第28話 いろんな秘密が明らかに

 コニタン、すぺるん、ハリーはナウマン教団の本拠地へと連行された。風の谷の外れに位置する洞窟の奥深くに、それはあった。恐竜が十分に暴れられるくらいの広さのある洞窟だ。その中に、牢獄がいくつも設置された場所がある。大きな牢獄には、労働力として連れてこられたと思われる他国の人々が何百人も収容されている。コニタンたち三人は、たくさんの比較的小さな牢屋が並んで設置された場所へ連れてこられて投獄された。かおりんも同じ牢屋に投獄されていた。

 ドクターが信者二人を引き連れてやって来る。

「ドクター、こちらです」信者。

「おーう、妖精だ。間近で見られて非常にうれしいよ。私はね、ジャポニカン王国とモミアゲの国を攻めるのに人工悪魔を二体つくったが、失敗してね。今度はぜひ人工の妖精をつくりたいのだよ」ドクター。

「何と非道な! ゴホゴホ、お前、それでも人間か!」激高するハリー。

「ああ、人間だとも! 風の谷以外の奴らに言われたくはないな。お前らよそ者が、われわれ風の谷に何をしてきたのか忘れたのか!」

「何だと!」

「ふん! 妖精からDNAを抽出した後で、悪魔のDNAを本物の妖精に注入したら、妖精も悪魔になるのかなーー! はっはっはっ!」

「おい、そんなことしたら、てめえ、殺すぞ!」すぺるん。

「さてどうしようかな。実は、三体目の人工悪魔は成功だったんだよねー。なぜかって? コントローラーで操縦できるからさ。ほら、このように!」

 ハクビシンの悪魔が来る。近づくハリー、鉄格子越しにじっと見る。

「ん? ドロシー? ドロシー!?」感情が高ぶっているハリー。

 ドクターはハクビシンの悪魔がつけている仮面を外した。

「ドロシーー!!」ハリー。

「何だ、知り合いか。もう人間だったころの記憶はない。悪魔はな、人間の血を好むんだ。ほれ、人間の真っ赤な血をな。もう人間を攻撃したくてたまらないんだろうな。この悪魔は」

 ドクターは自分の掌をナイフで切って血を地面に垂らした。その血を、ハクビシンの悪魔はすすっている。

「ドロシー……。こんないたいけな少女を悪魔に変えるなんて、てめえ、てめえの血は一体――」

「赤や、赤。今見たやろ、人間の血は赤やねん。思いっきり、赤や」怒りのハリーの言葉を遮ってすごく淡白な信者。

「何なら、貴様ら全員、悪魔に変えてやろうか。はっはっはっ」高笑いのドクター。

「ドクター、そろそろ教祖様の所へ行ったほうがいいでっせ」信者。

「うむそうだな、行くぞ、ハクビシンの悪魔よ」

 ドクターと信者の一人が去って行く。ハクビシンの悪魔はコントローラーで操られてついて行く。

「ドロシー! ドロシー! くそー! ゴホゴホ」膝をついてうなだれるハリー。

 すぺるんもかおりんも、どう言っていいのかわからなかった。かおりんは気の毒そうにハリーのことを見ていた。すぺるんは去って行くドロシーを見ていた。その場に一人残った信者が意味深な佇まいでハリーを見ている。

