第30話 ナウマン教団と対決

 コニタンたちはナウマン教のアジト内を探索中だ。アホ雉の後に続いて、広い空間に出た。天井までの高さが数十メートルになるところもある広々とした洞窟内でもさらに広い空間である。そこに巨大なプールがあり、その周りに実験装置が並んでいる。すぺるんがプールを覗きに行く。

「何だ、このでかい水たまりは」すぺるん。

「どう見ても水たまりじゃなくて、ゴホゴホ、人工的な水槽でしょ」かおりん。

「この水の中に、ナウマン象のクローンがおるんや」アホ雉。

「ひいいいいい! げほっ、げほっっっっっ」

「動かないのか?」すぺるん。

「まだ実験途中らしいで。この水に栄養がぎょうさん混ざっとるんや。ナウマン象はその栄養を取り込んでる最中なんやで」アホ雉。

「さっきのドクターがやってるのですね?」かおりん。

「ああそうや。人間を悪魔に変える実験もな」

「クソー!」ハリー。

 みんな、ハリーの気持ちが痛いほど分かっている。なので、どう言葉をかけていいのかわからないでいるが、すぺるんはおもんばかっていないのか、テンション高めでいる。

「まだ動かねえのならよ、今ぶっ殺しちまえばいいんじゃねえか?」

「こんな巨大なもん、どうやって殺すねん。体重が30トン以上あるんやで。この水を全部なくすとかして、ナウマン象が目覚めるのを防ぐほうが現実的ちゃうか」

 並んでいる装置にはたくさんのスイッチやレバーがついている。

「すぺるんさん、むやみにボタンに触らないほうがいいですよ。ゴホゴホ、間違ったボタンを押したせいでナウマン象が目覚めたら洒落しゃれになりませんからね」かおりん。

「お、おう」すぺるん。

「ほんで、この先が、教祖の間や。行こか」


 みんなは教祖ウマシカの部屋に入った。ここも巨大な空間だ。壁一面に本棚が並んでいる。ゆったりとした背もたれのある豪華な肘掛け椅子が目立つところに置かれてあり、大きなテーブルもいくつか置かれている。たくさんの読みかけの本が乱雑にテーブルの上に積まれてある。

「誰もいねえじゃねえか」すぺるん。

「誰かおるときに来るわけないやろ。内緒で来とるんや。今、教団の人間は全体会議やっとるんやわ」

「って、誰か来ますよ」かおりんが足音に気づいた。

「やばっ、早よ隠れな」アホ雉。

 みんな物陰に隠れる。そして、ウマシカとドクターがやって来る。

「もうすぐでございますな、ウマシカ様。はっはっはっ」

 コニタンが何かに当たって音がする。ガタッ!

「ん! 誰だ、誰かいるのか!」ドクター。

「……チュウチュウ」かおりんはとっさにネズミの真似をした。

「何だネズミか」ドクター。

 心臓がバクバク状態のコニタンたちだったが、一気にした。

「(マジかよ。全然似てねえだろ。今ので騙せたのか、あいつバカじゃねえか)」

 ひそひそ声のすぺるん。他のみんなはアイコンタクトで何かを伝えあっている。で、すぺるんが何かにぶつかって音がする。ドサッ!

「ん? 誰かいるのか!」ドクター。

 心臓が再びバクバク状態のみんな、お互いに見合って無言の会話。

「あっ……おっ……ポーウ!!!」すぺるん。

「何だ、マ◯ケル・ジャ◯ソンか……ってそんなわけないだろ! 出てこい!」ドクター。

 すぺるんが物真似をしたのだが、見事にバレた。当たり前だ。

「あんたマジでバカなの! ゴホゴホ」かおりん。

「マジでバカなんですよ! こいつは! ゴホゴホ」ハリー。

「バカああああああ! げほっ、げほっ」

 マジでバカなすぺるんは反省している様子。

「アホ雉、お前、何をしている」ウマシカ。

「裏切ったのか!」ドクター。

「ああそうや。わてはもう、ナウマン教のやることについて行けへんのですわ」

 ウマシカの表情が曇った。ドクターは気が狂ったように声を上げる。

「くそ! 者ども! であえ、であえ!」

「であえ、って時代劇かよ。一度俺と付き合ってくれねえかな、あの美人教祖」すぺるん。

「すぺるんさん、バカなことほざいてないで、戦いなさい!」怒りのかおりん。

 クソ猿がすぐさまやって来てウマシカとドクターの前ですぺるんたちに対して身構える。そしてモンスターと信者らも教祖の間に駆け付ける。コニタンたちの数倍の数が集まってきた。

