第31話 ナウマン象、暴れる!

 ナウマン象がとうとう復活してしまった。ナウマン象が咆哮ほうこうする。

「パオオオオオーーーーーーーーーンンン!!!」

 ナウマン象の背中には人が乗れる鞍がつけられている。ウマシカとドクターはその鞍に乗った。ドクターが象専用のコントローラーで操作している。コニタン一行は皆、うろたえている。


 所変わって、ビクターたちとハエ男の戦闘は続いている。

 アインが両手で踏み台をつくり、カベルを空中にはね上げる。カベルは神殿で清められたダガーでハエ男を攻撃する。しかし、中々ヒットしない。ハエ男は壁に張り付いて槍を頭上に揚げた。パチパチッ、という音がする。

「まずいぞ、いかづちだ!」叫ぶビクター。

 アインがダガーを投げつける。ハエ男に命中した。

「ギヤァァァ! うっとおしい!」

 アインが、いかづちが落とされるのをすんでの所で防いだ。だがハエ男は甲高い声でモンスターを呼ぶ。

「ヒーーッヒッヒッヒッ!」

「クソッ! またモンスターが増えた」ビクター。

 ビクターたちは、ハエ男にモンスターを召喚する間を与えないよう攻撃をし続けるのだが、空を飛べるハエ男相手にそれは簡単ではない。アインとカベルはダガーでモンスターと戦っている。

「風よ、起これ!」

 ハエ男は強風を巻き起こした。風はビクターたちのみならず、モンスター諸共もろとも吹き飛ばした。

「うわああああ!」

 アインとカベルは岩を掴んで上手く受け身を取ったが、ビクターは壁に激突した。そこへハエ男が一直線に飛んで行く。

「うりゃ!」ハエ男がビクターを槍で刺した。

「ぐああああぁぁぁ!」

 カインとアベルは襲い掛かって来るモンスターたちを相手にしていて、ビクターの援護に行けない。

 突然、アインとカベルの前にバナナのブーメランが飛んできた。「えっ?」と見ると、バカ犬とクソ猿が戦いながら走って来るのだ。バカ犬は直感で状況を理解し、モンスターを倒し始める。

「このモンスターどもは任せろ! 早く回復魔法を!」

「回復魔法!」アインとカベルが唱えた。

 ビクターの傷口が塞がり、体力が回復する。

「ふう、助かった」ビクター。

「お前ら、勇者一行の味方か?」バカ犬。

「そうだ、勇者コニタンに味方する者だ」ビクター。

 バカ犬はビクターたちを見て、軽くうなずいた。そしてクソ猿に向き直った。

「かかって来い、クソ猿!」

「ウッキッキッキー!」

 ビクターはハエ男を攻撃する。

「とりゃーー!」

「ヒーッヒッヒッヒッ! めんどくさい奴だな」

 そこへ、けたたましい動物の鳴き声が聞こえてくる。

「パオオオオオーーーーーーーーーーーーン!!!」

「おおお、ナウマン象が復活したのか、ウッキッキッー」クソ猿は声のする方へ走って行く。

「なんと……」立ち尽くすバカ犬。


 クソ猿はナウマン象の背中にウマシカとドクターがいるのを見つけると、自分もその背中の鞍に飛び乗った。コニタンたちは逃げる、続いてナウマン象に乗ったウマシカたちが追う。

「蹴散らせ、ナウマン象よ!」ウマシカ。

「パオーーーーン!!!」

 象は鼻で攻撃してくる。地面がえぐれ、風圧で数名が飛ばされる。

「うわあああーーーー!」

 コニタン一行が逃げてきた場所でちょうど、ビクターたちがハエ男と戦っている。

「鋼鉄魔法!」

 マジョリンヌが唱えると、鋼鉄の壁がナウマン象の行く手を遮った。ナウマン象は鋼鉄の壁を壊そうと牙で攻撃する。

 ドガン! ドガン!

