。

「少し話してみよ」

 この世界のこと、自分にもたらされた力のことを知る必要を忠興は感じたのであった。

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