 やるしかない。戦闘開始だ。

「ウッキッキッキー! かかって来いよ、モンク!」クソ猿が挑発。

か、望むところだ!」すぺるん。

「ちょっと、すぺるんさんはコニタンさんを守らないと!」かおりん。

「ひぃやああああああああ!」

 すぺるんは、かおりんもコニタンのことも無視してクソ猿と一対一の勝負だ。クソ猿はバナナブーメランをいくつも投げつける。すぺるんはテーブルの上の本でブーメランを防ぎながら近づく。クソ猿は背中の大きなバナナブーメランを手に取って攻撃する。クソ猿は猿のようにすばしっこく、ジャンプしたり側転したりバク転したりしながら攻撃を繰り出す。すぺるんは攻撃を防ぐことで精一杯でいる。「ウッキッキー!」と耳障りな声を上げ、テーブルの下を移動し、テーブルの上を飛び越え、クソ猿はアクロバティックな攻撃をしてくる。すぺるんはすでに何発も攻撃を受けている。負けじとすぺるんも攻撃するが、クソ猿はと素早くかわす。持久戦に持ち込むことがすぺるんにとって有利だが、そんな余裕はない。

 ハリーは鉄の輪をいくつか信者らに投げつける。簡単にかわされるが、鉄の輪はまるで生きているような動きをしながら信者らの方に戻ってくる。まるで見えない糸で操られているような動きをしながら、鉄の輪は的確に信者らにヒットし倒していく。

 かおりんはハリーとアホ雉の後ろで、水流魔法を唱えてモンスターを片づけていく。

 アホ雉は見事な剣術で信者らを倒していく、全て峰打ちで、キモい顔しながら。

 コニタンはかおりんの横でぶるぶる震えている。

 このままでは、すぺるんが先にやられてしまう。さすがのアホ雉にも助けに行く余裕はない。だが、ここで意外な男が登場する。

「クソ猿、お前の相手は俺がしてやる、来い!」

 バカ犬が現れてクソ猿にケンカを売ったのだ。

「お前も裏切るのか! ウッキッキッキー!」

「バカ犬、お前もか!」ウマシカ。

「バカ犬、おおきにやで」アホ雉。

 クソ猿は教祖の間から出て、バカ犬を追いかけて行く。

「回復魔法!」かおりんが唱えた。

 すぺるんの体力が回復した。

「ありがとよ」すぺるん。

「それにしても、敵が多すぎやな」アホ雉。

 着実に敵の数は減っていっている。だがコニタンとかおりんの盾となって戦っている時点で、ハリーとアホ雉はかなりのハンデを負っているため、攻めの戦いができない。そんな状況の中、あいつが飛んでやって来る。

「ヒーッヒッヒッヒッ!」

 ハエ男が現れて、モンスターを呼び寄せた。地面から、空中から、モンスターが数十匹出現した。巨大なイモムシ、巨大なクマ、巨大なコウモリ……。

「マジかいな! こりゃあかんわ」

「あきらめるな! ゴホゴホ……。ドロシー! 待ってろよ!」ハリー。

 クマのモンスター三匹がものすごい速さでコニタンを目掛けて突撃してくる。だがそいつらは壁に激突して倒れた。いつの間にか大きな鏡があちこちに仕掛けられている。錯覚を利用したトリックだ。クマのモンスターたちはハリーの仕掛けた罠にまんまと引っかかって自滅した。

「ハリー、すごいやんけ」驚くアホ雉。

「水流魔法! ゴホゴホ。マジックパワーがもうすぐ無くなる!」

「それはちょっとまずいで、妖精の姉ちゃん。回復魔法を優先的に使うてや」

 ハエ男はさらにモンスターを呼び寄せる。

「ヒーッヒッヒッ!」

 土人形のモンスターが数体出現した。すぺるんはそいつらを殴りまくる。

「くそー、倒しても倒してもきりがねえ!」

 次々と現れるモンスターたち。すぺるんの言うように、倒しても倒してもきりがない。

 バキューン! バキューン!