「かわいそうにな」その信者はかぶっているフードを取った。

 みんなが驚く。その信者がアホ雉だったからだ。

「アホ雉、お前、お前、ドロシーだけは守ってくれると約束したじゃないか! ゴホゴホ、クソ!」

「やっぱり、ハリーさん、アホ雉と通じていたのね。ゴホゴホ」かおりん。

「おお、そやで」アホ雉。

 みんなどう反応していいのかわからないでいる。しかし、すぺるんは落胆するハリーに空気を読むことなく物言う。

「どういうことだ、ハリー! 説明しろ! どこであの美少女と知り合った!?」

「そっち!?」鋭いツッコミのかおりん。

「さあ、出なはれ」アホ雉は牢屋のカギを開けた。

「えっ? なぜ?」かおりん。

 かおりんだけでなく、みんなが驚いた。

「わては今から、あんさんらの味方や。すまんかったな、ハリー。バカ犬もクソ猿も、ハエの悪魔もおる中、わし一人ではあの子のこと守れへんかったわ」

「ドロシー!」

 ハリーは追いかけて行こうとするが、すぺるんに引き留められる。

「待て! お前一人で行っても死にに行くだけだ。お前、アホ雉と内通してたってことは、お前が五人目か? 俺たちを騙してたのか?」

「違う! ゴホゴホ。騙してなんかいない」

「さっきの美少女を守るために、俺たちを騙してたんだろ」

「私は騙してない。ゴホゴホ……私がパーティーを危険な目に合わせたことがあるのか。私は五人目ではない。ゴホゴホ」

 またコニタン一行が疑心暗鬼に陥っている。本来いるはずのない五人目が誰なのかということについて。

「ハリーがわてと裏で通じてたんは、あの女の子を助けたかったからや。それはホンマの話や。あの女の子、わてらナウマン教が占領したウラヤマの街の出身で、街がつぶれた後、ハリーはあの子のことを探し回ってな、ナウマン教に連れていかれたことを突きとめたんや。ほんでその後で、ナウマン教団の一軍に単身乗り込んできて、わてにタイマン勝負を挑んできよってな、その勇気に感服してあの子のことをなんとか守ってやろうと約束したんやけどな……」

 しんみりとアホ雉の話を聞くコニタンたち。

「ドロシーを助けるために、ナウマン教団に侵入する必要があった。ゴホゴホ。それが、キャンペーンに応募した理由だ。私は五人目ではない」

「じゃあ、五人目は誰だよ。って、金さんはどこ行った」すぺるん。

「ゴホゴホ。そういえば、金さんがいませんね」かおりん。

「おい、コニタン、どこ行くんだ。お前も怪しいよな」すぺるん。

「ひいいい……げほっ、げほっ……いいいい!」

「そんなことより、すぺるんさん、どうしてそんなに元気なんですか。みんなひどく疲れてるのに」不思議がるかおりん。

「あんさん、元気やな」

「……怪しい」かおりん。

「何だよ、金さんのほうが怪しいだろ。ここにいないんだからよ」

になるところが余計に怪しい。ゴホゴホ」かおりん。

「おい、アホ雉、そういうお前もなんか元気だな」

「バレたか。しゃーないな、秘密をばらしてしまおか。ええか、ばらしてええか?」

「おう、早く言えよ」すぺるん。

「ここはな、『風邪』の谷やで。『風』と違て『風邪』や。病気の『風邪』や。風の谷にいる人間はみんな風邪をひいてしまうんや。まあ、わてなんか生まれた時からずーっとここに住んどるから、免疫がついて大丈夫なんやけどな。外部の人間が風の谷に来たら、普通に咳き込むんやわ。今までぎょうさんのパーティーが風の谷に来たんやけどな、みんな風邪ひいてまともに戦えへんようになって、すぐに全滅したわ。ちゅうこっちゃ。ほんでな、あんさんが風邪をひかへんのは、バカやからや。バカは風邪ひかんて言うやろ」

 みんな小刻みにうなずいている。

「え、マジ?」すぺるん。

「没収された武器とかは、そこのかごの中やわ。ほな、ゆっくり行こか」アホ雉。

「今、バカであるお前がすごくうらやましい。ゴホゴホ」ハリー。

「黙れ! で、どこへ?」すぺるん。

「ドロシーとかいう女の子のところや。それともいきなり教祖の部屋まで行くんか? まあ、順番やわな」

「おう、アホ雉、あっちの牢屋に閉じ込められてる人たちを助けようぜ」すぺるん。

「今はあかん。助けんのは後でや。何百人も脱走したらすぐにばれてしまうわ」

「師匠の杖ですよ」ハリーはかおりんに杖を渡した。

「私の杖、ありがとう」

 一行はナウマン教団の本拠地を探索する。

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