「おや、お久しぶりですね、マゲ髪」ビクターが戦いながら言った。

「おお、これは聖騎士のビクター殿」マゲ髪。

「マゲ髪さん、これを預かってもらえますか」アイン。

「ジャポニカン王国の三種の神器です」カベル。

 そう言って二人は大きな革製の道具入れをマゲ髪に渡した。

「ああ、大臣様から聞いているよ」マゲ髪。

 神官二人はすぐにビクターのサポートへ回った。

「ここはお任せしますよ。いくぞー! ハエの悪魔!」ビクターの必死の攻撃が続く。

「めんどくせーーー、ヒッヒッヒッ!」ハエ男は別の部屋へ飛んで行った。

 ビクターたちは急いで後を追う。

 ナウマン象は鼻で鋼鉄の壁を何度も殴る。

 ドスン! ドスン! ドゴーッ! ボロボロッ……

 鋼鉄の壁が崩された。

「すげえ、強いぜ、ナウマン象」大喜びのクソ猿。

「おい、あんなのとどうやって戦うんだよ」すぺるん。

「はーっはっははは!」狂喜のドクター。

「おや、マゲ髪、マジョリンヌ、お前らやけにピンピンしてるな」ウマシカ。

「教祖ウマシカ、俺らちゃんと風邪薬を飲んできたぜ」マゲ髪。

「あたしら頭がいいから、薬を飲んでなかったら、大変なことになってたな」マジョリンヌ。

「戦士マモルから、お前らの情報を受け取ってあるのさ」マゲ髪。

「……あの時の伝書鳩が届いていたのか。風の谷の秘密がバレたということだな。だがもうそんなことはどうでもいいことだ。どのみち、お前らはここで死ぬのだからな」ウマシカ。

「パオオオーーーーーン!!!」

「どうすんだよ。一体どうやって戦うんだ」焦るすぺるん。

「前に言っただろ。俺らのパーティーではナウマン教に勝てない理由があったと。だが、お前らのパーティーでは勝てるかもしれない」マゲ髪。

 目がいる狂乱状態のドクターがコントローラーを掲げながら操作している。

「踏みつぶせーー!」叫ぶドクター。

「死ねーーー!」ウマシカ。

「パオーーーーーーーン!!!」

 ナウマン象が、コニタンたちを踏もうと前足を上げている。

「うわああああ!」絶叫するコニタンたち。

 こりゃもうダメだと思えるシチュエーションだ。コニタンには自分の過去が走馬灯のように蘇っていたはずだ。

 そこへ突然、謎の人物が現れた。紫のローブを纏って杖を持った男だ。

「待たせたな」その男は言った。

「えっ……誰……?」みんな。

「誰か知らんが、踏みつぶせ!」ウマシカ。

「パオオーーーーーンン!!!」

「怪力魔法!」男は魔法を唱えた。

 赤い光が男の腕にまとわりつく。男は片手でナウマン象の足を受け止めた。そしてその足を押し戻した。

「何だと!」ウマシカ。

「何者だ!」ドクター。

「ウッキッ?」クソ猿。

 みんながこの男に注目する。

「誰?」すぺるん。

「誰?」かおりん。

「誰?」コニタン。

「誰や?」アホ雉。

 誰もこの男を知らないようだ。

「待て待て待て待てい! たとえおめえさん方があっしのこの顔を覚えていなくとも、このアルパカがおめえさん方の顔をしっかりと覚えてやすぜぃ!」男は右肩を出して啖呵たんかを切った。