「弾がもったいないとか言える状況ではないな、ゴホゴホ」コルト・パイソンを撃ちまくるハリー。

 このままでは、やがてすぺるんたちの体力が尽きてしまう。当然、いつまでもこの状況は続かない。みんなの顔に焦りが見える。

 だがしかし、思わぬ助っ人が現れる。

「すぺるん、こいつは任せろ!」

 みんなが声のした方を向くと、教祖の間の入口からビクターとアインとカベルがモンスターを倒しながら、ハエ男に近づいてくるのだ。ビクターが斬りかかる。しかし、ハエ男はと攻撃をかわした。

「おう、ビクター! それとべっぴんの姉ちゃんらも」すぺるん。

「回復魔法!」アインとカベルが唱えた。

 コニタンたちの体力がかなり回復した。

「おーーーう、回復したぜ」すぺるん。

「誰や?」アホ雉。

「ゴータマの神殿の聖騎士と神官だよ」すぺるん。

「彼らが、あの聖騎士と神官たちですか」かおりん。

「聖剣の力を味わえ、悪魔め!」ビクター。

「めんどくせーな、ヒーッヒッヒッ!」

 ハエ男は教祖の間から飛んで出て行く。ビクターたちも追いかけて出て行く。

 ビクターたちは十匹以上のモンスターを倒してくれたが、しかしまだ三十匹以上残っている。

「はあ、はあ、ゴホゴホ」疲れているハリー。

「もっと魔法が使えれば。ゴホゴホ」かおりん。

「傷は治っても、疲れはそう簡単には回復しねえな」すぺるん。

「なんぼなんでも、多勢に無勢やわ」アホ雉。

 ウマシカとドクターはモンスターたちの後ろで戦闘をじっと見ている。コニタンはアホ雉の後ろでめっちゃ震えている。

「コウモリが厄介やな。こりゃ、ベビーシッターが必要やで」アホ雉。

「どうして?」かおりん。

だけに、が必要」アホ雉。

「……寒っ」かおりん。

「氷結魔法! 氷結魔法!」

 素早い動きで飛び回るコウモリたちは、羽が凍りつき、落下したり、壁に激突したりする。

「今の内や、ここから出るんや!」叫ぶアホ雉。

 コニタン一行は急いで教祖の間から逃げ出した。みんな、走る。


 さっきの、巨大なプールのある所まで走ってくる。走る一行の前方に、土人形のモンスターたちが地中をワープしてきたかのように出現した。しかも大量に。

「はあはあ、ぜえぜえ。もう体が動かねえ」すぺるん。

「あかん、ここまでか……」アホ雉。

 アホ雉はそうつぶやいた。すぺるんもハリーも同じ思いだった。みんながもうこれ以上戦えないと思ったその時、またもや、助っ人が現れた。そう、何度目だろうか、あの男だ。それと、もう一人も。

「おりゃあああ! 火炎魔法!」

 マゲ髪が剣で土人形を切り裂いた。一度に十体ほどを。そして火炎魔法で攻撃した。

「真空魔法! 火炎魔法!」

 マジョリンヌが魔法を唱えた。土人形が衝撃で崩れだす。そして炎が土人形のモンスターたちを包み込んで、ドロドロに溶かしていく。

「おおっ」アホ雉が思わず驚いた。

「はあ、はあ、また助けられちまったな」すぺるん。

「偶然通りかかっただけだ」マゲ髪。

「あたしも助っ人だ、感謝しな」マジョリンヌ。

「ゴホゴホ、4Kのマゲ髪とマジョリンヌが?」驚きを隠せないかおりん。

「ゴホゴホ、二人の4Kが助っ人か」ハリー。

「まさか、お前らに助けてもらうとはな」アホ雉。

 全員、驚いた。まさか4Kが二人も助けに来てくれるとは。

「来る途中で、牢屋に閉じ込められていた人たちは全員逃がした」マゲ髪。

「安心しなよ。あたしとマゲ髪の部下も風の谷に来てる。たぶん洞窟の外まで来てるよ」マジョリンヌ。


 ガガガガガガ……ゴゴゴゴゴゴ……

 洞窟全体が大きく揺れた。プールから水が溢れている。


 ウマシカとドクターが、イモムシのモンスターたちと共に現れた。羽が動くようになったコウモリのモンスターたちも飛んで来た。

「マゲ髪! それにマジョリンヌもか!」ウマシカ。

「ウマシカ様、復活しますよ。もうすぐです」ドクター。

 二人はプールに併設された実験装置の所へ行き、ボタンやレバーを操作している。

「ハハハハハッ!」

「来い、ハクビシンの悪魔よ!」

 ドクターがコントローラーでハクビシンの悪魔を呼んだ。獣のように、ハクビシンの悪魔、ドロシーが走って来た。コニタンたちとウマシカたちとの間でドロシーは猫のように身構える。

「ドロシー!」ハリー。

「人工悪魔か?」マゲ髪。

「倒すしかないだろ」マジョリンヌ。

「待て! やめてくれ! ドロシー! ゴホゴホ」ハリー。

「さあ、いかづちを落とすのだ!」ドクターが命令した。

 ドロシーは左手をゆっくりと上げた。天井辺りで、パチパチッ、と青い光りが見えた。

「おいー、こりゃまずい!」マジョリンヌ。

「んぅーーーーー!」

 ドロシーが左手を振り下ろした。それとほぼ同時にマジョリンヌが魔法を唱えていた。

「鋼鉄魔法!」

 鋼鉄の塊がコニタン一行を包み込んだ。稲光が鋼鉄に落ちる。その威力で鋼鉄がすぐに溶けていく。みんなは「うわあああああ!」と叫んでいるが、いかづちはその声をより大きな轟音でかき消した。マゲ髪でさえいかづちの轟音と威力に肝を潰している。

「この悪魔め!」

 すぺるんがドロシーを殴りに行こうとする。だがハリーが必死になって止める。

「やめてくれ、頼む!」

「いかづちを落とせ!」ドクターが命令。

 悲痛な声を上げながら左手を振り下ろすドロシー。

「んぅーーーーー!」

「鋼鉄魔法!」

 マジョリンヌが再び魔法で稲光を防いだ。コニタンは泣き叫んでいる。しかしその声も聞こえないくらいの轟音がみんなの耳に残り続ける。仮面をつけているせいで表情が見えないが、ドロシーの出す声に悲しさが入り混じっていることを、ハリーは感じていた。

「いつまでももたないぞ!」マゲ髪。

「ドロシー、もうやめろ!」

 ハリーがドロシーの元へ駆け寄って抱きしめ、そして仮面を取った。

「お前は操られてるだけだ。本当はこんなことしたくないんだろ」

 だがドロシーはハリーを振りほどき、天井を見上げて、いかづちを落とすために左手を上げる。

「えっ? 自分の上に落とす気なの!?」かおりん。

「ドロシーー!」ハリーがきつく抱きしめた。

 ドロシーの動きが止まった。ドロシーの目から涙が零れて、頬を伝う。

「……なしい……悲しい……」ドロシーがささやいた。

「ドロシー……」

「……怒っているのに……悲しい……」

 ハリーは、上を向いたままのドロシーの肩を掴んで、彼女の顔を見つめる。コニタン一行もウマシカも無言のままじっとその様子を見ている。


 ググググググ……ゴゴゴゴゴ……

 大きな揺れが起こり、プールから大量の水が溢れ出してくる。


 ドクターが再度命令を出す。

「何をしてる、ハクビシンの悪魔よ! いかづちを落とせ! あれ、ぐぬぬ、コントロールできないぞ、クソッ!」コントローラーをガチャガチャと押すドクター。

「……何、この感情は……」ゆっくりとハリーから離れ去るドロシー。

「お前も失敗か。こっちへ来い!」

 今度は命令通りに、ドクターの方へ走って行くドロシー。「えっ? 待てよ」と後を追うハリー。

「失敗作が! お前はナウマン象復活のための生贄にでもなれ!」

 ドクターはドロシーをプールの中へ蹴り落とした。

「ドロシー!」

 ハリーはマントを脱いで、急いでプールへ飛び込んだ。

「おい! ハリー!」すぺるんは助けに行こうとするが、大きな揺れが起こる。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!


「いよいよ復活するぞ、ナウマン象が!」狂ったように叫ぶドクター。

「おおおーー!」身震いするウマシカ。


 ガガガガガガガガガガ!!

 ググググググググググ!!


 巨大な生物がプールから這い上がってきた。

「パオオオオオーーーーーーーーーーーーンンンンン!!!」

「うわああああああああああ!」みんな大慌てだ。

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