「えーーっ!」みんな。

「金さん!」すぺるん。

「金さん!」かおりん。

「金さん!」コニタン。

「誰やねん!」アホ雉。

 驚くことに、この男、いつの間にかコニタン一行からいなくなってたあの金だったのだ。

「回復魔法!」金が唱えた。

 コニタンたち全員の体力と傷が回復した。

「ええい! ナウマン象よ、蹴散らせ!」命令するウマシカ。

「霧魔法!」金が唱えた。

 霧が発生し、徐々にあたり一面を覆っていく。

「この霧に紛れて早く向こうへ、ゴホゴホ」かおりん。

「パオーーーーーン!?」戸惑うナウマン象。

「こざかしい! 風魔法!」ウマシカが唱えた。

 風が霧を吹き飛ばしていく。

「風魔法!」金も同じ魔法を唱えた。

 風がウマシカたちの方へ吹いて来る。慌ててウマシカがもう一度魔法を唱える。

「風魔法!」

 風同士がぶつかり合い、まるで爆発が起きたかのように、天井や壁に亀裂が生じた。

「この私に風魔法をぶつけてくるとは生意気な!」ウマシカ。

「回復魔法と攻撃魔法を使ってるあの男、まさか……」ドクター。

「……ん、まさか……」ウマシカ。

 ウマシカとドクターの周りの空気が張り詰めた。マゲ髪がそっと口を開く。

「賢者だよ」

「賢者? 金さんが賢者なの!?」かおりん。

「ええ、私は賢者だ。ゴータマ神殿でジョブチェンジしてきた。遅くなってすまなかった」金が言った。

「えーーーーっ! お前、金さん、ジョブチェンジしてきたのか」すぺるん。

「それと、私が本来パーティーにいるはずのない人間だ。五人目はこの私だ」金が白状した。

「お、あ、ああ……」状況を飲み込めないすぺるん。

「錯乱魔法!」金が唱えた。

「パオーン! パオーン!」ナウマン象が急に暴れ出した。

 壁にぶつかったりして、自分で自分を痛めつけているようだ。

「何だ?」ドクター。

「くそ! 象の頭を狂わせるとは!」ウマシカ。

「うわあああ、振り落とされる!」クソ猿。

 ナウマン象は暴れている。

「今から象封じの魔法を使う。魔法を唱えている間、時間を稼いでほしい」金。

「まさか、あの伝説の魔法かい?」マジョリンヌ。

 ハエ男が呼んだのだろうか、モンスターが奥からぞろぞろと出て来る。

「ああ、任せとけよ」すぺるん。

 モンスターは総勢三十匹ほど、元からいた巨大なイモムシと巨大なコウモリが数体、後は、巨大な蝶のモンスターだ。

「とりゃあー!」マゲ髪が剣で斬り伏せて行く。

「火炎魔法!」マジョリンヌは空を飛ぶモンスターを魔法で攻撃だ。

 すぺるんは殴り掛かる。アホ雉は剣で戦っている。かおりんは気絶寸前のコニタンを守っている。マゲ髪とマジョリンヌは火炎魔法を唱えて一度に数匹のモンスターの体力を大幅に削る。さすがに4Kと言われるだけあって強い、そしてキモい。

 そうこうしている内に、金からまばゆい光が発生する。そして、どんどん光度が増していく。

「ゴータマ神殿の大神官より授かった究極の魔法、ナウマン象封じの魔法! おりゃあああ!」金が魔法を唱え終えた。

 光が一つに束なり、龍のようにうねりながらナウマン象に向かっていく。

「パオオオオオーーーーン!!!」

 光がナウマン象に当たった。しかし、特段変わったことが起きたわけではない。

「ははははーっ! そんな魔法効くか!」ドクター。

「ハハハハハハハッ!」ウマシカ。

 ナウマン象はまだ少し錯乱しているが、特別に何も起きてはいないようだ。

「やはり効かぬか」金。

「おい、効かないって何だよ!」すぺるん。

「慌てるな、すぺるん」マゲ髪。

「ナウマン象封じの魔法が効かないのは想定内だ」

 そう言って、金は再び魔法を唱え始める。

「お前らナウマン教の秘密は、戦士マモルから受けとったと言っただろ。お前たちが復活させたのは、ナウマン象ではない。アフリカ象だ!」マゲ髪。

「えええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!」コニタン一行。

「いや、そんなアホな!」アホ雉。

「ぐぬぬぬぬ、ナウマン象よ、踏みつぶせ!」ウマシカ。

「パオオオオオオーーーーーーーーン!!!」

 金が束なる光を象に向けて発した。

「アフリカ象封じの魔法! おりゃあああ!」

 光が象に命中した。

「パオーーーーーンンン!」暴れる象。

「おい、暴れるな!」ドクター。

「何とかしろ、ドクター!」ウマシカ。

「振り落とされるーーー!」クソ猿。

 三人とも、象の背中から落下し、地面に打ちつけられた。三人が見上げると、象の足が真上にきている。

「ぎゃあああああ、踏まれるー!」ドクター。

「ああああああああああ!」ウマシカ。

「ウキキキキキキキーー!」クソ猿。

「パオーーーーーーーン!」

 ズシーーーーン!

 ウマシカたち三人は象の足に踏まれてしまった。

「パオオーーーーーーン!」

 象はそこら辺をのたうち回る。

「……そんな……バナナ……ガクッ……」クソ猿。

「おりゃあああ!」光を操る金。

「パオーン! ピャオーン! ォォーン……」

 象はだんだん小さくなっていく。

「ピャォン……」

 そして象は団子のように小さくなった。金は持っている瓶に象を入れて、蓋をした。

「これが賢者しか習得できない象封じの魔法かい」マジョリンヌ。

「あの巨大な象を封じ込めたのか」すぺるん。

「ああ、この瓶の中にな」金。

「ナウマン象と違うて、アフリカ象やったんかいな」アホ雉。

「戦士マモルの情報がなければ、われわれは負けていた」マゲ髪。

「象おおおおおおおおお! ひいいいいいいいい!」

「うっせー!」殴るすぺるん。

 いつものだ。

 

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